メラノーマに対する術前補助免疫療法-2017年1月

MDアンダーソン OncoLog 2017年1月号(Volume 62 / Issue 1)

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メラノーマに対する術前補助免疫療法

切除可能な病期IIIもしくは転移の少ない病期IVを対象に免疫チェックポイント阻害を臨床研究

免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブとイピリムマブが登場し、メラノーマの治療はすっかり様変わりした。しかし、これまでのところ、両薬剤の使用はおおむね、切除不能で転移性の疾患の治療に限定されている。現在進行中のある臨床試験の結果しだいで、切除可能な病期(ステージ)IIIもしくは転移の少ないメラノーマ患者の術前補助療法にも、ニボルマブとイピリムマブが使えると判明するかもしれない。

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのメラノーマ腫瘍内科学部門で助教を務めるRodabe Amaria医師によれば、切除可能な病期IIIもしくは転移の少ないメラノーマ(すなわち、切除可能な病期IVの疾患で、転移は3個以下で、骨と中枢神経系にはない)は、手術に続いて術後化学療法を実施する標準治療の後で、再発率が70%である。
術前補助療法によって、上述の患者の転帰が改善されるのではないかと、彼女は思っている。

Amaria医師はこう語った。「メラノーマについて、術前補助療法はこれと言った実績があるわけではありません。そのため、多くの場合、患者は手術が完了するまで腫瘍内科医にかかることがありません。これは、高リスク疾患を有するこの患者集団にとって、機会損失だと思います」。

術前補助免疫療法の臨床試験

Amaria医師は、ニボルマブ(単剤またはイピリムマブとの併用)術前補助療法の第2相臨床試験(No. 2015-0041)の総括責任医師である。PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)を阻害するニボルマブ、CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)を阻害するイピリムマブはそれぞれ、転移性メラノーマに対する単剤療法について、アメリカ食品医薬品局が認可している。加えて、2016年、切除不能の転移性メラノーマ患者に対するニボルマブとイピリムマブ併用療法が認可された。これに対し、現在進行中の臨床試験は、切除可能なメラノーマの術前補助療法における両薬剤使用の最初の研究の一つである。

この臨床試験で、単剤療法群の患者には、手術の前にニボルマブ(2週間ごとに3mg/kg静注)を最大4コースまで投与する。併用療法群の患者には、手術の前にニボルマブ(3週間ごとに1mg/kg静注)とイピリムマブ(3週間ごとに3mg/kg静注)を最大3コースまで投与する。手術後は、単剤・併用いずれの群の患者にも、ニボルマブ(3 mg/kg静注)を2週間ごとに6カ月間投与する。

評価項目と懸念事項

この試験の主要評価項目は病理学的奏効であり、手術摘出標本のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で調べた残存腫瘍細胞数によって決定される。「われわれの仮説は、手術時に腫瘍壊死が多ければ多いほど、また残存メラノーマが少なければ少ないほど、患者の長期転帰が良好だというものです」とAmaria医師は語った。同医師によれば、その仮説は、乳癌に対する術前補助療法の奏効をもとに導き出されたそうである。乳癌の場合、病理学的完全奏効は、良好な生存転帰に関連するという。

副次評価項目は、12カ月無再発率と全生存率、そして術前補助療法の奏効率である。奏効は、画像評価法および固形がんの治療効果判定のためのガイドライン(RECIST)を用いて判定する。

ニボルマブとイピリムマブの安全性評価も合わせて実施され、患者は有害事象について詳しく観察されている。「このような免疫治療薬はどれも、免疫システムの働き過ぎに関連する副作用を引き起こす可能性があります」とAmaria医師は語った。たとえば、発疹、間質性肺炎、下痢、甲状腺不全、下垂体不全などの副作用が起こり得るが、通常は(それに対する)治療を行うことで回復する。

もう一つの心配は腫瘍増大である。「免疫治療薬は、分子標的薬ほど素早く効くわけではありません。したがって、患者によっては治療中に腫瘍が増大する可能性もあります。しかしながら、単剤治療群と併用治療群のいずれにおいても、良好な奏効をみとめています」と同医師は語った。まだ治療を受けた患者の人数が足りないため、予備的解析はできない。しかし、同医師によれば、約半数の患者において術前補助免疫療法に良好な奏効が得られた。なかには、切除した組織標本に残存腫瘍細胞がまったくなかった患者も、一人ならずいたという。いっぽう、半数の患者は、相当量の腫瘍細胞が残存したままで手術に臨んだそうである。

