メルケル細胞がんに術前抗PD-1療法ニボルマブが有望な可能性

免疫「チェックポイント」阻害剤による治療がメルケル細胞がんに対して有用であることが多施設共同臨床試験で判明

世界初と考えられる進行性の皮膚がん患者を対象とした術前免疫療法の安全性を評価した試験で、研究者らは手術を受けた試験参加患者の約半数で、治療により病理学的ながんの痕跡が消失したことを報告している。奏効が認められる患者では、この治療法により手術の範囲を縮小できる可能性があり、また、手術後にしばしば起こる再発の遅延および防止が期待できる。

ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所およびジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者が、ワシントン大学シアトルがんケアアライアンスおよび米国と欧州の10の医療センターと共同で実施したメルケル細胞がん臨床試験の報告書が、4月23日付のJournal of Clinical Oncology誌に掲載される予定である。また、ブルームバーグ・キンメル研究所の専門家による追加レビュー論文が、1月31日にScience誌に掲載され、がん治療の早期に免疫チェックポイント阻害剤治療を行うことの潜在的な戦略的価値を指摘している。

メルケル細胞がんは、米国国立がん研究所の「希少疾患」に分類されており、米国では年間約2,000人がメルケル細胞がんと診断されている。一般的には、高齢者や免疫システムが抑制されている人の皮膚に、赤、青、または肌色のしこりとして現れる。メルケル細胞がんの約80%は、メルケル細胞ポリオーマウイルスと呼ばれるウイルスによって引き起こされる。残りの症例は、太陽やその他の紫外線への曝露や未知の要因と関連している。メルケル細胞がんは、リンパ系や他の臓器に転移する可能性がある。これまでは手術、放射線治療、化学療法が治療の柱であった。しかし、切除可能な時期を超えて進行したメルケル細胞がんに対して、これまで生存期間を延長できる治療法は存在していなかった。最近、免疫チェックポイントであるPD-1とPD-L1を阻害する薬剤が、進行した手術不能なメルケル細胞がんに有効であることが示され、治療法として米国食品医薬品局(FDA)に承認された。

「一部の進行した患者では、メルケル細胞がんは抗PD-1免疫療法に非常に迅速に反応するようである」と、筆頭著者であるジョンズホプキンス大学ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所のアソシエイトディレクターであるSuzanne Topalian医師は述べている。「これに基づいて、いわゆる術前療法として、術前に短期間抗PD-1剤を投与することで効果が得られるかどうかを検証することにした。この術前療法によりCTスキャンまたは外科的に摘出された腫瘍検体の病理検査で腫瘍が大幅に縮小した患者で、統計学的に有意な無再発生存期間の延長が認められた。したがって、術前の抗PD-1療法後の画像上および病理所見上の腫瘍の縮小は、患者の長期予後を予測する新しい早期のマーカーとなる可能性がある。これは、患者の治療戦略を計画するがん専門医にとって重要な情報である」

本試験で使用された免疫療法剤であるニボルマブは、免疫応答を抑制する免疫細胞表面にあるPD-1分子を阻害することで、メルケル細胞がんをはじめとしたがんに作用する。がん細胞は、PD-1のパートナー分子であるPD-L1を発現させることでPD-1を操作し、免疫系に「停止」シグナルを送る。このシグナルをニボルマブなどのチェックポイント阻害剤でブロックすると、「免疫機能促進」シグナルが送られ、免疫細胞が活性化され、がん細胞を攻撃する。

ウイルス関連がんを対象としたニボルマブの第1/2相試験CheckMate 358では、手術可能なメルケル細胞がん患者に抗PD-1薬240mgを試験の1日目と15日目に静脈内投与し、29日目に手術が予定された。

この試験はこの治療法でのニボルマブの安全性と忍容性を評価することを主要な目的として計画された。また、治験医師は、CTおよびMRIスキャンを用いて腫瘍縮小を評価し、外科的に摘出された腫瘍内のがん細胞残存の有無を顕微鏡的に確認した。また、治療前の生検組織を用いてメルケル細胞がんの原因となるポリオーマウイルスの存在、遺伝子変異量(腫瘍に認められる遺伝子変異の量)およびPD-L1タンパク質の発現の有無を調べた。

