OncoLog 2014年11-12月号◆ぶどう膜黒色腫の治療向上への挑戦
MDアンダーソン OncoLog 2014年11-12月号(Volume 59 / Number 11-12)
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ぶどう膜黒色腫に対する治療向上への挑戦
原発性ぶどう膜黒色腫は、放射線治療や外科的処置により効果的に治療しうるが、転移病変を有する患者や、転移に関するハイリスク患者では、有効な治療選択肢がほとんど存在しない。今もなお、腫瘍内科、放射線腫瘍医、眼科、外科、トランスレーショナルリサーチの専門家らはこの選択肢の改善に取り組んでいる。
ぶどう膜黒色腫はまれな疾患であり、黒色腫症例のわずか5%を占めるにすぎない。しかしながら、ぶどう膜黒色腫は転移するとしばしば致死的となる。なぜなら最も頻発する転移部位が肝臓だからである。原発腫瘍の治療後に何ら疾患の徴候を認めない患者でさえも、5年以内に約25%、生涯を通じて50%が転移する。
ぶどう膜黒色腫患者の転移性疾患による死亡リスクを最小限に食い止めようと、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの医師と研究者らは集学的に戦略を立てている。すなわち、原発腫瘍の治療、転移ハイリスク患者の同定、それらの患者に対する補助療法、あるいはより注意深い経過観察を実施し、転移疾患の新しい治療法を探索している。
原発腫瘍の治療
原発腫瘍の治療には眼球摘出といった外科的処置が必要とされ、ぶどう膜黒色腫患者の約30%に施行されている。ほとんどの患者に対し、その代替法として小線源治療が可能である。患者に放射線活性プラークを挿入し、腫瘍の大きさによって2~4日そのまま放置する。放射線腫瘍学科助教のBeth Beadle医師によると、小線源治療を行ったぶどう膜黒色腫患者のおよそ90%は小線源治療による局所的コントロールが可能である。ぶどう膜黒色腫の小線源治療には、同位体元素としてヨウ素125が最も一般的に用いられる。
ぶどう膜黒色腫の治療に用いられるヨウ素125以外の同位体に、ルテニウム106がある。これは2003年から2007年まで米国で使用されていたが、その後営利的理由から使用されなくなった。しかし、ルテニウム106は米国以外の国では継続して使用されており、主にヨーロッパで広く用いられている。「ルテニウムは非常に高い放射線量を非常に小さい部分に当てることができます。むしろその傾向はヨウ素以上であり、正常組織への毒性がより少なくなります」とBeadle医師は述べた。
ルテニウム106は最近、米国でも再び使用できるようになった。MDアンダーソンは、使用をいち早く再開した施設のうちのひとつであった。MDアンダーソンがルテニウムの使用再開を決定した背景には、2003年から2007年にかけて同施設におけるぶどう膜黒色腫患者40人に対するルテニウム106による治療記録のレビューがある。そのレビューに基づきBeadle医師と共同研究者らは、ルテニウム106がヨウ素125と同等の局所治療効果を有し、かつ毒性がより少ないことを確認した。
「ルテニウムの放射線透過性は限局的な狭い範囲に限られるため、非常に小さな病巣部に対してもルテニウムであれば使用することができます。その深さは5mm以下ですが、目に見える病巣部の大部分を含んでいます。ヨウ素は今も非常に優れた治療法ですが、腫瘍が非常に小さい患者にとってはルテニウムの方が良いかもしれません」とBeadle医師は述べた。
早期に診断された腫瘍であれば、ルテニウム106で治療可能なほどに十分小さいと思われる。「もし、早期にこれらの腫瘍を発見すれば、眼球を温存でき、患者さんの目に与える毒性がより低い治療法を勧めます」と、頭頸部外科教授であり眼科主任のDan Gombos医師は述べた。早期診断は原発腫瘍の治療選択肢を広げるが、早期治療が患者の転移性疾患の発症を減少させるかどうかは不明である。
転移リスク評価
「ぶどう膜黒色腫からの転移については2つの考え方があります」とBeadle医師は次のように説明した。「ひとつは、局所疾患の未治療期間が長いほど、より転移の機会が多くなるというもの。もうひとつは転移性疾患は腫瘍生物学的に決定され、局所疾患のコントロールによって影響を受けないというものです」。
近年、ぶどう膜黒色腫の転移が発現する腫瘍生物学的影響について解明が進んでいる。市販の検査法(DecisionDx-UM, Castle Biosciences社)により、ぶどう膜黒色腫の転移ハイリスクに関連する遺伝子変異群の腫瘍RNAを解析する。この遺伝子プロファイルは、原発腫瘍の治療が成功した後の転移発生リスクの分類に用いられる。
