BRAF V600遺伝子変異陽性の進行メラノーマに対するコビメチニブとベムラフェニブの併用療法は、変異型にかかわらずベムラフェニブ単独療法よりも高い臨床効果を示す
coBRIM試験の追跡調査の14.2カ月時点における最新のデータ解析で、併用療法ではベムラフェニブ単独療法よりも無増悪生存期間が延長することが示された
議題:メラノーマ/抗がん剤および生物学的製剤
BRAF V600遺伝子変異陽性の進行メラノーマ(黒色腫)患者に対してBRAFとMEKを同時に阻害すると、BRAF単独の阻害に比べて無増悪生存期間(PFS)を延長させることが、オーストリアのウィーンで開催された欧州がん学会(ECC2015、2015年9月25~29日)で第3 相プラセボ比較試験の結果として報告された。遺伝子変異の解析では、治療抵抗性誘発の予測因子となりうる突然変異サブクローンを有する患者を含め、複数の変異タイプにおいても、併用療法の優位性は一貫して認められた。
追跡調査の14.2カ月時点で実施された解析の結果、無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)、および完全奏効(CR)率に関して、コビメチニブ[cobimetinib]+ベムラフェニブ[vemurafenib]併用療法はベムラフェニブ単独療法よりも優れていた。追跡調査時点での無増悪生存期間中央値は、ベムラフェニブ単独群の7.2カ月に対し併用群では12.3カ月であった(ハザード比[HR]0.58)。また全奏効率は単独群の50%に対し併用群では70%、完全奏効率は単独群の11%に対し併用群では16%であった。
コビメチニブは選択性がきわめて高いアロステリック低分子MEK阻害剤であり、今回の試験ではBRAFおよびMEKを同時に阻害する目的でベムラフェニブと併用された。
ピーター・マッカラムがん研究センター(所在地:豪州メルボルン)のがん治療プログラムを統括するGrant McArthur医師によると、BRAF阻害剤ベムラフェニブに対する獲得耐性の最も一般的な機序は、MEK経由のMAPK経路によって細胞増殖が再開するメカニズムである。したがって、一次治療としてBRAF阻害剤およびMEK阻害剤を併用投与することにより、これら2種類のタンパク質での経路阻害の増強を図り、またBRAFのみを阻害した場合に認められる耐性発現を遅らせることでそれぞれ増殖を抑制することが可能である。
治療開始時の腫瘍の不均一性が及ぼす影響を検討
McArthur氏は、9月27日のメラノーマ・皮膚がん分科会の一般演題で、現在実施中のcoBRIM試験から得られた有効性の最新結果と所見について、治療前に採取した腫瘍組織に存在する個々の変異別に解析した結果とともに発表した。
当初のcoBRIM試験(NCT01689519)で追跡期間中央値7.3カ月時点で得られた結果は2014年の同学会で発表され、コビメチニブ+ベムラフェニブの併用投与によって、治療歴のないBRAF V600変異陽性である進行メラノーマ患者の無増悪生存期間および全奏効率が有意に改善したことを示した。
欧州会議で報告された今回の試験では、BRAF V600のコピー数およびRASや他の遺伝子配列変異など薬剤耐性獲得に働く可能性のある試験開始時の腫瘍不均一性が、追跡調査期間中央値14.2カ月時点の臨床転帰、特に無増悪生存期間に及ぼす影響を検討した。
前述のcoBRIM試験で治療開始前に採取した腫瘍検体を用い、カバレッジ中央値3600倍で標的の読み取り深度を深めて解析した。変異対立遺伝子頻度は、V600コドンのほか17種類の腫瘍遺伝子における組み換えホットスポットでの読み深度合計に対する変異対立遺伝子の比として算出した。がん抑制遺伝子PTEN欠失の分析には免疫組織化学を用いた。2015年1月16日のデータ締め切り時点までに測定した無増悪生存期間とバイオマーカー値との関連性評価にはCox比例ハザードモデルを用いた。
コビメチニブ+ベムラフェニブ併用療法は変異型にかかわらず一貫した有効性を示す
コビメチニブ+ベムラフェニブの併用療法は、BRAF V600K変異およびBRAF V600E変異を有する患者を含め、評価の対象とした患者部分集団のいずれに対しても一貫した臨床効果を示し、無増悪生存期間中央値はBRAF V600K変異患者で12.4カ月(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間:0.27~1.02)、BRAF V600E変異患者で10.6カ月(ハザード比[HR]:0.64、95%信頼区間:0.49~0.83)であった。
コビメチニブ+ベムラフェニブの併用療法またはベムラフェニブ単独療法のいずれかを受け、BRAF V600コピー数の間接的な指標であるBRAF対立遺伝子頻度が中央値(33%)を超える患者では、無増悪生存期間中央値は対立遺伝子頻度が低値の患者と同様であった。
