放射線検査における放射線量低減への探求

カリフォルニア大学の新プロジェクトにより、患者への放射線曝露の安全性改善のためのロードマップが明示される

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)主導の新たな研究によると、各病院で放射線検査に用いる線量を横断的に評価・比較して放射線量の最良症例を共有することいにより、一般的なCT撮影の放射線量を安全かつ効果的に低減し、より一貫した線量で施行することが可能になることが明らかになった。

米国では、過去10年間にわたりコンピュータ断層撮影法(CT)の使用が着実に増加している一方で、最良の放射線量を設定した明確な基準はほとんどなく、線量は病院ごとに大幅なばらつきがある。その結果、医療専門家は、患者のがんリスクを増加させる放射線被曝を最小限に抑えつつ、診断精度とのバランスを取る「適切な」放射線量を決定することに苦心している。一貫した基準がないため、ほとんどの場合、検査に使用する線量は各施設が独自に決定している。

カリフォルニア大学の大学関連の医療センター5カ所で実施された新プロジェクトでは、放射線技師への線量フィードバック・システムを導入し、過剰な放射線被曝の低減効果を調べた。本プログラムは、最良症例を体系的に共有すると同時に、各医療センターの放射線専門家を監査し、線量を他の医療センターと比較してどうか、ということについてのフィードバックを提供するかたちで構成されたものである。このプロジェクトに放射線科の責任者、医学物理学者、放射線技師が参加した。

本試験は、JAMA Internal Medicine410日号に掲載された。このプロジェクトの結果、胸部および腹部撮影の放射線量は大幅に減少し、また頭部撮影についてもより一貫した放射線量となった。

「米国の腹部CT検査すべてがこのように改善したら、毎年約12,000のがん(※注:被曝による二次がん)が減少していたであろうと推定されます」と統括筆者である、UCSF放射線・疫学・生物統計科、フィリップ・R・リー健康政策研究所の教授のRebecca Smith-Bindman医師は語った。Smith-Bindman医師は、またRadiology Outcomes Research Laboratory(放射線アウトカム研究所)を運営している。

「放射線量を過剰にならないレベルに低減したり、医療機関ごとのばらつきを抑制したりすることは、患者の安全性を改善する非常に重要な過程です」とSmith-Bindman医師は語った。「詳細で比較に基づくフィードバックを提供し、さらに各施設が放射線量を最適化した上で最良症例を共有することにより、CT放射線量を低減し一定にすることが可能になりました。つまり、放射線量を最適化する方法に関して各施設が新たに考案しなければならないということがなくなりました。このプロジェクトは、各施設の指導者が学び合うことを支援することに重点を置いています」。

米国放射線医学会およびその他団体は、合理的に達成可能な範囲で低減した放射線量でCT撮影を行うことを提言している(ALARAの原則)※。しかし、明確なガイドラインがないため、CTの線量差が拡大し、患者の中には必要以上の被曝を受ける者もいる。

放射線被曝の最適化と放射線量の標準化への転換を支援するため、本研究の著者たちは、2013101日から20141231日までの間にUC Healthを構成する医療センターであるカリフォルニア大学デービス病院、アーバイン病院、ロサンゼルス病院、サンディエゴ病院、サンフランシスコ病院の5カ所で実施されたすべての診断用CT検査の情報(計158,000件以上のCT)を収集した。

その後、著者たちは、胸部、腹部および頭部CTの報告書を作成し、各医療センターの一人ひとりに報告書を提供し、直に会い結果を議論した。その際、各医療センターは、成功例と失敗例の両方を含めて、診断能に影響を与えずに放射線量を低減させる方法を共有した。共同研究者たちは、自らの医療センターで学んだことを共有し実施した。

著者たちは、放射線量を見直し、最良の臨床技術を共有することにより、標準的な胸部CT撮影の平均実効線量を19%近く低減でき、腹部CT撮影では平均線量を25%低くできることを明らかにした。頭部CT撮影の線量は検討後も大きな差はみられなかったと著者たちは報告した。胸部、腹部および頭部のCTスキャンは、医療センターで実施された全CT画像の80%以上を占めており、その改善は相当なものであった。

「これらの知見は、施設の放射線量を見直し、簡潔かつ包括的な形式を用いて放射線検査の実務にフィードバックを与え、専門家を呼び集め、改善のための戦略を議論する利点を示しています」とUCSFHelen Diller家族総合がんセンターのメンバーでもあるSmith-Bindman医師は述べた。

「当研究チームが指導力を発揮すると同時に、放射線量を改善、最適化、標準化するという困難な作業が、自らの提供する治療の改善に尽力するカリフォルニア大学の技術者、放射線技師、医学物理士によって行われました」。

試験にいくつか制限があるため、観察研究よりランダム化比較試験のほうが、「線量のフィードバックと線量の関連性についてより明確な証拠」をもたらす可能性があると著者たちは述べた。Smith-Bindman医師はランダム化比較試験のための資金を米国国立衛生研究所(NIH)から受け、その試験は現在進行中である。

JAMA International Medicine誌の同号に掲載された付随の論説は、本試験により貴重なロードマップが病院およびその他治療施設にもたらされると結論づけた。これまでの放射線改善プログラムは不十分であり、適切な変更が実施できる権限と責任を医療専門家に与えたため、この「確固たる」方法が部分的に成功したと論説は指摘する。

「研究チームは、5カ所の施設それぞれに柔軟性を持たせ、各施設の指導者が最良症例を集約的に規定し標準化する場を設けることにより放射線被曝の大幅な削減(とばらつきの軽減)が達成できると仮説を立て、その仮説は正しかった」と論説の著者たちは記載した。

論説の連絡先著者は、UCSF Healthの臨床革新副学部長でCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)、公衆衛生学修士および医師であるRalph Gonzales氏

論説には、放射線量低減を達成した各施設の行った具体的な変更はどのようなものなのか、その線量低減により診断精度が変化したかどうかなどの疑問が何点か残っていると指摘されている。「これは、今後試験を行う施設が考慮すべき点であることは間違いない」と記された。

本試験のUCSFの共同著者は次のとおりである:Joshua Demb, MPH, of the Department of Epidemiology and Biostatistics; and Philip Chu, MS, and Robert Gould, DSc, both with the Department of Radiology.

その他共著者は以下のとおりである:Thomas Nelson, PhD, and David Hall, PhD, from UC-San Diego; Anthony Seibert, PhD, Ramit Lamba, MD, John Boone, PhD, and Diana Miglioretti, PhD, from UC-Davis and Kaiser Permanente Washington Health Research Institute, Kaiser Foundation Health Plan of Washington; Mayil Krishnam, MD, from UC-Irvine; and Christopher Cagnon, PhD, and Maryam Bostani, PhD, from UCLA.

本研究は次の団体より資金提供を受けたものである。米国国立衛生研究所(5R01CA181191-03)、Patient-Centered Outcomes Research InstituteP0056817)、カリフォルニア大学のOffice of the President Center for Health Quality and InnovationA118665)。

翻訳担当者 松長愛美

監修 河村 光栄(放射線腫瘍学、画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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