「この検査によると約50%の患者が治療後3年後までに転移を生じるハイリスク群であり、治療後5年までになると70%以上の患者がハイリスクであることがわかりました」と腫瘍内科黒色腫学助教のSapna Patel医師は述べた。
この検査法の欠点は腫瘍の検体が必要なことである。ほとんどの患者に穿刺生検を実施し、検体を採取しなければならない。ぶどう膜黒色腫は臨床所見に基づいて診断されるため、今まで生検は必要ないと考えられていた。「20年前はこの種の腫瘍に生検など行っていませんでした」とGombos医師は言った。この根本的概念は変化しつつあり、多くの眼科腫瘍医や眼科医は放射線プラークの縫合前に穿刺生検を実施している。「穿刺生検は腫瘍を拡散させるのではないかという懸念がありましたが、現在はそのリスクは非常に低いということで意見が一致しています」。
この検査のもうひとつの欠点は、腫瘍がハイリスクと確定した患者に対する選択肢がほとんどない事である。「この検査は患者の予後不良を確認することに関しては高い精度で検出しますが、問題はぶどう膜黒色腫に対する転移性疾患の標準治療が確立されていないことと、効果的な補助療法も何ひとつ証明されていないことです」とPatel医師は述べた。
効果的な補助療法に向けて
原発腫瘍の局所的治療が成功した後、MDアンダーソンではすべてのぶどう膜黒色腫患者が、特にその遺伝子発現プロファイルが転移ハイリスクの患者は、 Patel医師かあるいは同じ腫瘍内科黒色腫学の医師に紹介されコンサルティングを受ける。腫瘍専門医は、標準治療の経過観察か、あるいは肝臓やその他の部位に臨床上発見できる前の段階の微小な転移を抑制する目的で、試験中やプロトコル外の補助療法を勧める。
Patel医師は、原発性ぶどう膜黒色腫の治療歴のある転移ハイリスク患者を対象とした補助療法に関する臨床試験の責任医師であった。試験に参加した患者は、癌細胞を監視する免疫応答を高めるためにイピリムマブを投与された。この試験は助成の関係で、すでに患者の登録は終了している。
ぶどう膜黒色腫の原発腫瘍治療後の転移ハイリスク患者に対し、補助療法として承認外のイピリムマブを使用することは、通常は不可能である。「現在のところイピリムマブは癌治療薬のなかでも、最も高価な薬剤のうちのひとつであり、しかも補助療法に対して承認されていません。仮に転移が発生した場合に、保険会社がその治療費を支払うとしても、これらの患者は転移性の疾患をまだ発生していません。転移するハイリスクというだけです」とPatel医師は述べた。それでもプロトコル外の他の補助療法が、このような患者の治療にしばしば使用されている。
転移性ぶどう膜黒色腫は肝臓に発生することが最も多いことから、あるプロトコル外の治療は肝臓を標的としたものである。「CTスキャンでは発見できないほど微小な転移が肝臓にあるかもしれないと考えます。その腫瘍量は極めて小さいと思われ、それらを一掃するべく抗がん薬で肝臓を治療します」とPatel医師は述べた。
肝臓標的治療では、放射線治療医がカテーテルを鼠径部より肝循環に挿入し、抗がん薬を投与する。1回目は肝臓の右側に、2回目は左側にというように抗がん薬を交互に注入する。
他の補助療法に、ボリノスタット等のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤でBAP1タンパク質機能を修復させる方法がある。これらの薬剤はBAP1腫瘍抑制遺伝子の変異を不活化する。この遺伝子変異はぶどう膜黒色腫によくみられ転移のハイリスクと関連する。Patel医師によると、てんかんの治療によく用いられるバルプロ酸もまた、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害し、しかも安価である。しかし「ヒストンアセチル化を介したぶどう膜黒色腫転移を予防するために必要な、バルプロ酸の投与量は明確ではありません」とPatel医師はつけ加えた。
転移性疾患の治療
ぶどう膜黒色腫の補助療法としての転移性疾患の治療に関しては、ほとんどまだ何も分かっていない。「ひとたび肝臓に転移すれば、この疾患を治すのは非常に困難です。期待に応えてくれそうな薬剤がいくつかありますが、転移性疾患の治療は証明されていません」とGombos医師は述べた。
