まれな遺伝子変異を有する膀胱癌患者はエベロリムスに例外的反応を示す

エベロリムスとパゾパニブ併用の第1相試験で進行性膀胱癌患者1人が14カ月間の完全寛解を得たため、患者の腫瘍ゲノムプロファイルを解析したところ、この例外的反応を引き起こしたと考えられる突然変異が2カ所明らかになったという研究結果が、米国癌学会(AACR)のCancer Discovery誌に掲載された。

この情報はエベロリムスに反応を示す癌患者の特定に役立つ可能性がある。

米国国立癌研究所(NCI)によると、例外的反応を得た患者とは、奏効した患者が10%に満たない臨床試験で、6カ月以上にわたり完全寛解または部分寛解を得た癌患者のことである。

「例外的反応を検討することによって、いくつかの抗癌剤に対し一部の癌が高い感受性を示す特異的な理由を理解するのに役立ちます」と語るのは、ダナ・ファーバー癌研究所の指導医であり、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるブロード研究所準会員のNikhil Wagle医師である。「われわれは、例外的な反応を示す患者にみられるものと類似した遺伝子変異を有する癌患者を特定し、同一の抗癌剤で治療するためにその情報を利用することができるのです」。

「われわれは、mTOR阻害剤エベロリムスと腎臓癌の治療に使用される別の薬剤であるパゾパニブの2種類の抗癌剤を用いた第1相試験を実施し、一人の患者が14カ月間にわたり膀胱癌の完全寛解に近い状態を得ました」とWagle医師は述べた。「われわれはその患者の癌の全エクソンシーケンスを行いました。われわれが驚いたのは、エベロリムスの標的であるmTOR遺伝子に生じた2カ所の突然変異を特定したことです」。

この第1相試験で研究者らは、標準的治療を実施したものの病状が進行した進行性固形腫瘍を有する患者9人(膀胱癌患者5人を含む)を組み入れ、1サイクルから13サイクルまでのエベロリムスおよびパゾパニブによる治療を実施した。

膀胱癌患者5人のうち1人が画像診断による評価で完全寛解を示し、その状態が14カ月間継続した。研究者らは患者の癌が劇的な反応を示した理由を解明するため、患者の腫瘍ゲノムを対象に約25,000個の遺伝子を含む全ゲノムのコーディング領域をシーケンスし、mTORの2カ所に生じた突然変異を特定した。

Wagle医師によれば、2つの突然変異(mTOR E2419KとmTOR E2014K)はそれまでヒトで確認されたことはなかったが、そのうちの1つは研究者らが酵母とヒト細胞株で十分検討してきたものであった。

Wagle医師らはこれら2つの突然変異の特性を明らかにするため研究室でさらに研究を重ね、2つの変異が、mTORによって媒介される細胞シグナル経路を活性化することを突き止めた。このような変異によって、その患者の癌が生き残るためにmTOR経路に依存するようになり、そのことがmTOR阻害薬エベロリムスに対する感度が極めて高くなった理由である可能性があるとWable医師は説明した。

今回の臨床試験の他の膀胱癌患者3人には、6カ月未満であるが病状安定が得られ、副腎癌の患者1人に13カ月間の長期にわたり病状安定が得られた。肺癌患者でこの試験から便益が得られた患者はいなかった。

「われわれの試験結果は、mTOR経路に発生する活性型ゲノム異常の一覧を作成する必要があることを示唆するものです」とWalgle医師は述べた。「このようなゲノム異常を有する癌をもった患者は、エベロリムスや他のmTOR阻害剤を用いた治療に特に適しているのではないかと思われます」。

この試験はさらに、癌の遺伝的特徴を標的とした治療法がどのようにして極めて効果的でありうるかを示した一例です。われわれの今後の目標は、このような遺伝的特徴をできるだけ多く洗い出し、その特徴を標的とするできるだけ多くの薬剤を手に入れることです。そうすることによって、われわれは患者に合った薬剤を投与することができます」と付け加えた。「さまざまな抗癌治療に驚くほどよく反応する患者がほかにも多数います。そのような患者を検討することが科学的にも臨床的にも大きな価値につながるでしょう」。

この研究はMIT・ハーバード大学ブロード研究所のNext Generation Fund、国立ヒトゲノム研究所(NHGRI;National Human Genome Research Institute)、グラクソ・スミスクライン社およびノバルティス社による資金提供を受けた。Wagle医師はFoundation Medicine社の株主でありコンサルタントである。

翻訳担当者 萬田美佐

監修 榎本 裕 (泌尿器科/三井記念病院)

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