術前ペムブロリズマブ免疫療法が高リスク メラノーマの予後を改善
術後まで待つことなくペムブロリズマブを術前に開始することにより、ステージ3-4のメラノーマ(悪性黒色腫)患者の見通しを大幅に改善
アブストラクト番号:LBA6
がん組織を除去する手術の前後に免疫療法薬ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)を投与された高リスクのメラノーマ患者は、術後にのみ同薬を投与された同疾患の患者よりも、がんの再発リスクが有意に低いことが明らかになった。
本結果は米国国立がん研究所(NCI)が資金提供するがん臨床試験グループSWOG Cancer Research Networkの研究によるもので、2022年9月11日にパリで開催される欧州腫瘍学会(ESMO)2022年大会のプレジデンシャルシンポジウム(アブストラクト番号LBA6)で発表される。
このS1801試験は、SWOGメラノーマ委員会の議長であり、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのメラノーマ内科腫瘍学准教授であるSapna Patel医師が主導した。
「何を投与するかだけでなく、どのタイミングで投与するかが重要です。S1801試験は、切除可能なメラノーマに対する治療を術前に行うことで、より良い結果が得られることを明らかにしました」とPatel医師は述べた。「今回は免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブを使用しました。この治療で免疫反応を生じさせるためには、体内でがん細胞に接触するT細胞が存在することが必要ですが、メラノーマ(とともに腫瘍特異的T細胞の大部分)が除去される前に治療を開始すれば、術後に投与するよりも大きな反応を得られることがわかりました」。
ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害剤の作用機序は、腫瘍細胞に対する免疫系の反応の「ブレーキを外す」と表現されることが多い。S1801試験の研究者らは、メラノーマ摘出後ではなく、腫瘍が体内にある間にペムブロリズマブを投与すれば、免疫系が主に微小転移がん細胞に反応するために抗腫瘍免疫反応が大きく、免疫記憶が長くなるのではないかと仮定した。
この仮説を検証するため、S1801試験では、手術可能と判断されたステージ3Bからステージ4のメラノーマ患者345人を登録した。18~90歳の参加者は、先に手術を受けた後にペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに合計18回投与(術後療法)する群と、手術前にペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに3回投与(術前療法)し、手術後にさらに15回投与する群に無作為に割り付けられた。
測定する主要評価項目は無イベント生存期間であり、無作為に割り付けられてから次のいずれかが発生するまでの期間と定義された。手術が受けられないほどの病勢進行もしくは毒性発現、手術後84日以内に術後療法を開始できない、術後のメラノーマ再発、または何らかの原因による死亡。
追跡期間は中央値14.7カ月で、術前療法群は術後療法群と比較して無イベント生存期間が有意に長くハザード比は0.58であったが、これは術前療法を受けた患者のイベント発生率が42%低いことに相当する。
「われわれの研究では、術前療法の無イベント生存期間が術後療法と比較して有意に改善しました」とPatel医師は述べた。「重要なことは、術後のペムブロリズマブ開始前のイベント数は両群で差がありませんでしたが、術後療法開始後のイベント発生率は、術後群の方がより高かった(より悪かった)ことです」。
術前療法による効果は、患者の年齢、性別、パフォーマンスステータス、病期など様々な要因にかかわらず一貫していた。また、有害事象(副作用)の発生率は本試験の両群で同様であり、ペムブロリズマブの術前療法は手術に関連する有害事象を増加させないことも明らかになった。
「S1801試験の知見に基づき、高リスクのメラノーマ患者は、メラノーマの大部分と抗腫瘍T細胞が無傷のうちに免疫反応を生じさせるために、手術前に免疫療法を開始すべきです 」とPatel医師は述べた。「今後の研究では、手術および術後療法に対するデエスカレーション戦略や、術前療法に反応しないメラノーマの患者に対するアプローチも検討できます」。
S1801試験は、米国国立衛生研究所(NIH)の一部門であるNCIが支援し、SWOGが主導し、NIHが出資する全米臨床試験ネットワーク(NCTN)が実施するものである。
S1801試験は、NIH/NCIから資金提供を受けており(grants CA180888、CA180819、CA180821、CA180868)、また一部はメルク社(ニュージャージー州ラーウェイ、米国)の子会社メルクシャープアンドドーム社から、NCIとの共同研究・開発契約を通じて資金を受けている。ペムブロリズマブ(キイトルーダ)は、メルク社のanti-programmed death receptor-1(抗PD-1)治療薬である。また、本試験はNIH/NCIの支援(grant UG1CA233329)を受けている。
S1801試験にはPatel医師のほかの研究者は原文記事参照のこと。
また、S1801試験チームには、故Valerie Guild氏とSamantha Guild氏が参加し、試験の開発と実施において患者の声を代弁しました。
日本語記事監訳:辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター)
翻訳担当者 奥山浩子
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
皮膚がんに関連する記事
ニボ+イピ併用で転移メラノーマの長期生存は劇的に改善
2024年10月22日
【ASCO2024年次総会】メラノーマ:術前のニボルマブ+イピリムマブが術後療法単独より転帰を改善
2024年6月24日
FDAが切除不能または転移を有する悪性黒色腫にリフィリューセルを迅速承認
2024年5月11日
進行メラノーマに初の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法をFDAが承認
2024年3月14日