ASCO発表集:がん免疫療法薬に関するジョンズホプキンス研究結果

■1 新しい免疫治療薬の併用療法(抗PD-1+抗LAG-3)は、前治療で標準治療を行った患者のメラノーマを抑制する

免疫チェックポイント阻害薬は免疫抑制シグナルを排除し、がんに対する免疫システムの攻撃力を回復させる薬剤であるが、2つのチェックポイント阻害薬を併用すると、前治療で標準治療を行った患者の一部で、メラノーマ(悪性黒色腫)を縮小、または増殖を抑制する効果があるかもしれないことが、ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ・キンメルがん研究所より発表された新たな研究結果で明らかになった(米国臨床腫瘍学会[ASCO]抄録#9520)。

現在使用可能な免疫チェックポイント阻害剤により、メラノーマや他の種類のがんを有する患者の生存が改善されているにもかかわらず、ジョンズホプキンスの研究リーダーEvan J. Lipson医師は、これらの治療法は効果がないことが多いと指摘する。例えば、最近の2つの研究では、免疫を抑制するタンパク質であるPD-1を標的とするニボルマブ(オプジーボ)の進行メラノーマ患者における2年生存率はわずか60%程度であった。

その生存率を改善するため、Lipson医師らは、免疫を抑制するもう1つのタンパク質であるLAG-3を標的とする現在も試験中の第2のチェックポイント阻害薬を追加した場合の進行メラノーマ治療の効果を検討した。

Lipson医師と、米国・欧州の共同研究者らは、過去に少なくとも1つの免疫チェックポイント療法による治療中または治療後にメラノーマが進行した患者に、ニボルマブおよび抗LAG-3チェックポイント阻害剤を2週間ごとに投与する試験を行った。患者48人中、6人(13%)で腫瘍サイズの縮小がみられ、患者20人(42%)において安定がみられた。経過観察期間の中央値は14週間であった。

免疫チェックポイント阻害剤は「ブレーキ」分子を解除し、これにより免疫システムがより効果的な抗がん作用を発揮できるのであるが、免疫チェックポイント阻害剤のこの新しい組み合わせは、標準治療の効果がない一部の患者に有益となり得ることが、これらの結果から示唆されるとLipson医師は述べた。

さらにLipson医師は、ジョンズホプキンスをはじめとした研究機関で進行中の臨床試験で、この薬剤の組み合わせが他の種類のがんに対して検討されており、また、チェックポイント阻害剤の3剤併用も検討されていると述べた。

「抗LAG-3は、免疫チェックポイント阻害剤併用療法の1剤として重要であることが実証された。われわれは、ヒト免疫システムの驚くべき力を安全かつ効果的に引き出し、可能な限り多くのがん患者に届けるために、これらの新しいレジメンの開発を継続する」。

■2 がん免疫療法が術後よりも術前で有効となる可能性

  • チェックポイント阻害剤の術前投与は、肺がん患者のほぼ半数で腫瘍を劇的に縮小することが小規模な臨床試験で認められた。

ある小規模な臨床試験で、がんに対する免疫システムの攻撃力を促進する薬剤の投与を術前に受けた肺がん患者21人のほぼ半数において劇的な奏効がみられ、腫瘍がほぼ完全に消失したとジョンズホプキンスの研究者らは報告している。この結果(ASCO抄録#8508)は、肺腫瘍が手術可能である患者において、免疫療法のタイミングが、がん治療の成功の鍵となる可能性を示唆している。

術前に行う標準化学療法はネオアジュバント療法と呼ばれ、がん治療において長い歴史があると、ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ・キンメル研究所の助教である、研究リーダーPatrick Forde, M.B.B.Ch.(医学・外科)助教は述べた。しかし、肺がんの中で最も一般的な種類である非小細胞肺がんでは患者のわずか20%程度にしか有益性が認められないようである。

免疫抑制シグナルを解除し、がんに対する免疫システムの攻撃力を回復させる薬剤であるチェックポイント阻害剤は、2014年以来、肺がんを含む数種類のがんの治療薬として承認されている。

術前に免疫療法を行った場合、より良い効果を得られるかどうかを検討するため、Forde氏をはじめジョンズホプキンスとスローンケタリング記念がんセンターの共同研究者らは、非小細胞肺がん患者21人に対して、予定された腫瘍摘出手術までの4週間で、チェックポイント阻害剤ニボルマブ(オプジーボ)を2回投与した。

その結果、患者9人において手術時に腫瘍が90%以上退縮していたことが明らかになった。残存腫瘍を摘出する手術の後、さらに調査を進めたところ、ほとんどの患者で腫瘍に免疫細胞が浸潤していることが明らかになり、ニボルマブが免疫による活発ながん攻撃を引き起こしていたことが示唆された。術後平均9カ月間、患者21人中17人(81%)が生存し、再発はなかった。

Forde氏らは、ニボルマブと他のチェックポイント阻害剤との術前併用投与試験、そして術前投与期間を延長してニボルマブを投与する試験を検討している。「投与タイミングの問題かもしれない」と彼は述べた。「一部の患者では、免疫システムががん細胞を撃退するにはより長い時間を要するのかもしれない」。

■3 テストステロン枯渇療法が、前立腺がんに対する免疫系の攻撃を促す可能性

がんの増殖を促すテストステロンの濃度を低下させる治療として前立腺がん男性患者に処方される薬剤が、前立腺腫瘍に対する免疫の攻撃力を活性化する可能性が、ジョンズホプキンスの研究者らによる新たな研究で示された(ASCO抄録#5077)。この知見は、米国男性において2番目に多いがんである前立腺がんに対する新たな戦略につながると研究者らは述べた。

