進行メラノーマに初の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法をFDAが承認

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

米国食品医薬品局(FDA)は30年以上の歳月をかけて、免疫細胞である腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocyte:TIL)を用いる初のがん治療薬であるリフィレウセル(販売名:アムタグビ)を承認した。2月16日に発表されたFDAの決定により、リフィレウセルは固形皮膚がんである悪性黒色腫(メラノーマ)に対して承認された最初の細胞療法にもなった。

FDAによる迅速承認は、一部の免疫療法薬や分子標的薬による治療後に増悪した進行メラノーマ患者に対するリフィレウセルの使用を対象とするものである。

別の細胞療法であるCAR-T細胞療法と同様に、リフィレウセルも患者自身のT細胞を用いて作製される。いずれの治療法でも、患者が治療を受けている病院で採取された細胞は、製造施設へ送られ、最終的に患者投与用に調整・製品化される。

ただし、TILとCAR-T細胞療法の間には重要な違いがある。

承認済みのCAR-T細胞療法では、T細胞は患者の循環血液から採取される。一方、TIL療法では、T細胞は患者の腫瘍から採取される。

リフィレウセルの承認は、Iovance Biotherapeutics社(以下、Iovance社)が主導した臨床試験の結果に基づくものである。FDAが最終的に承認した用量のリフィレウセルが投与された参加患者70人以上のうち、ほぼ3分の1は少なくとも腫瘍の大きさがある程度縮小し(腫瘍反応)、一部の患者では腫瘍が完全に消失した(完全奏効)。

また、リフィレウセルが奏効したメラノーマ患者の約40%では、1回限りの点滴治療を受けた1年後もがんの増悪が認められなかった。

TIL療法は、Steven Rosenberg医師ら(NCI外科部門)によって先駆けて開発された。1980年代後半、Rosenberg氏はTIL療法の史上初の臨床試験を主導し、非常に進行したメラノーマ患者の腫瘍を縮小できることを示した(Rosenberg氏は最近、TIL療法の開発などの免疫療法に関する業績が認められ、免疫療法に関する業績が認められ、技術革新に対する米国最高の賞を授与された)。

その後、数年にわたり、NCIの研究者らはTIL療法を製造・投与する工程をさらに改良した。2011年、NCIはIovance社と共同研究契約を締結し、より大規模な臨床試験の実施や製造基盤の整備などのこの特殊なTIL療法の開発をさらに進め、FDA承認への道を開いた。

長い時間がかかったことをRosenberg氏は認めた。この新規承認は「大きな一歩」で、「細胞療法ががん治療の主流に加わりつつある」ことを示すものであるとRosenberg氏は述べた。

TILには、ほんの少しの助けが必要

6種類のCAR-T細胞療法がFDAによる承認を受けており、いずれも白血病やリンパ腫などの血液腫瘍の治療に使用される。

CAR-T細胞療法の場合、採取した免疫細胞は細胞調製室で遺伝子操作を受けることでがん細胞を認識する能力を得て、その殺傷能力を高める。次に、CAR-T細胞を数億個に拡大培養させ、患者に点滴静脈注射する。

リフィレウセルの場合には、採取したT細胞は拡大培養される前に、遺伝子操作を受けることはない。というのも、T細胞は腫瘍組織検体から採取されたものであり、腫瘍を認識し、そこに移動できることがすでに証明されているからであるとRosenberg氏は解説した。こうした認識は、腫瘍細胞の表面に存在する特定の異常タンパク質(抗原)の存在に依存している。

しかし、銀行に忍び込む強盗が金庫を開ける道具を持っていないのと同じで、採取TILには仕事を完遂するために必要な能力や支援が不足している。TILに必要なものは、多くの援軍といくらかの激励である。

そのため、患者の腫瘍から採取されたTILは遺伝子操作を受けていないが、インターロイキン-2(IL-2)製剤との混合などの製造工程で、TILを数十億個の抗腫瘍免疫細胞に拡大培養させるための段階が踏まれている。

さらに、リフィレウセル療法の一環として、点滴静脈注射されたTILの抗腫瘍能力と全体的な効力を高めるために2つの措置がとられる。1つ目は、リフィレウセル投与の数日前に、患者が高用量「リンパ球除去」化学療法を数回受けることである。そして、2つ目は、リフィレウセル投与直後におけるIL-2の数回投与である。

リフィレウセルによる腫瘍反応は長期間持続する

FDAによる承認は、PD-1/PD-L1標的免疫チェックポイント阻害薬またはBRAF阻害薬による治療にもかかわらずがんが増悪し、リフィレウセル投与量が細胞75億個(薬剤承認用量)以上であった臨床試験参加患者73人から得られたデータに基づいている。

2023年12月に開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の免疫腫瘍学会2023で、本臨床試験参加患者153人から得られた長期結果が報告されたが、これは主に上記の患者73人の結果を反映している。

メラノーマがリフィレウセルによる治療に反応した48人(31.5%)のうち、半数以上はがんが増悪した所見もなく、1年以上生存している。こうした奏効の約10%は持続している。つまり、がんが増悪している証拠がない状態が続いており、ほぼ全員が数年間持続している。

この奏効期間が最も長い事例では5年近く持続したと、本臨床試験の主任研究者の1人である Martin Wermke医学博士(ドレスデン大学、ドイツ)はESMO総会で発表した。

本研究では、全参加患者をリフィレウセル投与から5年間追跡調査する計画であるとWermke氏は述べた。これまでの結果から、奏効が続いている参加患者ではがんが増悪したり再発したりすることはないと予想されると同氏は続けた。

リフィレウセルが奏効する人は?副作用は?

