リキッドバイオプシーは進行固形がんにて組織生検の代替となるか

非侵襲的な血液検査が組織生検の代替となる可能性

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「遺伝子変異は患者ごとに異なるだけでなく経時的に変化する。その事実は、がん治療において常に、また特に高精度医療(Precision Medicine:プレシジョン・メディシン)時代において特に難題でした」。ASCOの治療開発の専門委員であるSumanta Kumar Pal医師は言った。「われわれが適切な患者に適切な治療法を選択するに当たって、腫瘍生検よりも優れかつ信頼できる選択肢を手に入れたことは大きなインパクトなのかもしれません」。

大規模遺伝子解析により、血液サンプル中に検出された遺伝子変化のパターンが(リキッドバイオプシー)、従来の腫瘍生検で同定されたものと類似していたことが分かった。50の異なる種類の腫瘍を有する15,000人以上の患者から採取した血液サンプルを用いて実施されたこの研究は、これまでで最も大規模ながん遺伝子研究の1つである。

本研究は、本日の記者会見で特集され、2016年ASCO年次総会で発表される。

「組織生検が遺伝子型の分類に不十分であるまたは安全に実施できない状況において、リキッドバイオプシーとして知られる患者の血液中に流入した腫瘍由来のDNAを解析することが、高い情報価値を有しかつ低侵襲の代替検査法であることをこの新知見は示しています」。演者で、カリフォルニア大学デービス校総合がんセンターの分子薬理学教授・理事であるPhilip Mack博士は言った。「さらにGuardant360として知られるこの検査は、経時的に進化するがんの変化を観察できる、またとない機会を提供するのです。そしてこれは、継続的に腫瘍をコントロールするための治療選択を患者と医師が話し合う際には重要なものとなりえます」。

現在のところ、使用可能な抗がん剤の標的となりうるような遺伝子変異を腫瘍が有するかの評価は、腫瘍生検に大きく頼っている。腫瘍生検は外科的処置を含むが、患者は必ずしもそれに耐え得るほど体力があるとは限らず、また頻繁な再検査が実施可能とも限らない。

また、腫瘍細胞は細胞内の遺伝子断片、すなわちDNAを血流中に放出している。この、いわゆる、循環腫瘍DNA(ctDNA)は血液から採取でき、腫瘍生検と同様に、個々の患者の治療決定の手助けとなるべく研究室内で解析される。著者らによると、今回の研究は患者ごとに適した標的治療を選択するためにctDNA解析を用いた最大規模のものである。

重要所見

本研究には、15,191人の進行した肺がん(37%)、乳がん(14%)、大腸がん(10%)そしてその他のがん(39%)の患者が含まれた。それぞれの患者はctDNA解析のために1検体以上の血液サンプルを提供した。

本研究は、二つの方法によって、腫瘍検体との比較によりリキッドバイオプシーの正確性を評価した。まず、ctDNAにおける遺伝子変化パターンについて、398人の患者から得られた腫瘍組織の遺伝子検査結果と比較した。その結果、腫瘍増殖をもたらすEGFR、BRAF、KRAS、ALK、RETそしてROS1についてctDNAに”鍵”となる変異が認められた場合、同じ変異が組織において94~100%の確率でみられると報告された。大部分のctDNA変異は非常に低いレベルでみられ、半数の変異は循環血液中に存在する全DNAの0.4%未満にしか認められなかった。このような低いレベルにおいてさえ、リキッドバイオプシーの正確性は高く維持された。

著者らはまたctDNAに認められる特定の遺伝子変化の頻度が、以前に公表された「がんゲノム・アトラス」からのデータを含む腫瘍組織でのそれとどの程度一致しているのかについても評価した。その結果、リキッドバイオプシーは腫瘍の遺伝子変化の特徴を的確にとらえることが示唆された。

また、リキッドバイオプシーと腫瘍組織生検の間には、多くのがん遺伝子の異なったレベルの変異にわたって、概して0.92~0.99という高い相関をもって認められた。しかしながら、例外的にctDNAには認められるが腫瘍生検では認められない遺伝子変化は、EGFR阻害剤を投与された患者に認められる薬剤抵抗遺伝子T790Mのような、標的治療への治療抵抗性に関連した新たな変異であるという点で共通している。著者らは、腫瘍組織生検は治療前に行われるため、治療抵抗性に関連した異常が認められないのではないかという仮説を立てている。

血液検査で明らかになった遺伝子変化に基づいて、著者らは本研究に参加した患者の主治医に、FDA承認薬剤や臨床試験を含めて選択可能な治療法のリストを提供した。ctDNA検査により、全体で、検査を受けた患者の3分の2(63.6%)近くで、FDA承認薬剤の使用や臨床試験への参加適格性を含めた選択可能な治療法が存在することが明らかになった。

リキッドバイオプシーの臨床的有用性は、肺がん患者において明らかだった。362件の肺がん症例において、63%の症例で組織サンプルは検査に不十分か一部の検査しか実施できなかった。これらの症例では、ctDNA検査により、鍵となる遺伝子変化がこれまでに文献的に報告されたのと同程度の頻度で同定された。つまり、これらの患者ではctDNA検査が治療可能な標的の同定のための唯一の検査法である。

組織生検の代替法としてのリキッドバイオプシー

リキッドバイオプシーは、病状の進行、治療の効果そして治療抵抗性の発生を定期的に観察するために使用できる。もしどこかの時点での検査でがんの増悪または治療抵抗性の発生が示されれば、医師は患者の治療計画を修正できるようになるかもしれない。

定期的なリキッドバイオプシーは単に採血をするだけなので、患者の安全性や利便性の点から、組織生検を繰り返すより好ましいだろう。加えて、ctDNA における遺伝子変化は、画像上で腫瘍増殖の徴候が認められる前に起きることが多いので、リキッドバイオプシーにより医師は早めに治療計画の修正ができるようになるかもしれない。
リキッドバイオプシーには組織生検に勝るもう一つ重要な利点がある。腫瘍増殖を促すような遺伝子変化は、一つの腫瘍の中でも部位により異なることが多い。組織生検は腫瘍のほんの小さな一部を取り出すだけであることから、採取される部位によっては重要な変異が見逃されてしまう場合がある。これに対して、ctDNA解析では、腫瘍に存在するすべての異なる遺伝子変化に関する情報が得られる。

次のステップ

本研究においてctDNA変異は血液サンプルの83%から検出されたが、すべての患者が検査のための十分なctDNAを有していたわけではなかった。たとえば、神経膠芽腫の患者ではctDNA検出が難しいことが示されたが、これはおそらく血液脳関門の存在のために脳の腫瘍からctDNAが循環血液中に入り込みにくくなっているせいだと考えられる。

著者らは、非常に低いレベルのctDNAでも変異を検出できるよう検査の感度を上げることでこの問題に取り組んでいる。これにより、進行期のすべてのタイプの固形がんでの検査の感度が高くなるだけでなく、この技術がより早期のがんに適用できるようになるだろう。

本研究は、研究に使用された検査を製作したGuardant Health, Inc.社より資金提供を受けた。

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翻訳担当者 大澤朋子

監修 田中文啓 (呼吸器外科/産業医科大学)

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原文掲載日 

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