腫瘍遺伝子変異量による免疫反応予測はメラノーマ患者の男女間で異なる可能性

腫瘍遺伝子変異量(TMB)は女性のメラノーマ患者では免疫チェックポイント阻害薬による治療への反応性を正確に予測していたが、男性患者ではそうではなかったという研究結果が、4月10日から15日米国がん学会(AACR)2021バーチャル年次総会の第1週に発表された。

2020年6月、米国食品医薬品局(FDA)は、腫瘍遺伝子変異量(TMB)が高い進行固形腫瘍の成人および小児患者の治療に、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の使用を承認した。FDAは、腫瘍に100万塩基あたり10以上の変異がある(TMB > 10 mut/Mb)患者を治療の対象とするという閾値を設定した。

初期の研究では、TMBが高いと、免疫チェックポイント阻害薬に対する反応が良好になる可能性があり、その反応は男性と女性で異なる可能性が示唆された。「免疫チェックポイント阻害薬で治療する患者を選択する際に、TMB>10 mut/Mbという閾値が性別に与える影響があるとすれば、それはどのようなものかを調べる必要がありました」と、本研究の筆頭著者であり、米国国立がん研究所(NCI)の一部であるがん研究センター・がんデータサイエンス研究所所属のNeelam Sinha氏(理学修士)は述べる。

研究チームは、スローンケタリング記念がんセンターのMSK-IMPACT検査のデータを分析した。抗PD1またはPD-L1単剤療法を受けた患者1,286人、抗CTLA4単剤療法を受けた患者99人、このうちの2剤の併用療法を受けた患者255人のデータを調べた。また、50人以上の患者のTMBおよび臨床反応のデータがある9つのがん種に絞った。

その結果、これまでの報告と同様に、メラノーマの女性患者のTMBは中央値6.51 mut/Mb、男性患者のTMBは中央値11.81 mut/Mbであった。

TMBが10 mut/Mbを超えていた女性患者は、この閾値以下であった女性患者に比べて、免疫チェックポイント阻害薬投与後の全生存率が81%向上した。一方、TMBが10 mut/Mbを超える男性患者と10 mut/Mbを下回る男性患者では、治療効果に有意な差は認められなかった。

また、TMB>10 mut/Mbの閾値を用いて解析したところ、抗CTLA4療法、異なる化学療法、または併用療法への反応に男女間の有意差は認められなかった。

他のがん種の解析では、膠芽腫の女性患者は、現行のTMB閾値に基づいた免疫チェックポイント阻害薬に対する反応が良好であるという同様の傾向がみられたが、統計学的有意性はなかった。これは、サンプルサイズが小さかったためと考えられる、と共著者で、同じくがん研究センター・がんデータサイエンス研究所に所属し、メリーランド大学の生物科学大学院博士課程に在籍するSanju Sinha氏は述べている。

「まず、TMB > 10 mut/Mbは現在、メラノーマ患者がペムブロリズマブ投与を受けるための要件ではないことに留意することが重要です。しかし、臨床医は患者の治療法を検討する際に今もこの閾値を参照している可能性があるため、この性差に対する認識を高めることが重要です。第二に、膠芽腫や原発不明がんなどのがん種では、現在、FDAのTMB基準が適用されています。したがって、TMB閾値の使用で性差が生じる可能性があるかどうかを慎重に評価するために、より多くのデータを収集する必要があります」とSanju Sinha氏は述べる。

著者らは、本研究の結果から、免疫療法反応の予測因子としてのTMBの有用性を十分に評価するためには、さらなる研究が必要であると述べている。

Neelam Sinha氏は次のように述べる。「免疫療法に対する患者の反応には多くの要因が関与しているため、奏効予測因子としてのTMBの価値は全体的に、ほどほどといったものです。現在のTMB閾値により性差が生じるのであれば、バイオマーカーとしての使用にはさらなる精査が必要です」。

Neelam Sinha氏は、今回の研究結果が、性別だけでなく、人種、民族、社会経済、文化の違いを含む、がん健康格差に関する研究に貢献できると述べている。「医療における性差という長年の課題に対処することは、男女均等の治療機会につながり、男女ともにメリットがあります」。

本研究は、がんデータサイエンス研究所所長であるEytan Ruppin医師・医学博士の監修 のもとに行われ、米国国立がん研究所のIntramural Research Programの支援を受けている。 兄弟である両著者は、利害関係のないことを表明している。

翻訳担当者 外山ゆみ子

監修 高光恵美(生化学、遺伝子解析)

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