進行膀胱がんにエンホルツマブ併用療法が新たな選択肢に

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

2件の大規模臨床試験の結果によると、進行膀胱がん患者に対する有効な治療選択肢が数十年ぶりに増えた。そのうちの1つの治療法、エンホルツマブ ベドチン(販売名:パドセブ)と免疫療法薬ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)の併用療法は、特に強力であることが証明された。

膀胱がんの第一人者である数人の専門家によれば、この研究結果は、ほとんど進展のなかった年月に続く、極めて重要な瞬間であるとのことである。両試験とも、膀胱がんが体の他の部位に転移しているか、手術で切除できない患者を対象としており、両試験とも免疫療法薬を用いたものである。

1件目の試験CheckMate-901では、患者は進行膀胱がんの初回治療として、標準化学療法を単独または免疫療法薬ニボルマブ(販売名:オプジーボ)との併用で受けた。

2件目の試験EV-302では、エンホルツマブ+ペンブロリズマブ併用療法を標準化学療法レジメンと比較した。エンホルツマブは抗体薬物複合体と呼ばれる治療薬の一種である。

両試験において、新たな併用療法を受けた人は化学療法だけを受けた人よりも長く生存した。これは、進行膀胱がんに対する標準的な初回治療と比較して、これまでにない改善であった。

研究者らは10月22日、マドリッドで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会で両試験の結果を報告した。

エンホルツマブ+ペムブロリズマブ併用療法による生存期間の改善は、化学療法と比較して2倍であり、ESMOでの結果発表で最大の賛辞を受け、スタンディングオベーションが起こるほどであった。

進行膀胱がん患者の生存を改善する2つの治療法を発見したことは、「われわれの分野では記念すべき出来事です」とNCI泌尿生殖器悪性腫瘍部門のAndrea Apolo医師は述べた。

化学療法を改善する試みは何度も失敗していたが、今回の2試験の結果を受けて、「患者にとって未来は明るい 」とApolo医師は述べている。

膀胱がん治療に待望の改善

過去10年間に多くの新しい免疫療法薬や分子標的薬が出現したにもかかわらず、プラチナ製剤(シスプラチンなど)を含む化学療法レジメンが、数十年にわたり、進行膀胱がんと診断された人々に対する標準初回治療とされてきた。しかし、ほとんどの患者では治療中あるいは治療後ほどなくがんが悪化する。

最近、免疫療法薬がこの疾患の治療に役立つ可能性がエビデンスで示され始めている。例えば2020年には、化学療法直後にアベルマブ(販売名:バベンチオ)を投与することで全生存期間が改善し、膀胱がんの新たな標準治療となったことが報告された。

また、その数年前には、化学療法後に悪化した進行膀胱がんの治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)はニボルマブに対して迅速承認を与えた。

CheckMate-901を主導し、EV-302試験に治験分担医師として参加したオランダがん研究所のMichiel S. van der Heijden医学博士によると、進行がんに対する初回治療の改善を目指す幾多の努力にもかかわらず、これまでの臨床試験で、化学療法単独と比較して患者の生存期間を延長させた治療法はなかった。

これらの先行試験では、免疫療法薬と複数の薬剤とのさまざまな組み合わせを化学療法単独と比較していたが、化学療法単独より有効であることが証明されたものはなかった。

今回、EV-302試験とCheckMate-901試験では、患者がより長く生きられるような適切な薬剤の組み合わせがみつかることを期待して、先行試験から学んだ教訓の一部を活かした。

抗体併用療法は化学療法なしで生存期間を2倍に延長

EV-302試験責任医師であるクイーン・メアリー(ロンドン大学)バーツがん研究所のThomas Powles医師は、ESMOでの試験結果発表の冒頭で、「これは膀胱がんに携わる私たちにとって重要な日です」と述べた。

エンホルツマブは、殺傷効果のあるペイロードを抗体を用いて膀胱がん細胞まで運ぶ標的療法薬であり、他の療法による治療にもかかわらず悪化した膀胱がんの治療薬として、2019年にFDAの迅速承認を受けた。2023年には、シスプラチンを含む化学療法を受けることができない進行膀胱がん患者の治療薬として、この薬剤に別の迅速承認が認められた。

