免疫チェックポイント阻害薬で脳転移を有するメラノーマの生存が改善

脳転移を有する皮膚メラノーマ(悪性黒色腫)(MBM)患者では、チェックポイント阻害剤を用いた初回治療により全生存期間の中央値が1.4倍延長したことが、米国がん学会 の機関誌であるCancer Immunology Research誌に掲載された全国コホート調査の結果から明らかになった。

「チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法は、進行メラノーマ患者の治療法に革命をもたらし、多くの患者で治療効果が持続するようになりました」とブリガム&ウィメンズ病院/ハーバード大学医学部の 病理部門の博士研究員であり、ダナファーバーがん研究所に所属するBryan Iorgulescu医師は述べた。「しかしながら、実際は脳転移発生率が高いにもかかわらず、過去に行われたチェックポイント阻害剤を用いた免疫療法の臨床試験の多くは、脳転移を有するメラノーマ患者がほとんど含まれていませんでした。そのため脳転移患者に対する魅力的な治療であるチェックポイント阻害剤の生存期間への有益性は依然として不明でした」。

Iorgulescu医師らは、全米がんデータベース(NCDB)から収集したデータを評価した。このデータベースには、米国で新たに診断されたがん患者の約70%の情報が含まれる。彼らは、2010年から2015年の間に脳転移を有する2,753人のステージ4メラノーマ患者の特徴、治療および全生存期間を分析した。さらにこれらの患者をMBMのみの病変(脳転移を有するが身体の他の部位には転移がない患者:39.7%)および身体の他の部位にも転移病変を認めるMBM患者(60.3%)の2群に分けて分析した。

全体として、米国食品医薬品局(FDA)によるチェックポイント阻害剤の承認後にこれらの治療を受けたMBM患者の割合は、2011年の10.5%から2015年の34%に上昇した。多変量解析の結果、初回治療としてチェックポイント阻害剤を用いた免疫療法を受けたMBM患者では、全生存期間の中央値が5.2カ月から12.4カ月へと延長し、1.4倍の改善に相当した。さらにこの治療では、本患者群の4年全生存率が11.1%から28.1%に上昇し、1.5倍の改善に相当した。

MBMのみの患者はより顕著な結果を示した。初回治療としてチェックポイント阻害剤を用いた免疫療法により、全生存期間中央値が7.7カ月から56.4カ月へ延長し、4年全生存率も16.9%から51.5%に上昇した。

Iorgulescu医師らは、MBM患者がより若年である場合、合併症が少ない場合、または民間医療保険ないしメディケアによる医療保険に加入していた場合(加入していない場合と比較 )に、チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法を受ける可能性が高いことも見出した。

「歴史的に、他の固形がんと同様、メラノーマの中枢神経系(CNS)転移に対する治療手段の大半は、患者にとって最小限の利益しかもたらしませんでした」と、Iorgulescu医師の指導者でもあるダナファーバーがん研究所神経腫瘍センターの臨床部長で、ハーバード大学医学部教授David A. Reardon医師は述べた。「われわれの分析結果は、免疫チェックポイント阻害剤が、CNSを含む転移性メラノーマに有益な治療効果があることを示しています。同時に、すべての患者が恩恵を受けるわけではなく、CNS転移病変に対する抗腫瘍免疫応答の可能性を最大限に利用するためにはまだ多くの研究が必要であることを示しています」。

「全国的ながんデータを使用することで、これらの魅力的な新しい治療法がメラノーマ脳転移の患者にもたらす生存への影響を初めて評価することが可能となりました。これはわれわれが毎日臨床現場で直面している、重要であるものの以前は答えられなかった疑問に答えるのに役立つ大規模なデータであることを際立たせています 。」とブリガム&ウィメンズ病院/ハーバード大学医学部脳神経外科Computational Neuroscience Outcomesセンター部長で、統括著者であるTimothy Smith医学博士(公衆衛生学修士)は述べた。

Iorgulescu医師は、今回のNCDBを用いた研究の限界として、患者の初期診断時以降のデータが欠如していることを説明した。したがって、ここに報告された結果は、初期診断時の症状以降に出現するMBMの大部分には適用されない可能性がある。また、NCDBには使用した免疫療法剤の種類に関する詳細な情報がない。Biochemotherapeutics(生化学療法剤)も 免疫療法として分類されているとはいえ、2011年のFDA承認後のNCDBに分類されている免疫療法の大部分がチェックポイント阻害剤を用いた免疫療法であることが示される必要がある。

Iorgulescu医師は米国国立衛生研究所の支援を受けている。Iorgulescu医師は利益相反がないことを宣言する。

翻訳担当者 橋本奈美

監修 中村泰大(皮膚腫瘍科・皮膚科/埼玉医科大学国際医療センター)

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