非選択での自己腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)療法が転移性メラノーマに早期の臨床効果

進行メラノーマ(悪性黒色腫)患者において、非選択的に採取した自己腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を用いた治療が早期に臨床効果を示した。この結果が、4月10日~15日に開催されたAACRバーチャル年次総会2021第1週に発表された。

「メラノーマは治療法が進歩しているとは言え、疾患が進行している場合、長期間生存できる患者はごく一部にすぎず、標準治療を受けた後で進行すれば治療選択肢はほとんどありません」と、本研究著者のRobert Hawkins氏(医学博士、Instil Bio Inc.社の最高戦略顧問、マンチェスター大学クリスティ病院の腫瘍内科名誉教授兼医長)は述べる。「現在、メラノーマ患者の多くは、初回治療で免疫チェックポイント阻害薬治療または分子標的治療を受けますが、その後、疾患が進行した時に効果的な治療法が必要とされています」。

前述したTIL(腫瘍浸潤リンパ球)治療では、患者のT細胞が抗腫瘍反応を示すことを確認してから、腫瘍の断片からT細胞を採取する。こうして選択的に採取されたT細胞を体外で拡大培養し、リンパ球枯渇状態となった患者に再注入する。一方、Hawkins氏らの手法は若干異なる。腫瘍に対して測定可能な反応性を示す断片から採ったTILを拡大培養するだけではなく、腫瘍全体を分解処理してから、切除検体に含まれるすべてのTILを採取し拡大培養するのである。このプロセスにより、第1世代TIL生成物に必要な長い作成プロセスが短縮されるだけでなく、最終生成物に最大限広範なTCR(T細胞受容体)反応性をもたせることができる。また、選択工程を省くことで、TCR特異性以外の理由で選択されなかったネオアンチゲン反応性T細胞も回収し、注入することが可能になるとHawkins氏は説明する。 

「作成期間が短い若いTIL(腫瘍浸潤リンパ球)ほど、患者のがんに対する反応性が高いことが先行研究で示されています。今回の非選択的プロセスは、前述の方法と比べて作成期間が約半分になると同時に、包括性が高いため、より広範な反応性が見込まれる、若く適合性の高いTILをつくることができます」と説明する。この作成プロセスは、選択的技法よりも効率的であるため、タイムリーな治療選択肢が必要な転移病巣を有する進行期患者にとっては、前述のTIL法よりも有用性が高い可能性がある、とHawkins氏は述べている。

Hawkins氏らは、高リスクの転移性メラノーマ患者21人に対してコンパッショネートユース(未承認薬の人道的使用)による治療を実施した。患者の90%以上は、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けたことがあり、50%以上は、BRAF阻害薬単剤あるいはMEK阻害薬との併用による治療などの分子標的治療を受けたことがあった。各患者の転移性腫瘍の小片を切除、分解処理し、切除時に検体に存在していた腫瘍浸潤リンパ球(TIL)をすべて分離した。これらの分解組織は、後で使用するために冷凍保存することもできる。作成完了後、患者はリンパ球除去化学療法を受けた後、TIL生成物とともに、TILの体内増殖と活性を促すサイトカインであるインターロイキン2(IL-2)を高用量で投与された。

患者21人のうち、15人はRECIST 1.1に基づくコンピュータ断層撮影(CT)または磁気共鳴画像(MRI)により連続的に評価され、残りの6人はRECISTに基づかない画像(陽電子放射断層撮影(PET)など)と臨床モニタリングにより評価された。追跡調査期間中央値は52.2カ月であった。

画像診断で評価された患者において、客観的奏効率は53%で、約13%の患者(2人)が完全奏効を示した。病勢コントロール率は73%で、うち3人(20%)は病勢安定であった。RECISTに基づかない画像診断で追跡調査を行った患者において、持続的奏効が認められ、そのうちの2人は寛解状態が続く完全奏効(1人は4年以上、もう1人は7年以上)を示した。治療を受けた患者全体の客観的奏効率は67%であり、19%(21人中4人)が完全奏効を示した。

本試験のTIL療法に伴う有害事象は、メラノーマに対する他のTIL療法臨床試験で観察されたものと同様であった。具体的には、リンパ球除去化学療法に起因する一過性の血球減少、IL-2に起因する発熱、頻脈、悪寒などの症状があった。Hawkins氏によれば、これらの副作用は支持療法にて解消した。

本試験著者であるZachary Roberts氏(医学博士、Instil Bio社チーフ・メディカル・オフィサー)は、「今回の結果は、進行メラノーマ患者に対するTIL療法のこれまでの結果と比較して遜色がなく、心強いものです」と述べる。Roberts氏によれば、同様の患者集団を対象としたTIL療法臨床試験を評価した最近のメタ解析による推定客観的奏効率および完全奏効率はそれぞれ41%、12%であった。

今回の試験は、コンパッショネートユース(未承認薬の人道的使用)での治療として、非選択的自家培養TILについて単一施設で試験を行う小規模患者数の研究であり、このことが本試験の限界を表している。「今回の結果を検証するためには、前向きな臨床試験が必要であり、現在計画中です」とRoberts氏は述べている。

本試験はコンパッショネートユース・プログラムであり、患者の治療費は、英国医療サービス(NIH)や民間の医療保険など、さまざまな資金源から提供されました」とHawkins氏は説明する。細胞治療作成設備の新設にかかる初期資金は、マンチェスター大学を通じて提供された。データ解析は、Instil Bio Inc.社が行った。

Hawkins氏とRoberts氏は、Instil Bio Inc社に雇用されており、同社の株式を保有している。

翻訳担当者 山田登志子

監修 中村泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター 皮膚腫瘍科・皮膚科)

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