どちらの迅速承認も、エンホルツマブを投与された一部の患者でがんの増殖が停止した、あるいはがんが完全に消失したことを示す初期段階の臨床試験に基づいている。

Astellas Pharma社とSeagen社の資金提供によるEV-302試験では、進行膀胱がん患者900人近くを、初回治療としてエンホルツマブ+ペムブロリズマブを受ける群または化学療法を受ける群に無作為に割り付けた。化学療法群の患者は化学療法薬投与を最大6回受けた。これらの患者の約3分の1はアベルマブも投与されたが、本試験では必須ではなかった。

全体として、エンホルツマブ+ペムブロリズマブ療法を受けた患者の約67%において腫瘍の縮小または増殖停止がみとめられたのに対し、プラチナ製剤ベースの化学療法を受けた患者では44%であった。

さらに、がんの完全消失(完全奏効)がみとめられたのは、エンホルマブ+ペムブロリズマブ群のほぼ30%であったのに対して、化学療法群では約12%であった。

ほぼ3分の1の患者で完全奏効が得られたことは、「これまでにみたこともない結果です」とPowles医師は述べた。

各群の大半の患者が治療に関連した副作用を経験した。エンホルツマブ+ペムブロリズマブ群で最も多かった副作用は、皮膚反応、手足の痛みやしびれなどであった。疲労、吐き気、赤血球と白血球の減少は化学療法を受けた患者でより多くみられた。

Powles医師らが参加者を中央値で約1年半追跡調査した結果、エンホルツマブ+ペムブロリズマブ群の患者の生存期間は化学療法群の約2倍となり、中央値でそれぞれ31カ月、16カ月であった。

EV-302試験では十分な人数の患者が今回の新たな併用療法に反応し続けたため、奏効期間の中央値を確定することはできなかった。30カ月以上経過した最長評価時点において、エンホルツマブ+ペムブロリズマブ併用療法を受けた患者の約40%は治療奏効が継続していた。しかし、患者をさらに長期間追跡する必要があるとApolo医師は述べている。

EV-302試験以前には、初回治療として化学療法を行った場合と比較して患者の生存期間を延長させた治療法はなかった、とPowles医師は述べた。

「この目標を達成したのは今回が初めてです」と続けると、ESMOの聴衆から拍手が沸き起こった。

ニボルマブがもたらす生存改善と長期寛解

ニボルマブの製造元であるBristol-Myers Squibb社が資金提供したCheckMate-901試験では、約600人の患者を初回治療としてニボルマブと化学療法(シスプラチンとゲムシタビン)を併用する群と化学療法単独群に無作為に割り付けた。

化学療法単独群では生存期間中央値が19カ月であったのに対し、ニボルマブの追加により約22カ月に延長した。この試験の結果はNew England Journal of Medicine誌にも掲載された。

完全寛解期間中央値は約3年で、化学療法単独群の寛解期間の3倍であった。また、ニボルマブを投与された患者の約5分の1が、治療開始から5年近く経過した最終評価時点でも寛解を維持していた。

新たな標準治療が重要な問題を提起

Apolo医師は、エンホルツマブ+ペムブロリズマブ併用療法を進行膀胱がん患者の初回治療としての新たな標準治療と呼んだ。

この併用療法により、がんが縮小または増殖停止した患者の割合は最も高くなり、患者が長生きする可能性が最も高くなったと同医師は指摘した。

エンホルツマブ+ペムブロリズマブ併用は、この疾患に対する最良の初回治療として「最上位に位置付けられます」と彼女は言う。

「しかし」と続ける。「新たな標準治療には疑問と課題が伴います」。

例えば、患者のがんがエンホルツマブ+ペムブロリズマブ併用療法に反応しなくなった場合、治療の順序はどうあるべきか、また、エンホルツマブとペムブロリズマブによる治療が終了した後、追加の免疫療法の役割はあるのか、などの問題である。これらの重要な疑問を解決するためには、さらなる研究が必要であるとApolo医師は述べた。

同医師はまた、進行膀胱がん患者においてエンホルツマブ+ペムブロリズマブ併用がなぜこれほど良好に作用するのかを理解することの重要性も強調し、生物学的な知識を深めることで新たな進歩がもたらされ、治療に対する耐性を防止する方法が明らかになるかもしれないと指摘した。

そして、「コストについても議論しなければなりません」とApolo医師は述べた。エンホルツマブとペムブロリズマブは高価であるため、治療を必要とする人々が確実に治療を受けられるようにすることが重要であると続けた。

とはいえ、これらの臨床試験の結果、特にEV-302の結果は新しい標準を打ち立てたと彼女は言う。エンホルツマブ+ペムブロリズマブ併用で、「レベルが上がった」。

  • 監訳 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2023/11/30

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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