術後ニボルマブ免疫療法は高リスク膀胱がんに長期的に有益

国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

手術で切除できる膀胱がんの一部の患者において、術後すぐに免疫療法を受けることが有効な治療法であることが、大規模臨床試験の更新結果で確認された。

2021年、同じ試験の最初の結果を受けて、食品医薬品局(FDA)は、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(オプジーボ)を、高リスク膀胱がんの患者に対する術後(アジュバント)治療として承認した。

この承認は、ニボルマブを術後1年間投与した場合、プラセボ投与と比較して、膀胱やその近傍、あるいは体内の他の場所でがんが再発せずに生存する期間(無病生存期間)が2倍であったというデータに基づいている。

2月17日に2023年米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿器系がんシンポジウムで発表された更新結果には、約3年間の追跡調査が含まれている。この結果によれば、ニボルマブ投与を受けた人の無病生存期間中央値は22カ月であったのに対し、プラセボ投与を受けた人では約11カ月であった。

PD-L1とは、ニボルマブが標的とする別のタンパク質と相互作用するタンパク質で、このPD-L1が腫瘍に発現している患者では、さらに良好な結果が得られた。この患者グループの無病生存期間の中央値は52カ月を上回っていた。

ASCOシンポジウムで更新結果を発表したMatt Galsky医師(マウントサイナイ大学アイカーン医科大学)によれば、この試験でニボルマブが最長1年間投与された。

「治療でがんを抑制するだけなら、治療を中止すると、がんが再び増殖し始める可能性があります」と、同医師は述べている。研究参加者の一部で長期無病生存が認められたことから、「(免疫療法が)一部の患者でがんを実際に根絶していると示唆されるかもしれません」。

再発のリスクが残る

膀胱の筋肉や近くのリンパ節に浸潤した膀胱がんは、膀胱とリンパ節の外科的切除で治癒する可能性もある。しかし、根治的膀胱全摘除術と呼ばれる、このような手術を受けた人の半数以上では、がん細胞がすでに体の他の場所に拡がって(転移して)いる。

このような転移したがんは、「小さすぎて(画像)スキャンでは見つかりません」とGals医師は言う。「しかし、時間が経つにつれて、がん細胞は成長し、分裂していきます。できれば、それを避けたいところです」。

膀胱がんの原発腫瘍近傍または遠隔部位での再発防止を目的とした臨床試験で検証されてきた主な戦略は、手術後に化学療法薬や免疫療法薬を投与するアジュバント療法であった。

シスプラチンという薬剤をベースにした化学療法レジメンは、診断時に転移がある膀胱がん患者で腫瘍を縮小することが知られていると、NCIがん研究センター泌尿器悪性腫瘍部門のAndrea Apolo医師は説明する。そのため、これらのレジメンは、手術で切除できる膀胱がんに対して、術前(ネオアジュバント療法)または術後(アジュバント療法)にしばしば用いられる。

しかし、多くの人はシスプラチンに耐えられないと彼女は付け加えた。「そして、副作用があるので化学療法は受けたくないという人も多いです」。

研究者らは、他のアジュバント療法選択肢を模索してきた。先行の臨床試験では、アテゾリズマブ(テセントリク)という別の免疫療法薬をアジュバント療法として試したが、無病生存の改善はみられなかった。

そのため、長年にわたり、ほとんどの人は膀胱がんの手術後、術後補助療法ではなく経過観察を行っていたとGalsky医師は説明する。経過観察とは、再発をできるだけ早期に発見するために、頻繁に画像診断を行いながら患者の様子をみることである。

しかし、先行研究で、ニボルマブが進行膀胱がん患者の腫瘍を小さくすることができるとわかったため、研究者らは、検出可能な転移のない患者を対象に、この薬をアジュバント療法として試験することにした。

病気の再発を長年にわたって防止

CheckMate 274試験は、Bristol Myers Squibb社と小野薬品工業が資金提供し、大規模な手術を受けた高リスクの筋層浸潤性膀胱がん患者700人以上が登録された。試験への参加要件として、シスプラチンをベースとしたネオアジュバント化学療法を受けたことがあれば参加可能であったが、アジュバント治療を受けたことがあれば参加不可とされた。