バイオマーカー研究

この臨床試験は、ランダム化の過程で、腫瘍にPD-L1(PD-1と結合するリガンド)発現のある患者が、二つの治療群に同数ずつ割り付けられるように設計されている。先行研究から、PD-L1発現は、ニボルマブとイピリムマブの奏効を予測するバイオマーカーとなる可能性があることがすでに知られている。このため、研究者は、PD-L1発現がいずれかの治療群の転帰に影響するかどうかを調べたいと思っている。

Amaria医師、Jennifer Wargo医師(腫瘍外科部門准教授)、その他の臨床試験実施研究者らは、免疫チェックポイント阻害剤の奏効を示唆するPD-L1以外のバイオマーカーも新たに見つけたいと願っている。「治療が進むにしたがい、腫瘍や血液の中でいったい何が起こるのか調べることができるよう、われわれの臨床試験では、血液標本や腫瘍組織をしっかり収集しています」とAmaria医師は語った。

一人ひとりの患者から、治療前と、治療中に少なくとも1回、腫瘍の生検標本が採取される。生検標本も切除標本も、免疫学的ならびに分子的測定法で調べる。「一連の標本から、なぜ素晴らしく奏効する患者もいれば奏効がそれほど芳しくない患者もいるのかを理解する助けとなるようなデータが産み出されるでしょう」とAmaria医師は言う。

術前補助療法プログラムの確立

この免疫治療臨床試験は、MDアンダーソンにおいて病期IIIもしくは転移の少ないメラノーマに対する術前補助療法を研究する臨床試験としては、2番目のものである。1番目の臨床試験は、Wargo医師が主任研究者である。今も継続中だが、すでに患者登録を打ち切っており、予備的結果は有望である。(囲み記事「メラノーマ患者に対するBRAF阻害薬を用いた術前補助療法」を参照のこと)

「メラノーマ患者のために術前補助療法のプログラムを確立しようと、われわれは頑張っています。近年、治療法がいろいろ進歩したため、術前補助療法が現実的な選択肢の一つとなったのです」とAmaria医師は述べた。

メラノーマ患者に対するBRAF阻害薬を用いた術前補助療法                                                                                           BRAF阻害薬の術前補助療法は標準治療に比べ、BRAF V600EまたはV600K変異を有する病期IIIまたはオリゴメタスタシスのメラノーマ患者の無再発生存を改善することが、臨床試験の初期成績において示された。 この臨床試験(No. 2014-0409)は継続中だが、すでに患者登録を終了している。患者は、標準治療を受ける対照群と、経口BRAF阻害薬ダブラフェニブとトラメチニブの術前・術後補助療法を受ける実験群に、無作為に割り付けられた。対照群の患者は、登録から4週間以内に手術を受け、続いて主治医が選択した標準の補助療法を受けた。 実験治療群の患者は、ダブラフェニブ(150mg 1日2回)とトラメチニブ(2mg 1日1回)の投与を8週間受けた後に手術を行い、術後は最大44週間まで両試験薬の投与を継続する。 中間解析では、実験群の患者は8週目に画像診断による奏効率77%、病理学的完全奏効率58%であったことが示された。推定6カ月無再発生存率は、実験群で100%であったのに対し、対照群ではわずか28%であった。このため、患者登録を打ち切った。 上記の結果は、Amaria医師、Wargo医師ほかの試験実施研究者らによって11月に、2016年度メラノーマ研究会国際会議(Society for Melanoma Research International Congress)で発表された。

【上段画像キャプション訳】
病期IIICメラノーマ患者の治療前の生検標本には、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色で紫色に染まった生きているメラノーマ細胞がある(左図)。
9週間のイピリムマブとニボルマブ併用術前補助療法の後、病理学的完全奏効が得られた。黒く見える腫瘍壊死(死んだ細胞)の領域がその証左である(右図)。
画像提供:Rodabe Amaria医師

【下段画像キャプション訳】
上掲の腫瘍生検標本と同一患者のコンピュータ断層撮影(CT)画像では、治療前に皮下結節(左図、矢印)がみられる。
9週間のイピリムマブとニボルマブ併用術前補助療法の後、画像基準で完全奏効が得られた。結節消失がその証左である(右図、矢印)。
画像提供:Rodabe Amaria医師

原文

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翻訳担当者 盛井有美子

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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