肥満の転移メラノーマ男性患者では生存期間が2倍

予想外の結果を受けて、ホルモンの影響を含めた根本原因の調査が始まる。

分子標的薬または免疫療法薬で治療された肥満の転移性メラノーマ(悪性黒色腫)患者は、ボディマス指数(BMI)が標準の患者よりも生存期間が有意に長いとの研究結果が、Lancet Oncology誌で発表された。この研究は、独立した6群の臨床コホートでの1,918人の患者を対象とした。

筆頭著者のJennifer McQuade医師(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター・メラノーマ腫瘍科指導医)によれば、「肥満のパラドックス」と呼ばれるこの効果は主に男性に現れた。

「肥満男性は、BMIが標準の男性に比べ、一貫してはるかに転帰良好で、全生存期間がほぼ倍でした」とMcQuade医師は述べた。この研究において、BMIで標準、過体重、または肥満と判定された女性間では生存期間に有意な差はみられなかった。

「問題は、肥満男性のこの優位性がどのような根本メカニズムによって生じているのか、そして悪性黒色腫患者の転帰を改善するためにそれを利用できるかということです」とMcQuade医師は言う。「1つのヒントは、肥満と性別と転帰の相関性かもしれません。これは、どの種のがんでもこれまで確認されていません」。

女性の転移性メラノーマ患者は男性よりも良好な転帰になることが以前から知られているとMcQuade医師は指摘する。この研究では、男性の生存期間の不利を肥満が克服した。そこで、研究者らは今後、この効果における性ホルモンの影響の可能性を研究していくことになる。

関連性は因果関係を示してはいない(研究者のノートより)が、より深く研究すべき新たな領域を示唆している。

「この結果は、肥満が良いことだという公衆衛生上のメッセージではありません。肥満は、多くの病気の危険因子であることが実証されています」とMcQuade医師は述べた。「当院の転移性メラノーマ患者集団でも、患者が意図的に体重を増やすことは推奨していません。私たちは、何がこのパラドックスを引き起こしているのかを理解し、その情報を用いて全患者が便益 を得られる方法を知る必要があります」。

世界保健機関(WHO)によれば、肥満は、13種のがんを発症させる既知の危険因子であり、喫煙を抜いて、がんの予防可能な原因の最上位に挙げられている。すでにがんを発症している患者の肥満と生存期間の関係には一貫性がみられない。最近の研究では、大腸がんまたは腎臓がんの肥満患者で同様の生存期間の延長が示されている。

肥満は不利益であると予想されていた

IGF-1/PI3K/AKTと呼ばれる発がん分子経路の活性化に肥満が関与することを示す研究などに基づき、研究チームは、肥満がメラノーマ患者に有害であることが確認されると予想していた。

ピボタル試験(重要で中枢的な試験) において分子標的薬、免疫療法薬、または化学療法で治療された独立した6群のコホートの患者について、BMI指数(体重を身長で割った値)と無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)との関連性を分析した。なお、これらのピボタル試験で各薬物のFDA承認が得られた。

包括的なメタアナリシスでは、群全体でPFSとOSでの優位性が認められたが、肥満に関連する生存期間の延長は、分子標的薬または免疫療法薬を受ける男性のみでみられた。ここで、肥満男性は、BMI標準の男性に比べて死亡のリスクが47パーセント低かった。

男性において全生存期間が2倍に延長

ダブラフェニブ(BRAF阻害薬 )とトラメチニブ(MEK阻害薬)の併用標的療法を受けた599人の患者の結果は以下のようであった。

・標準BMI 18.5~24.9-無増悪生存期間(PFS)中央値 9.6カ月、全生存期間(OS)中央値 19.8カ月
・肥満BMI 30以上-無増悪生存期間(PFS)中央値 15.7カ月、全生存期間(OS)中央値 33.0カ月

年齢、性別、ステージ、疾病負荷、特定の変異、および前治療などの因子を含めた多変量解析でも、BMI標準の患者に比べて肥満がPFSとOSを改善することが示された。

研究チームは、結果を男女別に分析し、男性でのみ有意な差を確認した。

・標準BMI男性-無増悪生存期間(PFS) 7.2カ月、全生存期間(OS) 16.0カ月
・肥満男性-無増悪生存期間(PFS) 12.8カ月、全生存期間(OS) 36.5カ月

対照的に、女性は、BMIに関係なく、例えば全生存期間中央値が33カ月以上であった。ベムラフェニブ(BRAF阻害薬)とコビメチニブ(MEK阻害薬)で治療した240人の患者の検証コホートでも同様の結果が得られた。

免疫療法では、T細胞のPD1チェックポイントまたはそのPD-L1リガンドのいずれかを阻害するチェックポイント阻害薬で治療した患者群(330人の患者)において、やはり女性では差異がないという結果が示された。しかし、男性では以下のようである。