より大規模な臨床試験の参加患者から得た結果から、リフィレウセルに反応する可能性が最も高い人の特定に役立つ手掛かりがいくつか存在するとWermke氏は解説した。

例えば、がんが脳や肝臓に転移している患者(参加患者153人の約半数)は、ほとんど反応しなかった。腫瘍負荷が大きい、すなわち、体内に相当量のがんがある人の場合も、反応する可能性は低かった。

これらの所見から、リフィレウセルは、がんが体内の他の多くの部位に転移したり、個々の腫瘍がかなり大きくなったりする前に投与すれば最も効果的である可能性が示唆されるとWermke氏は指摘した。

本臨床試験の参加患者全員に治療による副作用が認められたとWermke氏は報告した。しかし、そのほとんどは危険なものではなく、リフィレウセル投与前に実施された化学療法薬と、投与後に実施されたIL-2が主な原因であった。最も多く認められた副作用は、貧血、高熱、および、血小板や一部の白血球の大幅な減少などであった。

TIL療法は、サイトカイン放出症候群や神経学的影響など、CAR-T細胞療法を受けた人に高頻度で認められる重篤な免疫関連副作用は引き起こさないようであるとWermke氏は述べた。

本臨床試験で認められた副作用の特徴は一貫していて、よくみられるものであったともWermke氏は強調した。

「副作用はすべて、治療を受けてから最初の2、3週間の間に起こっています。長期的には、新たな副作用はほとんどありません」とWermke氏は述べた。

TIL利用を臨床試験から日常がん治療に

Iovance社は、リフィレウセルを製造して患者に最終治療を実施することを目的に腫瘍検体を採取する治療施設を全米で30カ所以上承認したと発表した。こうした施設は5月末までに50カ所になる予定である。

最初は、すべてのTILはフィラデルフィア市内の同社の施設や委託施設で製造される。

同社によると、リフィレウセルの1回投与の治療費は、515,000ドル(約7,560万円)である。承認後に配信された同社のウェブキャストで同社関係者は、多くの保険会社が、同様に数十万ドル(数千万円)掛かるCAR-T細胞療法と同じ基準でTIL療法を保険適用とすることを期待していると述べた。同社は、患者を対象とする資金援助プログラムも設けている。

William Sharfman医師(ジョンズ・ホプキンス大学 シドニー・キンメル総合がんセンター、メラノーマ・プログラム共同責任者)は、今回の承認は進行メラノーマ患者にとって「非常に素晴らしい」知らせだと述べた。

しかし、リフィレウセルを患者に使用するには「いくつかの制限がある」とSharfman氏は戒めた。

その一つとして、患者が治療を受けるには、比較的健康な状態でなければならないとのことで、他の治療を受けている進行がん患者は必ずしもそういう状態にあるわけではない。 

「患者さんは、心肺機能が必ず正常でなければなりません」とSharfman氏は述べた。

Alexander Shoushtari医師(スローンケタリング記念がんセンター、細胞治療研究者)は、実施上の配慮点がリフィレウセルの使用を制限する可能性があることに同意見である。

「治療前に比較的高用量の化学療法を行い、(リフィレウセル)投与後に高用量のIL-2を投与するため、現在のところ、TIL療法を受けられる人は限られています」とShoushtari医師は述べた。

リフィレウセル承認後、次に来るものは?

メラノーマに対するFDAの承認は、リフィレウセルにとって最初の段階に過ぎない。Iovance社はすでに、進行メラノーマの初期治療として、リフィレウセル+免疫療法薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の併用療法の大規模臨床試験の参加患者の登録を開始している。

リフィレウセルは、卵巣がんや頭頸部がん患者だけでなく、進行肺がん患者においても有望な腫瘍反応を示すことなど、他のがんの治療薬としての検証も順調に進んでいる。

Rosenberg氏の研究室や他の研究室は、メラノーマだけでなく、他の固形がんに対しても、TILに基づく新規治療法を臨床試験で検証している。

「TIL療法が(他の固形)腫瘍を退縮させた明らかな実例があります」とRosenberg氏は述べた。これには、NIH臨床センターでの臨床試験で治療を受けた進行結腸がんや進行乳がんの患者の腫瘍が完全に消失した例が含まれる。

「この『画期的な承認』を得られたことで、TIL療法と細胞療法を取り巻く環境は概ね楽観的になっています」とShoushtari医師は述べ、「今回[の承認]は、固形がんに対する細胞免疫療法の氷山の一角であると期待しています」と言い添えた。

「リフィレウセルなどの第1世代TILは、こうした治療法が非常に有効であることを示す『重要な進展かつ概念実証』です。しかし、他のがん種やより広範なメラノーマ患者へ拡大適応には、まだ多くの課題が残っています」とShoushtari医師は述べた。

「より優れたTILの設計こそが課題です」とSharfman氏も同意した。

研究者らは既にこの課題に取り組んでおり、多様な固形がんに使用できる、より強力なTILの作製方法を模索している。例えば、NCIのRosenberg氏らは、腫瘍を強く認識し、攻撃する可能性が最も高いTILを同定する工程を開発した。

研究者らはTILの遺伝子操作にも着手しており、治療に反応する人の数を増やしたり、投与前化学療法や投与後IL-2の必要性をなくしたりすることを目標としている。

Rosenberg氏や他の研究者らががん細胞療法の研究に数十年にわたり取り組んできた結果、急速な進歩への道が拓かれたとRosenberg氏は強調した。

「私達は現在、腫瘍、特にがん死因の大部分を占める固形がんを免疫系が標的とするのを促す方法を知っています。世界には多くのチャンスがあるのです」とRosenberg氏は述べた。

  • 監訳 中村泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター )
  • 翻訳担当者 渡邊 岳
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  • 原文掲載日 2024/03/05

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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