PD-1阻害剤に対する獲得耐性のメカニズム解明へ

がんの免疫耐性化メカニズムに関連する遺伝子変異

悪性黒色腫(メラノーマ)に対する抗PD-1治療で約75%の患者が長期奏効し、奏効期間は数年に及ぶが、時間が経ってから再発をきたす晩期再発例が報告されている。このようながんが免疫を回避するメカニズムは明らかになっていない。The New England Journal of Medicine誌電子版に2016年7月20日に掲載された研究で、メラノーマ患者におけるPD-1阻害による免疫療法に対する獲得耐性(治療開始後に治療が効かなくなること)は、インターフェロン受容体のシグナル伝達および抗原提示に関連する経路の障害と関連していることが示された。

PD-1チェックポイント阻害剤がメラノーマや肺がんなどのがんに承認されるのに伴って、晩期再発例が増加することが予想されている。獲得耐性の分子メカニズムが解明されれば、耐性化を克服するための併用療法や耐性化を予防する介入方法を適切に検討する選択肢が広がり、治療の利益を受けられる可能性が低い患者を選別するためのバイオマーカー研究につながるかもしれない。

最近の研究において、PD-1阻害剤により奏効が得られたメラノーマ患者の約25%が、追跡期間中央値21カ月の時点で病勢進行をきたしていたという事実を、著者らは、研究の背景として述べている。また、ヒトを対象とした以前の研究では、β2ミクログロブリンの欠損が、がんの免疫療法の一部における獲得耐性のメカニズムである可能性が調べられている。前臨床モデルにおいては、インターフェロンのシグナル伝達経路の障害が、免疫療法に対する感受性喪失のメカニズムである可能性が示されている。

今回の研究で著者らは、抗PD-1治療が、インターフェロン経路や抗原提示経路に影響する遺伝子が変異を獲得するなどのがんのゲノム進化に及ぼす影響を評価し、PD-1阻害治療に対する獲得耐性の遺伝的メカニズムの解明を試みた。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校で転移性メラノーマ患者78人にpembrolizumab[ペムブロリズマブ]による治療を行ったところ、このうち42人に奏効が認められ、そのうち15人はその後病勢が進行した。この15人のうち4人が原発巣と再発部位の生検試料を対で分析するための選択基準をすべて満たしていた。

全エクソーム解析により、耐性を獲得した腫瘍のクローン選択および増殖が確認され、分析した4人の患者のうち2人のサンプルでは、インターフェロン受容体関連のヤヌスキナーゼ1(JAK1)またはヤヌスキナーゼ2(JAK2)をコードする遺伝子に、耐性の原因となったと考えられる機能欠失型変異が認められ、野生型アレルの欠損をともなっていた。別の患者1人には、抗原提示タンパクであるβ2ミクログロブリン(B2M)をコードする遺伝子に短縮型変異が生じていた。JAK1およびJAK2に短縮型変異が生じると、インターフェロンγに応答しなくなり、がん細胞に対する抗増殖効果が得られなくなるなどの影響が出た。B2Mに短縮型変異が生じると、細胞表面における主要組織適合遺伝子複合体クラスⅠの発現が消失した。

耐性獲得まで同様の臨床経過をたどった2症例において、耐性獲得メカニズム、機能的意義、JAK1/JAK2変異でクローン選択が生じた事実がほぼ同一であったことから、インターフェロンγに対する耐性が免疫への耐性および回避に寄与していることが示唆される、と著者らは結論した。がん免疫療法に対する獲得耐性の原因として、従来知られていたB2Mの欠損による免疫細胞のがん細胞認識低下に加え、免疫耐性に関与する遺伝子変異が今回明らかになった。これら知見の一般化可能性を評価するために追加症例の解析が求められる。

翻訳担当者 橋本 仁

監修 高野利実(腫瘍内科/虎の門病院)

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