・標準BMI男性-無増悪生存期間(PFS) 2.7カ月、全生存期間(OS)中央値 14.3カ月
・肥満男性 - PFS 7.6カ月、OS 26.9カ月

免疫チェックポイント阻害薬イピリムマブで治療した患者のコホート(207人の患者)でも同様の結果が示された。ダカルバジン単剤での化学療法を受けた2群のコホート(541人の患者)の間では肥満の効果はみられなかった。

エストロゲンが関連する可能性

研究者らは、肥満男性患者の優位性をもたらす生物学的要因を理解するためにフォローアップを行っている。肥満は炎症の増加と関連しており、これが、がんに対して免疫応答を起こすチェックポイント阻害薬の有効性を改善する可能性がある。

観察された差に性特異性があることは、ホルモンメディエーターの存在の可能性を示している。脂肪組織は、アンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンを女性ホルモンのエストロゲンに変換するアロマターゼと呼ばれる酵素を産生する。肥満男性ではこの変換が十分に起こっており、肥満男性が何らかの障害を越えて生存期間を延ばす助けとなっているのではないかとMcQuade医師は述べた。同医師らが共同研究しているのは、悪性黒色腫の非常に特異的なタイプのエストロゲン受容体を活性化させることで悪性黒色腫が免疫療法の攻撃を受けやすくなることを発見したペンシルバニア大学の研究者らである。

MDアンダーソンのチームは、肥満患者と肥満でない患者での悪性黒色腫の相違を突き止めるために遺伝子発現、突然変異、および免疫プロファイリングも研究しており、前臨床モデルを開発中である。

McQuade医師および統括著者で共責任著者のMichael Davies医学博士との共著者は、以下のとおりである。
Patrick Hwu, M.D., of Melanoma Medical Oncology; Carrie Daniel-MacDougall, Ph.D., of Epidemiology; Kenneth Hess, Ph.D., of Biostatistics; Lauren Haydu, Ph.D., Shenying Fang, M.D., Ph.D., Jennifer Wargo, M.D., Jeffrey Gershenwald, M.D., and Jeffery Lee, M.D., of Surgical Oncology; Christine Spencer of Genomic Medicine; and Meredith McKean, M.D., of Cancer Medicine, all of MD Anderson; and Carmen Mak, Ph.D., Stephen Lane, Dung-Yang Lee, Ph.D., Mathilde Kaper, Tomas Haas, and Jeffery Legos, Ph.D., of Novartis Pharmaceuticals of East Hanover, N.J.; Daniel Wang, M.D., Kathryn Beckermann, M.D., Samuel Rubinstein, M.D., and Douglas Johnson, M.D., of Vanderbilt University Medical Center, Nashville; Rajat Rai, M.D., Matteo Carlino, M.D., Georgina Long, M.D., and Alexander Menzies, M.D., of the Melanoma Institute Australia and the University of Sydney, Sydney, Australia; John Park, M.D., Princess Mary Cancer Centre, Westmead Hospital, Westmead, Australia; Matthew Wongchenko, Isabelle Rooney, M.D., Luna Musib, Ph.D., Nageshwar Budha, Ph.D., Jessie Hsu, Ph.D., Yibing Yan, PH.D., and Edward McKenna, PharmD, of Genentech, San Francisco; Theodore Nowicki, M.D., and Anthoni Ribas, M.D., of the University of California Los Angeles Medical Center; Alexandre Avila, M.D., and Dana Walker, M.D., of Bristol-Myers Squibb, New York; Maneka Puligandla and Sandra Lee, SciD, of Dana-Farber Cancer Institute, Boston; Paul Chapman, M.D., of Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York; Jeffrey Sosman, M.D., of Northwestern University, Chicago; Dirk Schadendorf, M.D., of University Hospital Essen and the German Cancer Consortium, Essen, Germany; Jean-Jacque Grob, M.D., of Hospitalo-Universitaire Timone, Aix Marseille University, Marseille, France; Keith Flaherty, M.D., of Massachesetts General Hospital Cancer Center, Boston; and John Kirkwood, M.D., Hillman University of Pittsburgh Medical Center Cancer Center, Pittsburgh

本研究は、以下の団体の支援を受けた。 MD Anderson’s Melanoma Moon Shot, part of the institution’s Moon Shots Program, MD Anderson’s Specialized Program in Research Excellence (SPORE) in Melanoma (NIH/NCI P50CA221703), the Dr. Miriam and Sheldon G Adelson Medical Research Foundation, ASCO/CCF Young Investigator and Career Development awards, MD Anderson’s Cancer Center Support Grant from the National Cancer Institute of the National Institutes of Health (P30 CA016672), additional NIH grants (T32 CA009666, P30 CA008748, K23 CA204726 and R01 CA187076-01); the MD Anderson Cancer Center Various Donors Melanoma and Skin Cancers Priority Program Fund; the Miriam and Jim Mulva Research Fund; the McCarthy Skin Cancer Research Fund; the Marit Peterson Fund for Melanoma Research; the University of Sydney Medical Foundation, NHMRC Australian Research Fellowship and a Cancer Institute NSW Fellowship

翻訳担当者 福原真吾

監修 東海林 洋子(薬学博士)

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