術後ペムブロリズマブ療法でステージ2B/Cメラノーマの無再発生存期間が延長

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2021プレスリリース

術後補助療法ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)はプラセボと比較して再発のリスクが35%減少することが、ステージ2のメラノーマ(悪性黒色腫)を対象とした初のランダム化第3相臨床試験で示された。このKEYNOTE-716試験の最新結果は本年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表された。(1)

ステージ2Bおよびステージ2Cのメラノーマ患者は深部浸潤または潰瘍性の原発腫瘍を有している。これらの患者の数はステージ3Aおよびステージ3Bのメラノーマの患者と同程度であり、再発や死亡のリスクも同程度である。同等のリスクがあるにもかかわらず、現在の標準治療は、ステージ2Bおよびステージ2Cのメラノーマが経過観察、ステージ3Aおよびステージ3Bのメラノーマが術後補助療法である。

今回の結果について、ESMO Congress 2021のメラノーマおよびその他の皮膚腫瘍部門の議長を務める、Cedars-Sinai系列のAngeles Clinic and Research Institute(米国ロサンゼルス)の研究/免疫腫瘍学部門長のOmid Hamid医師は次のように語る。「米国食品医薬品局(FDA)は現在、ステージ2Bおよびステージ2Cのメラノーマの術後補助療法として本剤を評価しており、承認されれば、患者の治療(手術後)の初期段階で免疫療法を導入することになります。これにより、患者の再発や転移を防ぐことができる可能性があります。この試験は成人だけでなく12歳以上の小児や青年も対象としていることに注目することが重要です」。

KEYNOTE-716試験では、ステージ2Bおよびステージ2Cのメラノーマを完全に切除し、リンパ節転移のない976人の患者を、PD-1阻害剤であるペムブロリズマブまたはプラセボに無作為に割り付け、手術後最長1年間投与した。経過観察の中央値14.4カ月の時点でペムブロリズマブはプラセボと比較して無再発生存期間を有意に延長し、ハザード比は0.65であった。

「今回の結果は、術後補助療法の対象となるメラノーマ患者集団の定義を大きく変えることになるでしょう」と、本試験の著者である、UPMCヒルマンがんセンター(米国ピッツバーグ)のがん免疫治療センター長のJason J. Luke氏は語る。「歴史的に、手術後の高リスク患者をリンパ節転移陽性の患者と定義してきました。原発巣の浸潤の深さや潰瘍の状態が、再発や転移のリスクや術後補助療法を行うかどうかについての重要な情報となることが今回の試験で示唆されました。将来的には、センチネルリンパ節生検をリスク層別化にどのように組み込むかを再考する必要があるでしょう」。

14.4カ月の経過観察中、再発した患者はプラセボ投与の82人(16.8%)に対しペムブロリズマブ投与の54人(11.1%)であり、遠隔再発はプラセボ投与(38件)に対しペムブロリズマブ投与(23件)でほぼ半減した。「これまで、早期メラノーマはあまり再発せず、これらの患者は転移しないという考えがありました。今回のデータはその考えを明確に否定するものであり、高リスクのステージ2のメラノーマの患者は、ステージ3Aやステージ3Bの患者と同じように急速かつ離れた部位で再発することを示しています。ペムブロリズマブによる治療は統計学的に有意に再発を減少させ、これらのステージ2の患者に術後補助療法を提供すべきであることを示しています」とLuke氏は指摘した。

Luke氏はステージ2での術後補助療法を差し控えた理由の一つとして副作用の可能性を強調した。「利用可能な治療が高用量インターフェロンとイピリムマブ(販売名:ヤーボイ)しかなかった頃は、どちらの場合も重篤な有害事象の発生が50%を超えており、早期ステージの患者には耐えられませんでした。しかし、現在、抗PD-1治療はより魅力的なリスク/利益比をもたらす治療法であり、この試験の結果を考慮すると、患者にこの治療法を提供すべきだと思います」。

今回の試験で今後の研究のベンチマークが確立されたとLuke氏は語る。「経済的制約や個別化医療の世界で最終的に誰を治療すべきかを正確に把握したいと考えています。今回の試験はそのような分子レベルの研究を行うための基盤となるものです。さらに、プラセボ群で再発した患者が、ペムブロリズマブで治療された成績を通じて、外科手術直後にペムブロリズマブで治療するのが効果的なのか、メラノーマが再発するまでペムブロリズマブの投薬を待つのが効果的なのか、いずれ答えが出るでしょう」と語る。

ステージ2Bおよびステージ2Cのメラノーマにおける術後補助療法の投与頻度と期間についても評価すべきだとHamid氏は強調した。「免疫療法ではありませんが、より短期間の治療が最良のリスク/利益比をもたらすことが他のステージ2の固形腫瘍おける術後補助療法の研究で示唆されています。KEYNOTE-716試験の患者は1年間の治療を受けましたが、グレード3または4の毒性の発生率はわずかであっても、副作用はこれらの患者のライフスタイルに大きな影響を与える可能性があります」。

さらに、これらの患者に抗PD-1療法を行うことで全生存率が向上するかどうかを確認するには、より長期の経過観察が必要であると付け加えた。「また、ステージ2Bおよびステージ2Cの患者に抗PD-1療法を行うことが、再発したステージ3の患者にとってどのような意味を持つのかを明らかにする必要があります」とHamid氏は語る。「転移性疾患で現在使用しているレジメンのいくつかは、ステージ3の疾患で早期に術後補助療法として移行する可能性があると予測されます。現在進行中の臨床試験では、ステージ3における新しい組み合わせ、例えば、VEGF標的療法やペグ化IL-2、または抗LAG-3抗体と抗PD-1療法の併用療法などを標準的な抗PD-1単剤療法と比較して検討しています」。

参考文献
1. LBA3_PR ‘Pembrolizumab versus placebo after complete resection of high-risk stage II melanoma: Efficacy and safety results from the KEYNOTE-716 double-blind phase III trial‘ will be presented by Jason J. Luke during Presidential Symposium 1 on Saturday, 18 September, 15:05 to 16:35 (CEST) on Channel 1. Annals of Oncology, Volume 32, 2021 Supplement 5

翻訳担当者 松長愛美

監修 中村泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター 皮膚腫瘍科・皮膚科)

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