糞便微生物移植が進行メラノーマに対するペムブロリズマブの奏効を改善

NCIプレスリリース 

免疫療法が効かないがん患者の一部に対し、糞便移植により腸管内微生物の組成(腸内細菌叢または腸内フローラとして知られている)を調整することで、免疫療法の効果が得られる可能性があることが、新たな試験で示された。同試験は、米国国立衛生研究所の一部である国立がん研究所(NCI)がん研究センターの研究者と、ピッツバーグ大学のUPMCヒルマンがんセンターの研究者が共同で実施した。

この試験では、免疫療法薬の一種である免疫チェックポイント阻害薬による治療に当初は奏効を示さなかった進行メラノーマ患者に対し、同薬剤に奏効した患者から得た糞便細菌叢を移植したところ、一部において免疫チェックポイント阻害薬に対する奏効が認められた。この結果から、患者の大腸に特定の糞便微生物を導入すると、腫瘍細胞を認識して殺傷する免疫系の機能を高める薬剤に患者が奏効するようになる可能性が示唆されている。本知見は、Science誌に2021年2月4日付けで掲載されている。

「近年、PD-1阻害薬やPD-L1阻害薬と呼ばれる免疫療法薬は、特定の種類のがんを有する多くの患者に有益ですが、奏効を示さないがんを有する患者の治療に対しては、新たな戦略が必要とされています」と、NCIがん研究センター統合がん免疫学研究所の主任であり、本研究の共同リーダーであるGiorgio Trinchieri医師は述べている。「今回実施した試験は、腸内細菌叢の組成を変化させると免疫療法の奏効が改善することを実際の患者で確認した最初の試験のうちの1つです。この試験のデータは、腸内細菌叢ががん治療の標的になりうるという概念を証明しています」。

Trinchieri医師は、免疫療法に対する腫瘍抵抗性を克服するのに重要な特定の微生物を明らかにし、それに関与する生物学的機序を調べるため、試験をさらに実施する必要があるとも述べている。

免疫系、および化学療法や免疫療法への奏効は、腸内の細菌群やウイルス群に影響される可能性があることが試験では示唆されている。一例として、免疫療法に奏効しない担がんマウスに対し、免疫療法に奏効を示したマウスから特定の腸内微生物を移植すると、免疫療法に奏効し始めることが過去の研究で明らかになっている。

腸内細菌叢が変化することで免疫療法抵抗性腫瘍の微小環境が「再プログラム」され、免疫療法の治療効果が高まる可能性がある、とTrinchieri医師は述べている。

Trinchieri医師らは、糞便移植の安全性を検証するとともに、同移植により免疫療法に対して良好な反応が得られるかを検証するため、進行メラノーマ患者を対象とした小規模な単群臨床試験を実施した。試験に参加した患者の腫瘍は、免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)やニボルマブ(販売名:オプジーボ)の単独投与または他の薬剤との併用投与による治療を1回以上行っても奏効を示していなかった。免疫チェックポイント阻害薬は、腫瘍細胞に対する免疫系の攻撃の抑制を解除する。

今回行われた試験では、ペムブロリズマブに奏効を示した進行メラノーマ患者から採取した移植用糞便から感染性病原体が伝播しないようにするための分析が行われた。移植用糞便は生理食塩水などで処理され、大腸内視鏡下で患者の大腸に投与された。その後、各患者にペムブロリズマブも投与された。

治療後、当初はペムブロリズマブやニボルマブに対して奏効がみられなかった15人のうち6人が奏効を示し、腫瘍縮小または長期的な病勢安定のいずれかが認められた。そのうち1人は、部分奏効が2年を超えて持続し、現在、経過観察が行われている。その他4人は現在も治療中であり、1年にわたって病勢進行は認められていない。

治療の忍容性は良好であったが、疲労など、ペムブロリズマブに関連した軽度の有害反応が一部の患者で認められた。

この試験では、試験に参加した患者全員の腸内細菌叢を分析した。T細胞と呼ばれる免疫細胞の活性化や、免疫チェックポイント阻害薬への反応に関連する細菌数の増加が、がんが安定または改善した患者6人で認められた。

さらに、体内のタンパク質や代謝物のデータを分析することで、移植に反応した患者の生物学的変化も観察した。結果の例をあげると、免疫療法に対する抵抗性に関連する免疫系分子が減少し、反応に関連するバイオマーカーが増加していた。

本試験の知見に基づき、今回得られた結果を確認し、今後、腸内細菌叢を変化させる治療が最も有益となる可能性の高い患者の選択に使用できる生物学的マーカーを特定するために、より大規模な臨床試験を実施すべきであると研究者らは述べている。

「免疫療法に奏効しない患者がどの腸内細菌群によって奏効するようになるのか、今後の試験で明らかにされることを期待しています」と、本試験の共同筆頭著者であるNCIがん研究センターのAmiran Dzutsev医学博士は述べている。「そうした細菌群は、薬剤に奏効する患者や、健康なドナーに由来する可能性があります。免疫療法の奏効に重要な微生物を特定できれば、糞便移植をせずに、そうした微生物を必要とする患者に直接投与することも可能になるかもしれません」と同氏は付け加えている。

本臨床試験は、ペムブロリズマブの製造販売を行うメルク社と共同で実施された。

参考文献
1. Davar D, Dzutsev AK, McCulloch JA, et al. Fecal microbiota transplant overcomes resistance to anti–PD-1 therapy in melanoma patients. Science. February 4, 2021. DOI: 10.1126/science.abf3363

翻訳担当者 重森玲子

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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