ステージIIA~IVのメルケル細胞がん(局所進行またはリンパ節や内臓に転移している)患者39人が、2016年1月から2019年3月までの間にニボルマブの投与を少なくとも1回受けた。手術を受けた36人のうち、17人(47%)が病理学的完全奏効(手術組織のどこにも生きた腫瘍細胞がない)を達成した。また、手術を受けた患者で画像検査結果がある33人のうち、18人(54.5%)に少なくとも30%の画像上の腫瘍縮小が認められた。これらの所見はいずれも無再発生存期間の延長と有意に相関していた。追跡期間中央値は20カ月間であった。

Topalian医師は、「4週間という短期間のニボルマブ治療後の病理所見上および画像上の腫瘍縮小率は、手術前に抗PD-1治療が試みられた他のがん腫と比較して非常に高いものである」と述べている。「例えば、肺がんでは、術前抗PD-1単独療法後の病理学的完全奏効率は15%であり、メラノーマでは19~25%であると報告されている。さらに、このような短期間の治療による腫瘍の実質的な病理学的縮小は、他のがん腫では通常認められない」と述べている。

手術を受けた36人の患者の無再発生存率は、手術12カ月後で77.5%、24カ月後で68.5%であった。しかし、完全な病理学的奏効が認められた患者の無再発生存率は、12カ月後に100%、24カ月後に88.9%であったのに対し、完全な病理学的奏効がなかった患者の無再発生存率は12カ月後に59.6%、24カ月後に52.2%であった。同様に、術前に病理学的な腫瘍が実質的に縮小した患者は、本試験の他の患者と比較して無再発生存期間が延長した。一部の患者における術前ニボルマブの無再発生存期間に対するこれらの効果は、従来の治療に関するこれまでの報告と比較してベネフィットがあると考えられる。

39人の患者のうち3人(7.7%)は手術を受けなかったが、1人は腫瘍の進行が原因で、2人はニボルマブの副作用が原因であった。治療関連の有害事象は39人中18人(46.2%)で発生し、最も一般的なものは皮疹であった。3人の患者(7.7%)に免疫関連の大腸炎を含む重篤な有害事象が発現した。有害事象の特徴は、他のがん腫の患者における抗PD-1薬について以前に報告されたものと類似していた。

Topalian医師は、本試験は比較的小規模なものであり、比較対照群が設定されていないことに注意を促している。実際、本試験ではすべての患者が同じ治療を受けた。しかし、「これらの知見は、メルケル細胞がんを対象とした術前抗PD-1療法の大規模試験を実施する根拠となり、実臨床に変化をもたらす可能性があると考えている」と述べている。

Topalian医師は、「われわれの知る限りでは、本試験は、外科的に完全切除可能であるメルケル細胞がん患者における術前抗PD-1療法の役割を検討した初めての試験である」と述べている。「これまで、これらの患者の多くは、標準的な外科的治療や術後の治療を受けた後に再発することがわかっている。手術時に腫瘍をすべて摘出したと思っていても、多くの患者で腫瘍はすでに体の他の部位に転移しており、画像検査では検出できないほど転移部位は微小である」

この研究は、ブルームバーグ・キンメル研究所とワシントン大学シアトルがんケアアライアンスの研究者が共同し、米国およびヨーロッパの他の10の医療センターと協力して実施された。ブルームバーグ-キンメル研究所のチームには、Topalian医師、William Sharfman医師、Julie Stein医師、Elizabeth Engle理学修士、Janis Taube医師・理学修士が含まれていた。

