OncoLog 2015年4月号◆分子標的薬治療で高リスクのメラノーマ(悪性黒色腫)再発に先手を打つ

MDアンダーソン OncoLog 2015年4月号(Volume 60 / Number 4)

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分子標的薬治療で高リスクのメラノーマ(悪性黒色腫)再発に先手を打つ

—–Bryan Tutt

転移したメラノーマの治療には複数の分子標的薬が承認されているが、たとえ再発の リスクが高い症例であっても、早期のステージで切除可能な症例には通常使用されていない。

しかし、切除可能な再発高リスク のメラノーマ患者を対象として、無再発生存期間の延長を目的とした、術前および術後の分子標的薬治療の臨床試験が実施されている。

再発高リスクのステージIIIメラノーマ(リンパ節への転移がある)患者への標準治療は、手術の後、経過観察に移行するか、高用量インターフェロンによる術後補助療法である。インターフェロンは、この患者群への標準的な補助療法であるが、わずかな利益に対して副作用が重いと考える医師が多い。「インターフェロンには多くの副作用があり、忍容性の点で難しい薬です。また、データによると、再発リスクの低下はわずかです」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのメラノーマ内科腫瘍学部門の助教Rodabe Amaria医師は述べている。

再発高リスクのステージIIIの患者に対してもっと効果的な治療法が必要であると、外科腫瘍学部門およびゲノム医学部門の助教であるJennifer Wargo医師は言う。「再発高リスクの切除可能なメラノーマ患者のうち、7割もがこの疾患のために亡くなります」Wargo医師とAmaria医師は、この患者群は転移したメラノーマの治療に用いる新しい分子標的薬から利益が得られるかもしれないと考えている。

転移したメラノーマを治療するBRAFおよびMEK阻害薬

最近のメラノーマ治療の進歩によって、BRAF阻害薬と呼ばれる新たな薬効分類の薬が開発された。

BRAF遺伝子の変異は、皮膚メラノーマの約半数にみられる。変異したBRAFタンパク質によって、MAPシグナル伝達経路上のMEKキナーゼなどのキナーゼが活性化し、がん細胞を刺激して成長と増殖を促す。BRAFの活性を阻害するとMAP経路が遮断されるが、これは一時的な効果しかない。Wargo医師によると、「BRAF阻害薬の効果は6カ月程度持続しますが、その後一部の患者でMAPキナーゼ経路の再活性化が起こります。そこで、その経路を別のポイントで遮断するMEK阻害薬を加えたところ、転移したメラノーマ患者の無進行生存期間の中央値が約10カ月に延長しています」。

経口BRAF阻害薬dabrafenib[ダブラフェニブ]と経口MEK阻害薬trametinib[トラメチニブ]は、BRAF変異を有する転移したメラノーマの患者の治療に対し、2013年にそれぞれ単独で米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けている。この2剤の併用療法は、2014年に同じ適応で承認された。

再発高リスクの切除可能メラノーマの臨床試験

メラノーマが全身に転移した患者へのダブラフェニブとトラメチニブの併用療法に効果がみられたため、この療法を早期ステージの患者に拡大する臨床試験を開始しました」と、Wargo医師は言う。同医師は再発高リスクのメラノーマ患者を対象として、外科手術の前後 にダブラフェニブとトラメチニブを投与する臨床試験の責任医師を務める。

この試験は現在患者登録中であり、適格条件はBRAF変異があり、ステージIIIB、ステージIIIC、または切除可能なオリゴメタスタシス(少数個転移)(ステージIV、転移巣が3個以下)があるメラノーマである。患者は、手術のみで補助療法なしの群(現在の標準治療)と、手術に加えてダブラフェニブとトラメチニブの併用療法を術前8週間、術後44週間受ける群に無作為に割り付けられる。

これまでのところ、この併用療法の忍容性は良好である。副作用としては、発熱と悪寒、倦怠感、関節痛がみられる。本試験の結果はまだ明らかでないが、Wargo医師はこの療法が患者の再発リスクを低下させることに前向きな期待を寄せる。「手術前にこの薬物併用療法を行った患者の中には腫瘍が完全に消失して、病理学的完全奏効を得た例もあります」。

Amaria医師とWargo医師は、術前補助療法が他のがんと同様に、メラノーマにも有効と証明されることに期待している。ダブラフェニブとトラメチニブを併用する術前療法は、再発につながる微小転移だけでなく、局所病変や領域病変にも効果があり、手術適応を増やす可能性もある。術前補助療法によって、腫瘍のステージが下がれば、一部の患者では縮小手術が可能になり、また断端陰性が得られる。

Amaria医師によると、「腫瘍内科医は、再発高リスクのメラノーマ患者に対する治療について、考え方を変える必要があります。われわれが予測しているように、このレジメンで生存のアウトカムが改善するならば、この患者群の治療の枠組みが変わるかもしれません」。

詳細については、Rodabe Amaria医師(713-792-2921)またはJennifer Wargo医師(713-745-1553)に電話で問い合わせてください。
再発高リスクメラノーマに対するBRAF阻害薬およびMEK阻害薬の併用試験の詳細は、ホームページ(www.clinicaltrials.org)から試験番号「2014-0409」で検索するか、Jennifer Wargo医師(jwargo@mdanderson.org)に問い合わせてください。

【画像キャプション訳】
メラノーマが右腋窩リンパ節に転移(赤丸部分)した47歳患者のCT画像。
この病変は当初、切除不能と考えられたが(写真左)、ダブラフェニブとトラメチニブを併用した治療後8週間で腫瘍が著しく縮小し(写真右)、切除可能となった。切除した結果、残存腫瘍は認められなかった。

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翻訳担当者 佐復純子

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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