メラノーマはIFN-γ突然変異を利用して免疫療法に抵抗

MDアンダーソンがんセンター

メラノーマ(悪性黒色腫)は、重要な免疫反応経路の遺伝子突然変異を利用してイピリムマブによる免疫療法に抵抗することを、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者がCell誌で報告している。

「このような突然変異が原因となったインターフェロンガンマ(IFN-γ)シグナルの喪失は、初めて明確に特定された腫瘍細胞にみられるイピリムマブへの抵抗経路です」と、研究リーダーでGenitourinary Medical Oncology and Immunology学科教授のPadmanee Sharma医学博士は述べた。博士はMDアンダーソンのムーンショット計画の一部であるImmunotherapy Platformのサイエンス・ディレクターも務めている。ムーンショット計画は、命を救うような技術革新の開発を科学的発見により促進しようとする構想である。

博士らの発見は、数々のIFN-γ遺伝子を前向きに評価し、イピリムマブに対する反応を予測し、新しい併用療法を探索し、IFN-γ関連の治療抵抗性を克服するための道を開くものである。

イピリムマブは、商品名をヤーボイとして知られ、獲得免疫システムによる誘導ミサイルのような働きをする白血球であるT細胞のブレーキとして作用するタンパク質を阻害することにより、がんに対し免疫攻撃を放つ初の薬物であった。CTLA-4を阻害するイピリムマブは、転移性メラノーマを適応として2011年に承認され、他の多くの種類のがんに対しても単剤または他剤との併用で臨床試験が行われているところである。

「イピリムマブ治療によりメラノーマ患者の約20%に大幅な延命効果を与えていることが研究で示されています。ただ、大部分の患者が臨床反応を示さない理由となる機序については依然として分かっていません」と、Sharma氏は述べた。

患者、反応、生存率に対する影響

インターフェロンガンマは、免疫反応を刺激するサイトカイン、つまり免疫細胞を活性化させるために極めて重要なシグナル分子である。また、IFN-γは細胞表面の受容体に結合し、細胞の増殖を阻害する一連の事象を起こして直接腫瘍細胞を攻撃し、腫瘍細胞の死滅を促進させる。この直接的な殺細胞の役割こそが、遺伝子突然変異によって妨害されている可能性があると、Sharma氏は言う。

Sharma氏らによる過去の研究では、イピリムマブ治療でT細胞によるIFN-γの産生が増加することが示された。このことから、研究チームはIFN-γ経路に欠陥のある腫瘍細胞はイピリムマブ治療に抵抗性を示すのではないかという仮説を立てた。

彼らはまず、イピリムマブ治療を行っている16名のメラノーマ患者の腫瘍のIFN-γ経路遺伝子の全エクソーム遺伝子配列データを解析した。4名の患者は治療に反応したが、12名は反応しなかった。

反応しなかった患者の腫瘍で、コピー数変化(欠失または増幅)が142ヵ所、一塩基変異が42ヵ所、合計184ヵ所の突然変異を検知した。反応した患者の腫瘍では4ヵ所の突然変異しかなかった。解析により、反応しなかった患者では平均15.33ヵ所のIFN-γ経路遺伝子の突然変異が示され、コピー数変化がこの大幅な違いをもたらしていた。

反応しなかった12名のうち9名にコピー数変化があった。最も顕著なものには、IFN-γの2つの受容体である、IFNGR1およびIFNGR2と、2つの重要なその下流遺伝子であるIRF-1およびJAK2のゲノム喪失などがあった。この経路の2つの既知の阻害物質であるSOCS1およびPIAS4は増幅されていた。

Cancer Genome Atlasデータベースの367名のメラノーマ患者の生存期間データの解析では、コピー数変化のある患者の生存期間は40ヵ月で、この突然変異のない患者の48.2ヵ月に比べ、大幅に短かった。

細胞株およびマウスモデルによる確認

IFN-γの攻撃にさらされたメラノーマの細胞株では、サイトカインの受容体であるIFNGR1が破壊することで、IFN-γが存在するにもかかわらず、腫瘍細胞が増加していた。

研究者らが同じ細胞株(B16/BL6)をマウスで使用し、イピリムマブ治療を行ったところ、無傷のIFN-γ受容体を持つ24例のマウスではたった4例しかがんを発現しなかった一方、受容体が破壊された25例では12例に腫瘍が発現した。

治療しなかったすべてのマウスは、腫瘍増殖により死亡したが、無傷のIFN-γ受容体を持ちイピリムマブ治療を受けたマウスの80%が生存した。これに対し、受容体が破壊されたマウスは約半分しか生存しなかった。

次の段階として

研究チームの発見により、11種類のIFN-γ経路が、イピリムマブに対する反応の予測因子として前向き臨床試験で評価が可能なところまできている。予測因子として確認されれば、イピリムマブ単剤または他剤との併用治療の指標として使用することができる。

別の研究分野として、IFN-γ経路の喪失を克服する併用療法を見つけ出すことが挙げられる。「IFN-γ経路が閉ざされていても腫瘍に打ち勝つことができる他のサイトカインを産生する免疫システムを刺激できる可能性があります」とSharma氏は言う。

IFN-γシグナル伝達の障害は、別の免疫チェックポイントであるPD-1の阻害に対する抵抗の原因となることも、他の研究者らによって発見されている。IFN-γは重要であるが、腫瘍には免疫療法に抵抗するのに役立つ別の機序もあるとみられると、Sharma氏は述べている。

共著者、共同第一著者は以下のとおりである。Jianjun Gao, M.D., Ph.D., Lewis Zhichang Shi, Ph.D., of Genitourinary Medical Oncology, and Hao Zhao of MD Anderson’s Immunotherapy Platform; also Jianfeng Chen, and  Liangwen Ziong of Genitourinary Medical Oncology;  Quiming He and Tenghui Chen of the Immunotherapy Platform;  Jason Roszik, Ph.D.,  Chantale Bernatchez, Ph.D.,  Scott Woodman, M.D., Ph.D., and Patrick Hwu, M.D.,  of Melanoma Medical Oncology; Pei-Ling Chen, M.D., Ph.D., and Jennifer Wargo, M.D., of Surgical Oncology; Jim Allison, Ph.D., of Immunology; and Wargo and Andy Futreal, Ph.D., of Genomic Medicine.

Sharma、Allison、Wargoは、Parker Institute for Cancer Immunotherapyのメンバーである。

本研究は、Stand Up to Cancer-Cancer Research Institute Cancer Immunology Dream TeamおよびMDアンダーソンのメラノーマ・ムーンショット計画による資金提供を受けた。また、Gaoに贈られた米国臨床腫瘍学会(ASCO)Conquer Cancer Foundationの2012年Young Investigator Award、Cancer Prevention and Research Institute of Texas (CPRIT)、米国国立衛生研究所(NIH)の国立がん研究所(NCI)(R01 CA1633793, K12 CA088084, and P30CA016672)による資金提供も受けた。STR DNAフィンガープリント法はNCI Cancer Center Support Grantが出資するCharacterized Cell Line Core (CA016672)が実施した。

翻訳担当者 鴨田弘子

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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