一方で、Topalian医師、ジョンズホプキンス大学の同僚Taube医師、ブルームバーグ・キンメル研究所のディレクターであるDrew M. Pardol医師によるScience誌に掲載されたレビュー論文で、研究者たちは、術前の免疫チェックポイント阻害剤の使用に関する科学的・医学的知見をまとめた。これには、ジョンズホプキンス大学で実施され、2018年のNew England Journal of Medicine誌に掲載された、非小細胞肺がんを対象とした術前PD-1抗体に関する最初の報告や、他の研究グループによるメラノーマ、膀胱がん、脳腫瘍における免疫チェックポイント阻害剤の追加研究が含まれている。Topalian医師によると、乳がんや頭頸部がんを含む他のがん腫で知見が得られつつある術前抗PD-1の研究はさらに多くあるという。

がんの予防といえば、一般的にはがんの発生を防ぐことを意味する、とTopalian医師は言う。「しかし、これらのネオアジュバント免疫療法の研究は、早期のがんが末期になるのを予防する可能性があることを示している。これは非常に価値のあるアプローチだと考えている。根治手術の前に免疫チェックポイント阻害剤を使用することで、患者によっては手術が不可能となる病期への進行を防ぐことができるかもしれない。この分野でさらに多くの情報が得られることを期待している」と述べている。

本メルケル細胞がん試験の予備的な結果は、2018年の米国臨床腫瘍学会で発表された。この試験に参加した他の施設は以下のとおり。Levine Cancer Institute, Atrium Health, of Charlotte, N.C.; Winship Cancer Institute of Emory University, Atlanta; Université de Paris, Saint Louis Hospital, Paris; Institut Claudius Regaud, Toulouse, France; Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York; H. Lee Moffitt Cancer Center and Research Institute, Tampa, Fla.; SLK-Clinics, MOLIT Institute, Heilbronn, Germany; University of Pittsburgh Medical Center Hillman Cancer Center; University Medical Center Utrecht, Cancer Center, the Netherlands; and the University of Michigan Comprehensive Cancer Center, Ann Arbor, Mich.。本試験のスポンサーであるBristol Myers Squibb社の社員も共著者に含まれている。

本研究は、Bristol Myers Squibb社と小野薬品工業の支援を受けた。ジョンズホプキンスで行われた科学的相関研究の一部は、The Mark Foundation for Cancer ResearchおよびNational Cancer Institute R01 grant CA142779の支援を受けた。著者らは、本論文公表に関して金銭的な支援や報酬を受けていない。

Science reviewは、以下の団体による支援を受けた。Johns Hopkins Bloomberg~Kimmel Institute for Cancer Immunotherapy, the National Cancer Institute (R01 CA142779), the Cancer Research Institute/Stand Up To Cancer-Immunology Translational Cancer Research Grant, Bristol Myers Squibb, the Barney Family Foundation, Moving for Melanoma of Delaware, the Laverna Hahn Charitable Trust, the Melanoma Research Alliance, the Harry J. Lloyd Charitable Trust, the Emerson Collective Foundation, and the Mark Foundation for Cancer Research。

Topalian医師自身またはその近親者は、Aduro Biotech、DNAtrix、Dragonfly Therapeutics、Ervaxx、Five Prime Therapeutics、RAPT Therapeutics、Potenza Therapeutics、Tizona Therapeutics、Trieza Therapeutics、WindMILの株式およびその他の所有権を所持している。Topalian医師は、Amgen、Compugen、DNAtrix、Dragonfly Therapeutics、Dynavax、Ervaxx、Five Prime Therapeutics、RAPT Therapeutucs、Immunocore、Immunomic Therapeutics、Janssen Oncology、MedImmune、Merck、Tizona Therapeutics、WindMILからコンサルティングまたはアドバイザー料、Bristol Myers Squibb、Compugen、Potenza Therapeuticsから研究資金、Bristol Myers Squibb、Dragonfly Therapeutics、Five Prime Therapeutics、Merckから旅費、宿泊費および経費、Aduro Biotech、Arbor Pharmaceuticals、Bristol Myers Squibb、Immunomic Therapeutics、NexImmune、WindMILから特許使用料を受け取っている。これらの関係は、ジョンズホプキンス大学の利益相反ポリシーに従って管理されている。

翻訳担当者 後藤若菜

監修 中村泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター 皮膚腫瘍科・皮膚科)

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