免疫チェックポイント阻害剤に対する年齢の影響
免疫チェックポイント阻害剤は、がんに対する免疫応答の制御を解除する薬剤であり、進行したメラノーマ(悪性黒色腫)の一部の患者には驚くほどよく作用するが、その他の多くの患者にはまったく作用しない。臨床医や研究者は、良好な反応を示す可能性が最も高い患者の特定に役立つ因子を熱心に探求している。
今回、研究者らは、メラノーマ患者がチェックポイント阻害剤に対してどれだけよく反応するかに関連する可能性のある単純な特徴を発見したと考えている。つまり、年齢である。
500人を超える患者の分析で、メラノーマの高齢患者は若齢患者よりもチェックポイント阻害剤治療がよく奏効するようであることを研究者らは見出した。マウスでのフォローアップ研究により、そのパターンは、メラノーマ腫瘍内にみられる免疫細胞の種類が年齢とともに変化することが一因である可能性が示唆された。
研究者はまた、若齢患者のチェックポイント阻害剤に対する反応を改善するため、可能性のある戦略を明らかにした。若齢マウスにおいて、チェックポイント阻害剤を投与する前に、ある種の免疫細胞を除去する薬剤を投与すると、マウスの反応が大幅に改善した。この併用治療法は「若齢患者に大きな利益をもたらすかもしれない」と、研究者らは6月13日付のClinical Cancer Research誌で述べた。
この研究に参加していないNCIがん治療評価プログラムのElad Sharon医師(公衆衛生学修士)は、知見は興味深いが予備的であり、臨床医は免疫療法へのアプローチをまだ変更すべきではないと述べた。
年齢は免疫療法への反応に影響する
フィラデルフィアのウィスター研究所のAshani Weeraratna博士が率いる研究チームは、世界中の複数のがんセンターにおいて免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブ(キイトルーダ)による治療を受けた転移性メラノーマ患者のデータを評価した。
ペムブロリズマブ治療後に腫瘍が縮小(奏効した)または疾患が安定した患者は、62歳以上のほうが62歳未満よりも多かった(63%対51%)。研究者らによれば、同様のパターンは男女ともに認められ、また、メラノーマ腫瘍で変異していることが多い遺伝子に対する分子標的療法の治療歴の有無とは無関係に認められた。
研究者らによれば、患者がペムブロリズマブ治療に対して抵抗性である確率は10歳ごとに13%ずつ低下したという。
研究者らは、メラノーマ腫瘍を移植したマウスでも同様のパターンを認めた。チェックポイント阻害剤を投与したところ、老齢マウスでは腫瘍増殖が遅延したが、遺伝的に同一のメラノーマ腫瘍を有する若齢マウスでは遅延しなかった。
これらの結果は驚くべきことであったとWeeraratna博士は述べた。なぜなら免疫系の活性は一般に年齢とともに低下するからである。しかし「この[臨床]データはさまざまな[がんセンター]から得たものなので、年齢による影響の頑健性が確かに示されました」と、同博士は述べた。
Sharon博士は、この知見により、チェックポイント阻害剤治療に「奏効する患者と奏効しない患者の違いを把握するためのさらなるトランスレーショナルリサーチが必要とされます」と述べた。
メラノーマ腫瘍内の免疫細胞
細胞傷害性T細胞は、感染細胞およびがん細胞を認識して殺傷する免疫細胞の一種である。これらの細胞は抑制されなければ健康な組織に損傷を与える可能性があるため、その活性は制御性T細胞として知られる別の種類の免疫細胞によって厳重に制御されている。
しかし、制御性T細胞の保護的役割は、制御性T細胞が免疫療法を妨げる可能性があることも意味する。例えば、制御性T細胞は、チェックポイント阻害剤によって誘発される抗がん作用を持つ細胞傷害性T細胞の活性化を妨げることができる。最近の研究によると、腫瘍に含まれる制御性T細胞が細胞傷害性T細胞よりも少ない患者は、免疫療法に対してより良好な反応を示すことが示唆された。