2005年、ジョンズホプキンス大学、Charles Drake医学博士の研究室での実験で、前立腺がんマウスのテストステロンを減少させると、CD8陽性T細胞というがんを攻撃する免疫細胞が前立腺に入り込むことが明らかになった。さらに、前立腺がんに対する免疫応答を促進する前立腺がんワクチンGVAXと併用した場合に、この効果はいっそう顕著に発揮された。

この実験から得た知見をヒトにおいて検討するため、ジョンズホプキンス大学医学部腫瘍学・泌尿器科准教授であり、キンメルがんセンターメンバーのEmmanuel Antonarakis医師、現在NewYork-Presbyterian/Columbia University Medical CenterのDrake医学博士、ジョンズホプキンス大学のAngelo DeMarzo医学博士は、術前治療の臨床試験で前立腺がん患者48人を対象に研究を行った。

すべての参加者は限局性前立腺がんを有し、前立腺摘除術が予定されていた。手術の4週間前に、男性13人は、シクロホスファミド(免疫応答を抑制する免疫細胞Tregの数を減少させる標準化学療法薬)とGVAXワクチンの投与を受け、その2週間後、テストステロン濃度を低下させるホルモン剤デガレリクスの投与を受け、その後前立腺摘除術を受けた。これとは別の患者15人の治療群が手術の2週間前にデガレリクスの単独投与を受けた。

対照群の残りの20人は、前立腺摘除術を受ける前に術前治療を受けなかった。

前立腺摘除術後に、手術で各患者から切除した組織を調べ、免疫療法およびホルモン療法での免疫刺激効果の有無を検討した。その結果、CD8陽性T細胞の密度が、術前にいずれかの治療を受けた患者の前立腺組織では、術前に治療を受けなかった患者の2倍以上であることが明らかになった。一方で、CD8陽性T細胞の密度は、デガレリクスと併用してGVAXワクチン+シクロホスファミド投与を受けた群と、デガレリクス単独投与群とで同等であった。

「前立腺CD8陽性T細胞を刺激する最も重要な因子は、GVAXやシクロホスファミドではなく、デガレリクスそのものであったということである」とAntonarakis医師は述べた。

マイナス面は、免疫刺激作用はCD8陽性T細胞のみに及ぶものではないということである。Tregの密度も両投与群で上昇し、CD8陽性T細胞の抗がん作用を弱める可能性があるとAntonarakis医師は付け加えた。Antonarakis医師によると、この問題に取り組むため、ジョンズホプキンスで臨床試験が進行中であり、前立腺凍結療法(腫瘍を凍結させ、免疫刺激性分子を前立腺から血流に放出させる治療法)またはペムブロリズマブなどのチェックポイント阻害剤として知られる免疫療法剤とデガレリクスとの併用を検討している。

■4 変異が多く、免疫系の遺伝子特性を有する頭頸部がんで免疫療法がより奏効する可能性

変異が多く、免疫システムのT細胞炎症に特異的な遺伝子特性を有するがんには、PD-1と呼ばれるタンパク質を阻害する免疫療法剤がより奏効するかもしれないという予備的証拠を、ジョンズホプキンスの医師らが免疫療法剤ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の臨床試験に登録された頭頸部がん患者を対象とした後ろ向き研究で発見した。

ペムブロリズマブは、頭頸部がんを含む5種類のがんに対し米国食品医薬品局(FDA)により承認されており、ジョンズホプキンス研究者らによると、頭頸部がん患者の約18%でペムブロリズマブが奏効する。しかし、現在、どのような進行がん患者に奏効するのかを知る方法がない。

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの腫瘍学准教授であるRanee Mehra医師らは、ペムブロリズマブの投与を受けた頭頸部がん患者107人の腫瘍組織サンプルを分析した(ASCO抄録#6009)。研究者らはゲノム配列解析技術を用いて、患者らのがんの変異の多さとT細胞炎症に関連する遺伝子の発現を調べた。また、患者が、頭頸部がんに関連するヒトパピローマウイルス(HPV)陽性か陰性かを調べた。遺伝子変異負荷(mutation burden)が高いと、外見が他と異なる、異常なタンパク質が多く産生され、悪性細胞が免疫システムに認識されやすくなり、免疫療法の感受性が高まると考えられている。

患者107人中21人でペムブロリズマブが奏効し、そのうち14人がヒトパピローマウイルス陰性であった。がんの遺伝子変異負荷が高い患者39人中、12人(31%)でペムブロリズマブが奏効した。107人中52人もの患者でT細胞炎症遺伝子の発現が高く、そのうち14人(27%)でペムブロリズマブが奏効した。遺伝子変異負荷とT細胞炎症遺伝子発現の両方が高い30人のうち12人(40%)でペムブロリズマブが奏効した。

Mehra医師は、奏効した患者の数が少ないことがこの研究の限界であるが、遺伝子変異負荷とT細胞炎症遺伝子発現が高い患者でペムブロリズマブが奏効しやすい傾向にあると述べた。

「われわれの研究は、今後免疫療法の臨床試験でさらなる評価が必要な腫瘍の遺伝子バイオマーカーを示唆している」とMehra医師は述べた。「これらの薬剤が奏効する患者は、奏効期間も長い傾向にあり、どのような患者で奏効しやすいのかを予測することが重要である」。

翻訳担当者 竹原順子

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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