がん遺伝子の組み換えホットスポットおよびRAS、RTK、PTENなどのがん抑制遺伝子に、BRAF阻害またはMEK阻害に対する耐性発現に介在することが知られている同時変異が存在していても、PIK3CA変異またはがん抑制遺伝子PTEN欠失以外では、対立遺伝子頻度が3%を超える(中央値8.6%)場合、いずれの群でも無増悪生存期間への影響は認められなかった。
ベムラフェニブ単独治療群では、がん抑制遺伝子PTEN欠失患者の無増悪生存期間はPTENが欠失していない患者と比較すると短縮した(ハザード比[HR]:1.6、95%信頼区間:0.96~2.8)。しかしながら、コビメチニブ+ベムラフェニブ併用治療群では、無増悪生存期間に対するPTEN欠失の影響は認められなかった。
結論
coBRIM試験の今回の長期追跡調査から得られたデータにより、BRAF V600変異陽性の進行メラノーマ患者に対するコビメチニブ+ベムラフェニブ併用療法の臨床的効果が確認されたと著者らは述べている。試験開始時のBRAF V600変異対立遺伝子頻度は併用治療の臨床転帰に影響を及ぼさないことが、後ろ向き解析および探索的解析で共に示された。
さらに、BRAF阻害剤およびMEK阻害剤に対する耐性獲得に介在する可能性のあるRASおよびRTKの活性型変異が共に存在していても、臨床転帰への影響は認められなかったことから、BRAF V600変異を有する患者すべてにコビメチニブ+ベムラフェニブ併用療法は有効であることが示唆される。また、コビメチニブ+ベムラフェニブ併用療法は、がん抑制遺伝子PTEN欠失による有害作用を克服した。
本データは、試験開始時のゲノム不均一性は必ずしも悪い臨床転帰と関連づけられていないことを示している。
著者らは、BRAF阻害剤とMEK阻害剤の併用療法がBRAF変異陽性の進行メラノーマに対する新たな標準治療となることを示唆している。
利益相反の公開:本試験はHoffmann-La Roche社が試験依頼者である。
引用文献
25LBA Impact of baseline genetic heterogeneities on progression-free survival (PFS) in patients (pts) with advanced BRAFV600-mutated melanoma treated with cobimetinib (COBI) + vemurafenib (VEM) in the phase 3 coBRIM study
欧州医薬品庁(EMA):意見概要(初期承認)コビメチニブ
欧州医薬品委員会(CHMP)は2015年9月24日、ベムラフェニブとの併用で切除不能または転移性メラノーマに対する治療を適応とする医薬品Cotellic(一般名:コビメチニブ)の製造販売承認を勧告し、肯定的な意見を採択した。本医薬品の承認申請者は、Roche Registration社である。
Cotellicは、フィルムコート錠20mgとして入手可能となる予定である。Cotellicの有効成分はコビメチニブであり、MEK1およびMEK2の2種類のキナーゼを標的とすることによりマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路を阻害し、細胞内シグナルの阻害、腫瘍細胞の増殖抑制、またBRAF阻害剤単独療法(ベムラフェニブ)と比較して薬剤耐性発現の遅延を図る抗悪性腫瘍薬(ATCコード:L01)である。
Cotellicは、ベムラフェニブ単独療法と比較すると、BRAF V600遺伝子変異型メラノーマ患者の無増悪生存期間を延長する点で優れている。Cotellic+ベムラフェニブ併用群で高頻度に発現した副作用は下痢、皮疹、悪心、発熱、日光過敏症、ALT(GPT)上昇、AST(GOT)上昇、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)上昇および嘔吐であった。
Cotellicの適応は、「BRAF V600遺伝子変異を示す切除不能または転移性メラノーマを有する成人患者の治療薬として、ベムラフェニブとの併用により用いる(4.4項および5.1項参照)」である。ベムラフェニブとCotellicの併用投与は、抗がん剤治療に十分な経験を有する認定医のもとで実施することが奨励される。
本医薬品の使用に関する推奨の詳細は、医薬品の製品概要(SmPC)に記載され、公開医薬品審査報告書(EPAR)に掲載され、欧州委員会による製造販売承認後、すべてのEU公用語で利用可能になる予定である。
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