研究者らは、試験参加者をニボルマブまたはプラセボによる最長1年間の治療を受けるよう無作為に割り付けた。ASCOでの発表時点では、参加者は31カ月以上追跡されていた。

長期追跡期間中に観察された副作用の発生率は、最初の6カ月間の治療期間中とほぼ同じであった。1つ以上の重篤な副作用がみられた割合は、ニボルマブ投与群で約18%であったのに対し、プラセボ投与群では7%であった。ニボルマブ投与群353人のうち3人が、この薬に起因する副作用で死亡した。

全体として、中央値36カ月の追跡調査の後、ニボルマブを投与された人々が疾患の進行なく生存した期間は、プラセボを投与された人々の約2倍であった。

最初の発表の時点では、腫瘍にPD-L1が発現している人では、PD-L1が発現していない人と比べてニボルマブの有効性が高いことを示す証拠があった。しかし、無病生存期間中央値を算出するには時期尚早であった。

より長い追跡調査の結果、腫瘍にPD-L1が発現している人は、グループ全体と比較して、疾患が進行することなく2倍以上長く生存していることが判明した。

「この結果はすばらしいものですが、このタンパク質についてわかっていることや、ニボルマブへの感受性にどのように関わるのかを考えれば、想定外というわけでもありませんでした」とGalsky医師は話す。

しかし、「本試験に参加したすべての患者において、免疫療法を受けることによる有益性がありました」とも付け加えた。FDAの承認により、ニボルマブは、腫瘍がPD-L1を発現しているかどうかにかかわらず、高リスクの膀胱がん患者全員に使用できる。

アジュバント療法が必要な患者の特定

CheckMate 274の参加者については、ニボルマブを投与された人の全生存期間が延びるかどうかを調べるために、引き続き追跡調査が行われる。

全生存期間のデータは重要である、とApolo氏は説明する。「アジュバント療法による過剰治療が多くの患者に行われていることがわかっています」と言う。つまり、アジュバント療法を受けた人の多くは、手術だけで治っていた可能性がある。「しかし、そのような人たちを特定する方法はまだわかっていません」。

もし、アジュバント免疫療法には全生存期間延長の効果がないと判明すれば、がんが再発または転移してから投与する方が理にかなっていると、彼女は説明した。

NCIが支援する計画中の試験では、膀胱がん手術を受けた高リスクの患者のうち、実際にアジュバント療法が必要な患者と、それを受けなくても安全と思われる患者を血中循環腫瘍DNA検査で予測できるかどうかを、まもなく調べる予定であるとGalsky医師は述べている。

CheckMate 274では、ニボルマブ治療による参加者のQOL全般の低下は認められなかったものの、同剤を投与された患者はより多くの副作用を経験し、この治療によって数人の死亡者が出た。「治療が絶対に必要なわけではない患者を特定できれば、それは確かに理にかなっています」とGalsky医師は述べた。

他の免疫療法薬も、高リスクの膀胱がん患者のアジュバント療法として試験が行われているとApolo医師は述べる。例えば、NCIの研究者らは、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)と手術後の経過観察とを比較する試験(AMBASSADOR試験)の参加者の治療を終えたところである。

将来的には、ニボルマブを手術前および手術後に投与することで、再発のリスクをさらに下げられるかどうかの検証にも研究者は関心を持っている、とGalsky博士は説明する。最近の研究では、ペムブロリズマブを手術の前後に投与することで、メラノーマ(悪性度の高い皮膚がんの一種)患者の一部で再発リスクが低下することが明らかになっている。

「膀胱がんで同じことが起きるかどうか、みてみましょう」とGalsky医師は述べた。

  • 監訳 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2023年3月21日

【この翻訳は、米国国立がん研究所 (NCI) が正式に認めたものではなく、またNCI は翻訳に対していかなる承認も行いません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】"

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