転移性ぶどう膜黒色腫の患者を対象とした、MEK阻害剤トラメチニブの単独あるいはAKT阻害剤GSK2141795の併用群でのランダム化第2相臨床試験が、MDアンダーソンと他の医療施設で進行中である。「MEK経路と AKT経路は転移性疾患の発生に相補的に関わっているようで、両経路を阻害することが重要です」とPatel医師は述べた。
転移性ぶどう膜黒色腫患者を対象とした抗PD-L1抗体に関する臨床試験の登録は最近完了したが、それ以外にも、MDアンダーソンでは、転移性ぶどう膜黒色腫に関する臨床試験が間もなく開始される。また、種々の癌種に関するオープン試験が複数あるので、転移性ぶどう膜黒色腫患者は、その登録適格者に当たるかもしれない。
実施中の試験
臨床試験のみならず、基礎研究やトランスレーショナルリサーチも、ぶどう膜黒色腫による転移の予防と治療を探索する上で重要な役割を果たす。抗CTLA-4抗体, 抗PD-1抗体, 抗PD-L1抗体は転移性皮膚黒色腫の患者の生存期間を延長するが( New Approaches Revolutionize the Treatment of Advanced Melanoma参照)これら薬剤のぶどう膜黒色腫に対する効果は不明である。
腫瘍内科黒色腫学教授Elizabeth Grimm博士は、ぶどう膜黒色腫が皮膚黒色腫に有効な薬剤に反応するとは限らない、と説明した。というのは、この2つの疾患は生物学的に異なっているからである。「現在のところ、ぶどう膜黒色腫と皮膚黒色腫に共通の遺伝子変異は確認されていません」とGrimm博士は述べた。「ぶどう膜黒色腫は、3番染色体のモノソミーを主とした、それ自体ユニークな遺伝子特性のサブセットを持っています」。
ぶどう膜黒色腫の遺伝子特性を理解し、開発可能な薬剤を発見することが主な目標だ、とGrimm博士と腫瘍内科黒色腫学の研究者らは言っている。例えばScott Woodman医学博士やChandrani Chattopadhyay博士は、6,000種の薬剤をひな型に、主な薬剤のスクリーニングをGulf Coast Consortiaで実施計画中である。研究者らは、ぶどう膜黒色腫に対する種々の薬剤の活性についてin vitro試験のプロトコルを作成した。薬剤のスクリーニングに加えて、Chattopadhyay博士は、ぶどう膜黒色腫の肝転移に対する、肝細胞増殖因子とインスリン様増殖因子受容体の影響をin vitro で試験中である。
「これらの特異的増殖因子と受容体は肝臓での増殖を誘導するため、私たちはこれらの因子に依存した原発性ぶどう膜黒色腫と肝転移を研究しています」とGrimm博士は述べた。
上述したプロジェクトやその他のプロジェクトのために、 Grimm博士と形成外科教授のBita Esmaeli医師を含む同研究室の研究者らは、ぶどう膜黒色腫患者から得た腫瘍と血液の検体を15年間収集してきた。これらの腫瘍の多くは解析のため癌ゲノムアトラスに提出された。
ぶどう膜黒色腫の希少性と生検検体のサイズが小さいことから、研究者が得る情報源に限界がある。しかし、研究者らは多施設共同研究を実施することでこれらの困難を乗り越えていると、Grimm博士は語った。「私たちは世界中に研究室のネットワークを持っています。これが非常に活発な活動をしている。ぶどう膜黒色腫については私たちが主導施設のひとつですが、世界中の研究施設と協力しています」。
新しい時代の幕開け
現在のところ、臨床医が転移性ぶどう膜黒色腫患者や転移ハイリスク患者に対して推奨できる選択肢は限られているが、Gombos医師は楽観的だ。「われわれは今、以前よりも優れた選択の道に進み始める、ぶどう膜黒色腫治療の新時代の分岐点に立っています。MDアンダーソンは、このまれな悪性眼疾患の最前線で、他に例を見ない医師と研究者の集学的チームとして取り組んでいます」。
【画像キャプション】ぶどう膜黒色腫患者に放射線活性プラークの挿入を準備するDan Gombos医師。プラーク小線源治療により、ほとんどの患者が眼球を摘出することなく原発腫瘍の局所コントロールが可能である。
For more information, contact Dr. Beth Beadle at 713-563-2308, Dr. Dan Gombos at 713-794-5588, Dr. Elizabeth Grimm at 713-792-3667, or Dr. Sapna Patel at 713-792-2921.
— Sarah Bronson
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