TIL療法が進行性メラノーマの無増悪生存を改善、初の第3相試験結果【ESMO2022】
- ・細胞療法による固形がん患者の転帰の改善を示した初めてのランダム化試験
- ・腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法に無作為に割り付けられた患者は、標準治療を受けた患者と比較して、疾患の進行または死亡が50%減少した
- ・この試験結果は、さまざまな転移性固形がん患者の治療法の改善と治癒の可能性への期待を高めるものである
進行メラノーマ(悪性黒色腫)患者において個別化細胞療法を用いた新しい治療方法は、標準免疫療法と比較して無増悪生存期間を著しく改善するという画期的な結果が第3相M14TIL試験⁽1⁾で示され、欧州臨床腫瘍学会(ESMO) 2022で報告された。
「この試験は、固形がん患者に対する細胞療法が有効で有益であるという可能性をランダム化比較試験で初めて示しました」と、筆頭著者であるオランダがん研究所(オランダ、アムステルダム)のJohn Haanen氏は述べた。「メラノーマ患者の疾患進行や死亡の発現率を50%低減することができ、間違いなく診療のありかたを変えるものです。これは、TILベースのアプローチを標準治療であるイピリムマブ(販売名:ヤーボイ)と直接比較した初めての例です。そのため、転移性メラノーマ患者の治療状況においてTIL療法をより良い位置に置くことができます」。
「TIL療法は特別な治療法です」とローザンヌ大学病院およびルートヴィヒがん研究所(スイス、ローザンヌ)のGeorge Coukos氏は述べた。同氏は今回の試験には参加していない。「TILはがん治療の新たなパラダイムであり、今回の試験の結果が明確に示すように、有効性が高く大規模に実現可能です。この発見は転移性固形がんの治療および治癒の可能性への期待を高めるのもです」。
この治療法では、患者から切除した腫瘍から少量の検体を採取し、研究室で腫瘍からの免疫T細胞を増殖させた後、個別化されたTILを化学療法後の患者に注入することが基本的に必要となる。TILは腫瘍細胞を異常なものと認識し、腫瘍細胞に侵入して死滅させる。
第3相M14TIL試験では、切除不能のステージ3c~4期メラノーマ患者168人を抗CTLA-4抗体であるイピリムマブによる免疫療法またはTIL療法に無作為に割り付けた。ほとんどの患者は事前の抗PD-1治療が無効であった。この試験の結果は以下の通りである。TIL療法を受けた患者の無増悪生存期間中央値は7.2カ月で、イピリムマブ投与群の3.1カ月と比較して有意に長かった。奏効率はTIL療法群で49%、イピリムマブ投与群で21%であった。全生存期間中央値はTIL療法群で25.8カ月、イピリムマブ投与群で18.9カ月であった。これらの結果は、2022年ESMO会議において初めて報告された。全生存期間については、現在も経過観察中である。
PD-1阻害剤のニボルマブ(販売名:オプジーボ)およびペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)、CTLA-4阻害剤のイピリムマブなどのチェックポイント阻害剤の開発により、転移性メラノーマ患者の治療法の選択肢はこの10年間で大きく変化した。これらの薬剤は、免疫系の自然なブレーキを解除し、体内に備わる免疫細胞が腫瘍細胞を認識し攻撃できるようにする。「これらの薬剤は、非常に良好な安全性プロファイルと非常に高い有効性を有しており、現在では一次治療としてしばしば患者さんに提供されています。しかし、一次治療が無効であった場合、特に抗PD-1薬が無効だった場合は患者さんの選択肢は非常に少なく、治療の必要性の高い疾患です」とHaanen氏は説明した。さらに「われわれの試験では、89%の患者さんは抗PD-1療法が無効でした」と付け加えた。残りの患者は抗PD-1療法が承認される前に試験に参加していた。
抗PD-1療法が無効であった患者におけるTIL療法の奏効の機序を調査する中で、Haanen氏は「抗PD-1療法に対する耐性の機序は大部分が腫瘍の微小環境によるものだと考えています。TILを自然な環境から取り出し、研究室で再活性化させ非常に多くの数に増殖させて患者さんに投与することで、一部の回避機序を克服することができます。これが、われわれが解明しつつあることであり、こうしなければTILはこのような自然な環境では機能しません」と示唆した。
グレード3以上の有害事象がTIL療法を受けた全患者に発現し、イピリムマブ投与群に無作為に割り付けられた患者の57%に発現したが、Haanen氏は「これらの副作用は管理可能であり、TIL療法後、患者さんが退院するまでにほとんどが解消します」と明言した。また、ほとんどの副作用は、TILレジメンの一環として患者が受ける化学療法や、インターロイキン-2などの他の治療法に関連するものであると、同氏は付け加えた。TIL療法の影響について、Haanen氏は「TILは幅広い固形がん患者さんに恩恵をもたらす可能性があり、肺がん、子宮頸がん、頭頚部がんなどの多くのがん腫で臨床試験が進行中です」と締めくくった。
Haanen氏は、この試験はオランダとデンマークの研究者により実施され、企業は一切関与していないと説明した。研究者たちは現在、TIL療法が商業的な圧力を受けずに、これまで通り手の届く価格で利用できることを確実にするため、EMAからの承認取得に取り組んでいる。
「この第3相試験の結果により規制当局の承認を得られる可能性があり、このことは臨床のあり方を変えるでしょう」とCoukos氏は述べた。「承認されれば、この治療法を検討している国は、TIL療法を患者さんに提供できる施設を設立し、進行性メラノーマに対する2次治療としてのTIL療法の可能性を確立することができるでしょう」。
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参考資料 (1)LBA3 ‘Treatment with tumor infiltrating lymphocytes (TIL) versus ipilimumab (IPI) for advanced melanoma: results from a multicenter, randomized phase 3 trial’ will be presented by John Haanen during Presidential Symposium 1 on Saturday, 10 September, 16:30 to 18:00 CEST in Paris Auditorium. Annals of Oncology, Volume 33 Supplement 7, September 2022
監訳:中村 泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)
翻訳担当者 三宅 久美子
原文掲載日
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