術前化学療法により高リスク3期メラノーマの再発が遅延
この分野初の試験で、術前療法が標準治療である手術群の転帰を改善することが示される
3期メラノーマ患者に手術の前と後に分子標的薬を投与すると、標準治療の手術のみの場合と比べ、病勢進行に至るまでの時間が6倍以上延長したと、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らがLancet Oncology誌で報告している。化学療法後の手術で疾患の徴候がみられなかった患者は転移に至らなかった。
本試験では、手術単独とBRAF阻害剤ダブラフェニブおよびMEK阻害剤トラメチニブを用いた術前および術後治療とを比較したが、初期の結果が明白に有効性を示したため、MDアンダーソンの効果安全性評価委員会はランダム化前向き第2相試験を中止し、併用療法を用いた単一投与群に変更するよう指示した。
「これらの結果は、手術で切除可能な3期メラノーマを有する患者を勇気づけることになります。彼らは高い割合で再発や転移性疾患に進行しますから」と筆頭著者でメラノーマ腫瘍学助教のRodabe Amaria医師は述べた。「私たちの実施したコンセプト実証試験は、この高リスク集団に対するネオアジュバント(術前)療法を今後も評価していくことを支持するものです。この集団では5年生存率が50%未満です」。
分子標的薬の併用療法は米国食品医薬品局(FDA)によって承認されており、BRAFV600変異を伴う4期転移性メラノーマに対して使用される。 Amaria医師、統括著者で腫瘍外科学およびゲノム医学准教授のJennifer Wargo医師および共同研究者らは、この併用が3期のBRAF変異疾患を有する患者に有効であると仮説を立てた。
ムーンショットプログラムを通して試験を開始
2014年10月にメラノーマ・ムーンショット計画を通して医師主導臨床試験が開始された。Wargo医師およびMDアンダーソンのムーンショットプログラムの一部も共同で主導し、がんの治療および予防の改善を加速した。本試験は3期メラノーマに対する術前補助療法を検証する初めての前向きランダム化臨床試験であった。
試験には84人の患者が登録され、そのまますぐに手術を受ける患者群と、8週間の分子標的薬投与後に手術を受け、さらに44週間の分子標的薬投与を受ける患者群とにランダムに割り付けられるようにデザインされた。21人の患者が治療を受けた後に、データの中間解析を実施した。
追跡期間の中央値が18.6カ月の時点で、以下のとおりであった。
・標準治療の手術を受けた7人の患者全員で疾患が進行し、進行開始までの時間の中央値は2.9カ月であった。
・術前化学療法併用群にランダムに割り付けられた14人の患者のうち、4人で疾患が進行した。進行開始までの時間の中央値は19.7カ月であった。
・術前療法により病理学的完全寛解となった7人の患者のうち、遠隔転移した患者はいなかった。
・全生存期間の中央値には両群とも、まだ達していなかった。(半数以上生存)
メラノーマは多くの場合初期段階で検出され、手術により完治できるが、約15%の患者では疾患がリンパ節に広がったステージ3まで進行する。
病理学的完全寛解の重要性
病理学的完全寛解(pCR)の達成、つまり生きたがんの痕跡が手術時に病理学的に確認されなかったことは、治療成功を強く示していると、Amaria医師は述べた。術前化学療法群の12人の患者が手術を受け、そのうちの7人がpCRを達成した。再発したのは1人だけで、原発腫瘍と同じ部位に小さな腫瘍が発現した。病理学的部分寛解に達した3人の患者は再発し、全員が脳転移に進行した。これはBRAF陽性疾患に共通するリスクである。
「さらに多くのデータを蓄積すれば、病理学的完全寛解の重要性についてさらに探索することが可能です」とWargo医師は述べた。「病理学的完全寛解が優れた転帰を得るために重要であるということが証明できれば、次はどうすればpCRを達成できるのか、ということが課題になります」。
試験中に採取した生検および血液サンプルを用いて、研究チームはそれらの課題への取り組みを開始することが可能であった。
・pCRに達しなかった患者には、併用治療を始める前に高レベルのリン酸化ERKを有する腫瘍があった。これはMEK経路内の成長促進タンパク質である。
・BRAF阻害剤を用いた治療が成功した患者では、これらの薬剤は明確に免疫療法と位置付けられていないが、免疫応答の証拠が明らかになった。研究チームは、pCRの患者においてはCD8陽性T細胞が腫瘍に侵入したことを確認したが、pCRに達しなかった患者の腫瘍ではT細胞消失の証拠が確認された。免疫応答を抑制する2つのチェックポイントタンパク質、TIM3およびLAG3が、それらの患者のT細胞上に大量に見出された。