Weeraratna博士の研究チームが若齢マウスと老齢マウスの双方のメラノーマ腫瘍を検査したところ、腫瘍内の免疫細胞の総数は同程度であった。しかし、若齢マウスの腫瘍は、老齢マウスのものより制御性T細胞が多く細胞傷害性T細胞が少なかった。研究チームは、マウスの他の臓器に存在するT細胞については、この年齢に関連した変化を認めなかった。
さらに、200人を超える別の患者群のメラノーマ腫瘍検体を分析したところ、若齢患者の腫瘍も、高齢患者のものより制御性T細胞が多く細胞傷害性T細胞が少なかった。
この知見から、細胞傷害性T細胞の活性は、若齢患者のメラノーマ腫瘍内の制御性T細胞によって抑制され、その結果、免疫チェックポイント阻害剤の有効性を制限することが示唆されると、研究者らは述べた。
研究者らは、マウスで制御性T細胞と細胞傷害性T細胞の割合を変更すると、チェックポイント阻害剤に対する反応が変化するのではないかと考えた。確認のために、制御性T細胞を除去する薬剤、チェックポイント阻害剤、または両方の薬剤を同時に若齢マウスに投与した。単独で投与した場合、制御性T細胞を除去する薬剤もチェックポイント阻害剤も、対照と比較して腫瘍増殖を遅延させた。しかし、2つの薬剤の併用は、腫瘍増殖を遅延させる上でさらに有効であり、毒性のある副作用を引き起こさなかった。
なぜ高齢患者は若齢患者よりもメラノーマ腫瘍内の制御性T細胞が少ないのかは明らかにされていない。高齢者では他の臓器により多くの制御性T細胞が存在する傾向があるため、研究者らは、メラノーマ腫瘍への制御性T細胞の動員が、加齢に伴って特異的に減少する可能性があると仮説を立てた。
フォローアップ研究では、研究者らはこのプロセスにおける皮膚の構造の役割を研究している。「皮膚には、非常にしっかりした、明らかなマトリックスがありますが、年を取るにつれて分解し始めます。このことも、免疫細胞が(メラノーマ腫瘍に)移動する経路に影響を与えていると考えられます」と、Weeraratna博士は述べた。
また、皮膚に常在する特定の種類の制御性T細胞があるとWeeraratna博士は説明した。「これらのT細胞も年齢とともに変化すると思われるので、これについてもわれわれは探究しています」と同博士は語った。
例えば、肺や胃の腫瘍にみられるT細胞に年齢がどのように影響するかは、まったく異なる可能性がある、と同博士は付け加えた。
自己免疫反応に関する懸念
制御性T細胞の重要な役割は、偶発的に健康な組織を攻撃する細胞傷害性T細胞の活性を抑制することである。したがって、一部の研究者は、制御性T細胞を除去する治療法によって、これらの「自己反応性」細胞傷害性T細胞が健康な組織に攻撃を開始できるようになり、自己免疫疾患を引き起こす可能性があると懸念している。
しかし、これまでのところ、そのような作用は観察されていない。少数の小規模な臨床試験において、制御性T細胞を除去する薬剤は自己免疫応答を引き起こさなかった。しかし、このような薬剤の1つであるdaclizumab[ダクリズマブ](Zinbryta[ジンブリタ])は、最近、脳毒性に関する懸念から販売中止となった。
Sharon博士によれば、現在進行中のいくつかの試験では、免疫療法併用下で他のT細胞を除去する薬剤の有効性を評価しているという。例えば、NCIが資金を提供する第2相臨床試験の責任医師らは、免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブ(オプジーボ)併用下で使用すると制御性T細胞を除去するとみられる薬剤であるvarlilumab[バルリルマブ]を試験している。
同じくNCIが支援する別の試験では、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者の治療において、ペンブロリズマブ(キイトルーダ)併用下で制御性T細胞を除去する薬剤であるモガムリズマブ(ポテリジオ)を評価している。両試験の責任医師らは、参加者の腫瘍の生検標本の検査により、治療反応における制御性T細胞の役割を検討する予定である。
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