BCG不応性膀胱がん患者に新たな遺伝子治療(Syn3併用インターフェロンα-2b組換えアデノウイルス)が有望

MDアンダーソン OncoLog 2015年8月号(Volume 60 / Number8)

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膀胱がんに対して新たな遺伝子治療が有望

体内のインターフェロンを産生を刺激する遺伝子治療が、標準治療が奏効しない高リスク初期膀胱がんに対して有効となる可能性がある。

高リスクの筋層非浸潤性膀胱がん(すなわち、Tis、あるいはTaおよびT1で高グレードのがん)の患者で、標準治療であるカルメット・ゲラン桿菌(BCG)を用いた標準治療に抵抗性または再発したいわゆる「BCG不応例」には、今のところ治療選択肢が限られている。筋層浸潤がんに進展するリスクが高いため、安全性が最も高い治療選択肢は膀胱摘除となる。しかし、当然のことながら患者の多くは膀胱摘除を受けることを望まない。代替法としてセカンドライン治療があるが、BCG無効例に対して米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けている唯一の医薬品であるvalrubicinでは、長期の完全奏効が得られるのは患者の8%にとどまる。

「現在、BCG不応の高リスク筋層非浸潤性膀胱がん患者に対して、安全に膀胱摘除を遅らせるか回避できる救済療法はありません」テキサス大学MDアンダーソンがんセンター泌尿器科教授で学科長のColin Dinney医師は述べる。「だから、われわれも他の研究チームも、患者さんにとって安全な、膀胱摘除に代わる治療法を探すための臨床試験を始めているのです」。

数年以内に、セカンドラインの内科治療で効果が高い選択肢が現れる可能性がある。アデノウイルスを用いた新規の遺伝子治療で、膀胱内面を覆う細胞にインターフェロンα-2bを産生させるというものである。

新規治療への長い道のり

インターフェロンα-2b は抗癌効果が確立されているが、膀胱にインターフェロンを注入しても迅速に尿中に排出されてしまうため、膀胱がんに対しては効果が限られている。対照的に、遺伝子治療では膀胱内面を覆う細胞がインターフェロンを産生する結果、長期間インターフェロンに曝露されることになる。

Dinney医師と泌尿生殖器がん・泌尿器科教授のWilliam Benedict医師が所属する研究グループは、膀胱がんに有効な遺伝子治療の開発に何年も取り組んできた。彼らは、膀胱には遺伝子を含むベクターが容易に注入されて数分間保持でき、そのためベクターが膀胱壁と接触してうまくベクターが導入でき遺伝子が働くことが期待できることから、膀胱がんは遺伝子治療の理想的なターゲットとなると期待した。しかし、膀胱には感染を防御する抗菌・抗ウイルス層があり、遺伝子導入も阻止していることが見出された。

この問題は、アデノウイルスベクターの膀胱壁細胞への形質導入能を促進する界面活性剤であるSyn3により解決された。Benedict医師が開発したモデルマウスを用いた決定的な前臨床試験により、遺伝子ベクターを Syn3とともに導入した結果、腫瘍細胞と正常細胞の双方で効果的なベクター取込みとインターフェロン産生が示された。「膀胱は約1週間にわたってインターフェロンを産生するバイオリアクターのように働きました」 Dinney医師は述べる。

この前臨床試験では、Syn3で促進された新規遺伝子治療により、既存の膀胱がんに著しい縮小が認められ、そこには3種の作用機序が特定された。第1の作用機序は直接的な効果である。遺伝子を取り込んだ腫瘍細胞には、結果として産生されたインターフェロンタンパク質に制圧され死んだものがあった。第2の作用機序では、全腫瘍細胞の約20~25%にあたるインターフェロン感受性の腫瘍細胞が膀胱内でインターフェロンに長期間曝露されたためにアポトーシスを起こした。第3の、そして最も重要な作用機序はいわゆるバイスタンダー効果であり、尿中に排出されたタンパク質がインターフェロンに抵抗性の腫瘍細胞に対しても効果を発揮した。正常な尿路上皮細胞は、ベクターによる形質転換を受けてインターフェロンを産生しても、インターフェロンへの曝露により傷害をうけることはなかった。

この新規遺伝子治療は最先端の研究における最新の進歩であり、そのほとんどが、米国国立がん研究所のMDアンダーソンBladder Cancer Specialized Programs of Research Excellence(SPORE)補助金の助成を受けている。

早期臨床試験では有望

有望な前臨床試験に基づき、複数の施設の研究者らは、BCG膀胱内注入療法後に再発した筋層非浸潤性膀胱癌患者に対してインターフェロンα-2bの組換えアデノウイルス遺伝子治療とSyn3による第1相試験を実施した。この用量漸増試験に参加した17人の患者は、遺伝子ベクターとSyn3の膀胱内注入を1回受け、膀胱内に1時間保持した。治療後5日間は副作用の有無をモニターし、3カ月後に膀胱鏡検査を実施した。3カ月後に完全寛解となった患者に対しては、さらに1回の遺伝子治療が許可された。

本試験では用量規定毒性作用は認められなかった。全ての副作用はグレード1または2であり、最も多い副作用は尿意切迫であったが、抗コリン剤を事前投与することで最小限に抑えることができた。