・全エクソーム配列解析で、リスポンダーとノンリスポンダーの間には、ベースラインでの変異荷重またはコピー数変化の有意な差は認められなかった。しかしながら、pCRに達しなかった患者は、多くの場合、併用療法への耐性を引き起こす既知の遺伝子異常を有していた。
これらの違いがさらに大規模な追加試験への道筋となり、可能性のある併用療法に到達するための重要な手がかりとなる。最初の試験が中止になったため、11人の患者はネオアジュバント試験に登録した。
併用療法による毒性は主にグレード1およびグレード2の副作用であり、ダブラフェニブおよびトラメチニブで既知はのものであった。最も多い症状は悪寒、頭痛、および発熱であった。副作用はグレード3の事象が8件発現したが、グレード4はみられず、治療に関連した死亡はなかった。手術群の患者2人とネオアジュバント群の患者1人が疾患の進行により死亡した。
標準治療である手術群の患者にはさまざまなアジュバント(術後)療法が用意された。それらは、インターフェロンアルファ、チェックポイント阻害薬のイピリムマブ、バイオ医薬品、または経過観察といった選択肢であった。試験への参加者の登録時期に存在していた術後療法は有効率が極めて低く、強い副作用を伴うものであったと、Amaria医師は述べた。手術群で術後療法を受けることを選んだ患者は1人に過ぎなかった。
標的薬の併用療法および免疫チェックポイント阻害薬は、近年の臨床試験での術後療法として有望である。
MDアンダーソンの研究者らは、このアプローチを探索するのに必要な、より大きな規模の臨床試験を開始するため、国際的なメラノーマ術前療法共同事業体に発展させた。
Novartis Pharmaceuticals社は薬剤および臨床試験費用を提供した。試験デザイン、試験実施、データ収集、解析、または結果の解釈には関与しなかった。関連する腫瘍サンプルおよび血液サンプルの試験研究は、Cancer Prevention and Research Institute of Texas、MDアンダーソンのMelanoma Moon Shot、およびDr. Miriam and Sheldon G. Adelson Medical Research Foundationの資金提供を受けた。
Amaria医師とWargo医師の共著者は以下のとおりである。Isabella Glitza M.D., Ph.D., Wen-Jen Hwu, M.D., Hussein Tawbi M.D., Ph.D., Sapna Patel M.D., Lauren Simpson, R.N., Rosalind Mouton, Haifeng Zhu Ph.D., Patrick Hwu, M.D., Adi Diab, M.D., Michael Wong, M.D., Ph.D., Jennifer McQuade, M.D., Scott Woodman, M.D., Ph.D., and Michael Davies, M.D., Ph.D., all of Melanoma Medical Oncology.
共同第一著者は以下のとおりである。Peter Prieto, M.D., Alexandre Reuben, Ph.D., Miles Andrews, Ph.D., Merrick Ross, M.D., Janice Cormier, M.D., Jeffrey Lee, M,D., Jeffrey Gershenwald, M.D., Vancheswaran Gopalakrishnan, Ph.D., Zachary Cooper, Ph.D., Richard Royal, M.D., Anthony Lucci, M.D., and Elizabeth Burton, M.B.A., all of Surgical Oncology; Michael Tetzlaff, M.D., Courtney Hudgens, Khalida Wani, Ph.D., and Alexander Lazar, M.D., all of Pathology; Christine Spencer, Li Zhao, Ph.D., and Andrew Futreal, Ph.D., all of Genomic Medicine; Roland Bassett of Biostatistics; Sangeetha Reddy, M.D., of Cancer Medicine; and Padmanee Sharma, M.D., Ph.D., and Jim Allison, Ph.D., of Immunology.
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