2010/02/09号◆特集記事「メラノーマ治療薬、ある種の腫瘍に予期せぬ影響をもたらす」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2010年2月9日号(Volume 7 / Number 3)
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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇
メラノーマ治療薬、ある種の腫瘍に予期せぬ影響をもたらす
新しいクラスの標的薬が、初期臨床試験において進行したメラノーマ患者に劇的な奏効を示した。BRAF阻害剤と呼ばれるこれらの薬剤の長期的な効果はまだわかっていないが、一方で2件の報告によると、腫瘍にBRAF遺伝子変異がない患者に予期せぬ結果が生じる可能性があるという。
英国および米国の研究者らによる別個の研究において、細胞内でBRAF阻害剤がどのように作用するのかをより良く理解するためにその薬剤の試験が実施された。驚いたことに、一部の腫瘍の増殖がその薬剤によって実質的に促進された。予備調査結果からは、その薬剤が癌を悪化させることもあり得るので、特定の患者にBRAF阻害剤を投与するべきではないという可能性が持ち上がった。
これらの研究を踏まえ、今回の研究には関与していないがBRAF阻害剤の臨床試験を主導したことがあるスローンケタリング記念がんセンターのDr. Paul Chapman氏は、腫瘍のBRAF遺伝子コピーが正常な患者にその薬剤を投与すると実質的に腫瘍の増殖が加速されるのではないかと疑う理由があることを述べ、「研究結果では、害を及ぼす可能性があることから特定の遺伝子変異が認められない患者の治療は避ける必要がある、ということが示唆されています」と付け加えた。
その薬剤は、主に、V600Eと呼ばれるBRAF遺伝子変異を標的としている。BRAF阻害剤の臨床試験に参加した患者のうち、全員ではないが多くの患者において腫瘍にこの変異が認められた。その変化はすべてのメラノーマの約半数に存在しており、それによってMAPKシグナル伝達経路からの増殖促進メッセージが活性化される。
最新の研究では、伝達経路の他の部分に変異がある腫瘍に焦点が絞られた。「両研究チームとも、BRAF阻害剤は伝達経路の他の要素を活性化することによってV600E変異がないメラノーマ細胞で腫瘍の増殖を促進する可能性がある、ということを明らかにしました」と一方の研究を主導したGenentech社のDr. Shiva Malek氏は述べた。
研究者らは、2月3日号のNature誌オンライン版で研究結果を発表し、伝達経路阻害剤がどのように活性化につながり得るのかを説明できるかもしれない複数のモデルを提示した。
「わたしたちの結果は確かに矛盾しています」と、筆頭著者であるジェネンテック社のDr. Georgia Hatzivassiliou氏は述べた。「阻害剤はいかなる状況でも阻害剤であると思うのが当然です」。しかし同氏は、最新の結果ではBRAF阻害剤の効果は細胞状況もしくは腫瘍細胞の遺伝的背景に左右されることが明確に示されている、と言及した。
例えば、両研究チームとも、その薬剤はBRAF伝達経路の一部であるRAS遺伝子に変異があるメラノーマ腫瘍でBRAFシグナルを活性化することもあり得る、ということを明らかにした。英国の研究者らが1月22日号のCell誌で発表したように、その薬剤はRAS変異があるメラノーマ細胞の増殖を抑制するのではなくむしろ促進した。
研究の試験責任医師である英国がん研究所のDr. Richard Marais氏は、報告書の中で、最新の研究結果によって、研究者らはBRAF薬剤がヒトにどのように作用するのかを理解できるようになるだろう、と述べた。例えば、両研究とも、BRAF伝達経路活性化の主役はBRAFに近い関係のCRAFと呼ばれるタンパク質である、という結論に達した。
「研究結果は、BRAF阻害剤に対して起こり得る耐性メカニズムを理解するためのフレームワークとなります」とChapman氏は述べた。「研究者らは、結果からシグナル伝達経路のどこを調べるべきかというアイデアを得るのです」。
スローンケタリング記念癌センターのDr. Neal Rosen氏は、昨年研究を発表し、BRAF伝達経路のいくつかの複雑性について説明した。Rosen氏らはその薬剤に耐性を与える遺伝子変化を調査しているが、BRAF阻害剤に耐性を示すメラノーマ患者から十分な腫瘍サンプルの入手が困難なことから、作業ははかどっていない、とChapman氏は言及した。
間もなく開始される見通しの第3相試験を含む、BRAF阻害剤に関する新たな複数の臨床試験が進むにつれて、状況はいずれ変わる可能性がある。
「患者にとって重要な点は、この伝達経路を標的とする治療薬の開発において私たちが大きな一歩を踏み出したということです」とMalek氏は述べた。「しかし私たちは常により良い結果を出すことが可能です。すべての腫瘍はそれぞれ異なっており、これらの腫瘍の生物学的特性についてより多くを理解することで、さらに優れた治療法の開発が可能になるでしょう」。
—Edward R. Winstead
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豊 訳
辻村 信一 (獣医学/農学、メディカルライター)監修
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