膀胱がんへの拡大リンパ節摘出術は生存転帰改善に差がないとの試験結果
外科医は、一部の膀胱がん治療法として、膀胱と周囲のリンパ節を摘出する。リンパ節を摘出すると、がんが骨盤内に再発する可能性が低くなる。
局所性筋層浸潤性膀胱がん患者が膀胱摘出手術を受ける場合、リンパ節を摘出する2つの方法がある。1 つの方法では標準的なリンパ節群を摘出するのに対し、もう 1 つの方法ではより広範囲の拡大リンパ節群を摘出する。
どちらの手術(郭清[かくせい]とも呼ばれる)も現在行われているが、直接比較した研究はほとんどない。2019年にドイツで行われた臨床試験の結果で、より広範囲のリンパ節手術を行っても、筋層浸潤性膀胱がん患者の生存期間は改善されなかった。
今回、NCIが支援する臨床試験で同様の結果が得られた。本研究において、拡大リンパ節手術は標準手術と比較して、がん再発や死亡のリスクを下げることはなかった。
この研究には、局所性筋層浸潤性膀胱がん患者約600人が参加し、膀胱摘出手術中に標準リンパ節手術群と拡大リンパ節手術群に無作為に割り付けられた。
中央値6.1年の術後追跡調査時点において、両群で全生存期間または無病生存期間に統計学的有意差はなかった。この研究結果は、10月2日にNew England Journal of Medicine誌で発表された。
さらに研究から、拡大リンパ節切除を受けた人では、手術後90日以内の重篤な副作用や死亡のリスクが高いことがわかった。
「われわれの研究結果は、拡大骨盤リンパ節郭清術に利点がないことを同様に示したドイツの試験の証拠を補強するものです」と、研究責任者であるSeth P. Lerner医師(ベイラー医科大学)は述べた。この研究はSWOGがん研究ネットワークが実施した。
両試験ともに、標準的なリンパ節手術は適切に実施されれば、ほとんどの患者にとって十分であることを示唆しているとAshish Kamat医師は指摘した。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの膀胱がん研究部門長である同医師は、研究参加者を登録した外科医の一人である。
Kamat医師は、今回の研究結果によって、外科医の間で、拡大リンパ節郭清の選択的実施への転換が進むことを期待していると述べた。
「少ない方がよいことはしばしばある」とKamat医師は続けた。「この研究は、拡大リンパ節郭清をしてもほとんどの患者では生存が改善するわけではなく、合併症のリスクが増すことを明確に示しています」。
常識に挑戦する
筋層浸潤性膀胱がんの患者では、診断時に膀胱付近のリンパ節にがん細胞がみられる場合がある。上述の2種類のリンパ節郭清術を比較した研究は限られているものの、より広範囲に及ぶ手術が多くの医療機関で標準となっている。
今回の研究結果は、外科手術が広く採用される前に科学的に厳密な研究を実施することの重要性を示していると、Lerner医師は指摘する。
「高いレベルの科学的エビデンスが不足している場合、私たちは従来の常識に疑問をもつべきです」と彼は言う。「私たちはランダム化試験でこれらの知識のギャップに対処することができます。そして、NCIの国立臨床試験ネットワークは、決定的な外科的試験を実施するのに最適な場です」。
ドイツのマルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク校のGeorgios Gakis医学博士と彼の同僚は、膀胱がんのリンパ節手術に関する研究のレビューで、ランダム化臨床試験は最高レベルの科学的証拠を提供すると記している。
今回のランダム化試験データから、標準的な骨盤リンパ節郭清で十分であり、このレベル以上に郭清範囲を広げても追加の利点は得られないとGakis博士らは結論付けた。
手術の範囲を広げても生存に差はなく、合併症はやや増える
SWOG試験には、米国とカナダの27施設から経験豊富な泌尿器がん外科医36人が参加した。各外科医の参加要件は、過去3年間で膀胱摘出手術 (根治的膀胱全摘除術)を50件以上行っていることであった。
中央値6.1年の追跡調査の後、研究者らは、参加者ががんの再発なく過ごした期間(無病生存期間)と生存していた期間(全生存期間)という2つの生存指標において統計学的に有意な差はないことを見出した。
推定5年無病生存率は、標準手術群で60%、拡大手術群で56%であった。また、5年生存率は、標準手術群で63%、拡大手術群で59%であった。
輸血を必要とする赤血球減少(貧血)や創傷合併症などの重篤な副作用は、拡大手術群でより多くみられた(54%対44%)。
膀胱腫瘍組織を分析して洞察を得る
次のステップとして、Lerner医師のチームは、試験参加者の多くから採取した膀胱腫瘍の組織サンプルを分析し、生存に関連する分子プロファイルを特定しようとしている。
2023年の科学会議でSWOG試験の結果を発表したLerner医師には、それ以降、同僚からフィードバックが届いている。
「いくつかの例外はあるものの、結果は広く受け入れられているようです」と同医師は述べた。「一部の外科医は、試験に参加した患者集団において、広範囲にわたるリンパ節郭清を行う必要がもうなくなったことに安堵感を表しています」。
Kamat医師は、新たな研究結果により「外科医が不必要な損傷を回避できるようになり、患者の回復が早まり、生活の質が向上する可能性があります」と予測した。
- 監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2024/11/06
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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