最低用量での治療を行った患者を除く全ての患者で注入後10日間インターフェロンα-2bが尿中に検出され、効果的な遺伝子導入が確認された。尿中インターフェロンのピーク値は、投与したウイルス粒子数に対応していた。そして最も興奮することに、遺伝子治療3カ月後に実施した膀胱鏡検査で、参加患者17人中7人が完全寛解であることが判明した。完全寛解となった患者には、1回の投与量が少なくとも1 x 1010 viral particles/mLであった13人の中の6人が含まれていた。

第1相試験結果に後押しされ、Dinney医師らは、企業の支援を受けた多施設第2相試験を計画した。本試験は高グレードで筋層非浸潤性膀胱がんの患者を、Syn3と第1相試験で用いたインターフェロンα-2b遺伝子療法ベクターを最大量投与する群(3 x 1011 viral particles/mL)と2番目に投与量が多い群(1 x 1011 viral particles/mL)に無作為に割り付けた。膀胱内注入治療を初回1時間行い完全寛解となった患者は、3カ月毎に同用量の追加治療を3回まで、合計4回受けることができた。本試験は2012年11月に開始し、症例登録は1年あまりで完了した。

第2相試験の参加患者40人中23人にはBCG注入療法にも関わらず腫瘍が残存していた。また17人はBCG注入後腫瘍がなくなっていたが、その後再発した患者であった。5月に開催された米国泌尿器科学会年次総会で無監査の中間結果が発表され、今回40人全ての参加患者の結果が判明した。

包括解析(ITT解析)によって計算された高グレード無再発率は、6カ月後56%、12カ月後35%であり、これらは両群で同等であった。本研究ではさらに、乳頭状腫瘍のみ(TaまたはT1)の患者9人の12カ月後の無再発生存率は55%と、上皮内がん成分があった患者29人の30%より高いことを示した。本治療に関連する副作用は以下の3つのみであった。つまり、グレード2の単純性尿路感染、下痢の既往がある患者によるグレード3の下痢1件、尿路感染からの脱水によるグレード3の急性腎不全が1件である。

より規模の大きな試験が稼働中

第2相試験の成功をうけて、Dinney医師らは、BCG注入療法に不応の高リスク筋層非浸潤性膀胱がん患者に対する、Syn3を併用したインターフェロンα-2b組換えアデノウイルス遺伝子治療の第3相登録試験の立案をFDAと共に行っている。2016年初めに開始を予定しているこの試験には、35施設からおよそ100人の患者の参加が見込まれている。本試験には2つの斬新な特徴がある。第1は対照群がないことである。これは、現在承認されているセカンドライン製剤であるvalrubicinの効果が良くないためである。代わりとして全参加患者は遺伝子治療を受け、その結果は泌尿器腫瘍医とFDAにより承認された基準と比較される。第2は上皮内がん患者と高グレード乳頭状腫瘍患者の両方が交じっていることである。FDAは、これまでの膀胱がんに対する第3相試験では、これらの混合を認めていなかった。

この新しい遺伝子治療を承認するかどうかの判断基準は、まだ決まっていない。Dinney医師は、この基準は12カ月間の高グレード無再発生存率が最低でも25%と予想する。Dinney医師は、「valrubicinの3カ月完全奏効率はおよそ20%、長期奏効率は8%程度であるため、これは意味のあることであろう」と述べた。

立案中の第3相試験はまた、新しい遺伝子治療の奏効に関連するバイオマーカーも同定するであろう。泌尿器科教授のDavid McConkey博士と疫学科部長のXifeng Wu医学博士は、有望なバイオマーカーを同定するために、第2相試験患者の治療前・治療後の尿と組織標本を分析している。「将来有望なバイオマーカーの1つとしてこの臨床試験の標本で注目しているものは、アデノウイルス・インターフェロンが、尿または腫瘍、あるいはその両方でTRAIL(細胞障害性サイトカイン)の産生を促進しているかどうかと、尿中のTRAILレベルや尿中にTRAILが検出可能な期間が臨床効果と相関するかどうかである」とMcConkey医師は述べた。将来有望と思われるマーカーはすべて、この第3相試験でさらに調査されるであろう。

McConkey医師の研究室での研究により、インターフェロンαがヒト膀胱がん細胞において免疫のメディエーターであるprogrammed cell death ligand 1(PD-L1)の産生を上昇させることも明らかとなった。従って、PD-L1あるいはPD-L1の結合相手であるprogrammed cell death 1(PD- 1)の発現量に変化があるかどうかを治療前・治療後のサンプルで分析する。「免疫反応を制限するであろうPD-L1またはPD-1を阻害する抗体とアデノウイルスインターフェロンを組み合わせれば、より良い臨床活性が得られるかもしれないとの仮説を立てている」とMcConkey医師は述べた。

「BCG注入療法に不応で、高リスクな筋層非浸潤性膀胱がん患者に対する新たな治療には、紛れもなく『満たされていないニーズ』がある」とDinney医師は述べ、「現在行っている研究は、治療現場を変えることができるかもしれない」と続けた。

For more information, contact Dr. Colin Dinney at 713-563-7465 or Dr. David McConkey at 713-792-8591.

—Stephanie Deming

<膀胱癌>

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翻訳担当者 石岡 優子、野川 恵子

監修 榎本 裕 (泌尿器科/三井記念病院)

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