若年AYA世代を質の高いがんケアにつなぐプログラム

思春期から自活、就職、社会での人間関係まで、青少年や若年成人は次々と立ちはだかる困難に直面しているように感じることがある。そこにがんが加わるとしたらどうだろう。

毎年、約9万人の青年・若年成人(Adolescents and Young Adults:以下、「AYA世代」。一般的に15歳から39歳までの人と定義される)ががんの診断を受ける。そして、この患者層は、複雑ながん治療をナビゲートするための特別な支援を必要とすることが多い。

最近の研究によると、ノースカロライナ大学(UNC)リネバーガー総合がんセンターで10年前から実施されているプログラムにより、同センターで治療を受けているAYA世代への支援が大幅に増加した。例えば、この世代にとって特に重要な不妊カウンセリングを受けたAYA世代の人数に大幅な増加がみられた。このプログラムはまた、臨床試験へのAYA世代登録者数も大幅に増加させ、より多くのAYA世代の人たちが国のガイドラインで推奨されている他のケアを受けられるよう支援した。

UNCチームは現在、このプログラムの多くの要素を標準化し、他のがんセンターでも適応できるように取り組んでいる、とJacob Stein医師(公衆衛生学修士)は説明する。同医師は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のクオリティ・ケア・シンポジウムで、9月にこのプログラムの評価結果を発表した

「今、多くのがんセンターから『この問題をどうすればいいのか』と問い合わせがあります」。そして、AYA世代がん患者を支援するプログラムの利用可能性が広がった格好のタイミングである、とStein医師は付け加えた。

「若年層でがんが増加しているという研究結果が出ています。それは気がかりな傾向ですが、今、多くの人々がAYA世代のがんに関わり、発言しています。5年前や10年前にはなかったことです」と同医師は言う。

一人の患者から新プログラムへ

UNCがんセンターのAYAプログラムが始まったきっかけは、2014年、Sophie Steinerという14歳の希少がん患者ががん治療のためにUNCをやって来たことであった。彼女はダンスや写真を楽しむティーンエイジャーだったが、病院内の雰囲気(壁に描かれたピンクの象やピエロ)やケアプログラム全体が子ども向けだと感じていた。

「彼女は残念ながらがんで亡くなりました。でも[その前に]、彼女は両親に言ったそうです。『医療制度は若者のことを考えてくれているとは言えないので、もっと良くしてほしい』と」。

娘の希望に応えて、彼女の両親は「Be Loud!Sophie(声を上げろ!ソフィー)」財団を設立し、その支援により、同年、UNC AYAがんプログラムがスタートした。メンバーはソーシャルワーカー1人だけであった。

「2024年の現在、私たちのチームには11人のメンバーがいます」とStein医師は言う。チームには診療看護師(NP)、不妊カウンセラー1名、心理士1名が含まれます」。

同プログラムは成長したとはいえ、UNCリネバーガーでがん治療を受けるAYA世代患者全員に手を差し伸べるだけの資金や情報資源はない。しかし、すべてのAYA世代がん患者が同じような支援を必要としているわけではない、とStein医師は説明する。AYA世代は多様な集団であり、ニーズもさまざまであり、他の人よりニーズがずっと高い人もいる。ティーンエイジャーが学校生活についていくために特別な支援を必要とする場合があるのに対して、若年成人は経済的な困難や適切な支援体制の欠如に直面することが多い。

「家で両親と暮らしている16歳のホジキンリンパ腫患者、子どもが2人いる37歳の早期乳がん患者、25歳の進行性骨肉腫患者、それぞれまったく異なります」とStein医師は言う。「私たちは、がん治療中に困難に直面するリスクが最も高いと思われる人々とのつながりに重点を置いています。そして、彼らのニーズに合わせて[支援を]調整します」と付け加えた。

2015年から2022年にかけて、UNCで診察を受けた13歳から39歳までの患者は、約4,000人であった。この期間で、同年齢層のプログラム参加者は、6%から25%以上に増加した。この期間にプログラムに参加しなかった人たちと比較して、プログラム参加者は若年、未婚、黒人、進行がんまたは白血病などの血液腫瘍患者である傾向が高かった。

プログラム参加者は臨床ニーズが高いにもかかわらず、適切な場合には臨床試験に登録するなど、ガイドラインが推奨するケアを受ける傾向が不参加者よりも高かった。2015年から2022年の間に、プログラムに参加したAYA世代のほぼ45%が臨床試験に登録したのに対し、不参加者では26%であった。

さらに、このプログラムのAYA世代参加者は、不妊カウンセリング、緩和ケア、アドバンスケアプランニング相談など、ガイドラインで推奨されている他のケアを受ける傾向がかなり高かった。

AYA世代がん患者に共通する課題

シティー・オブ・ホープ小児がんセンターAYAプログラムを立ち上げた臨床心理士のJeanelle Folbrecht医学博士によれば、NCI指定がんセンターの約半数は、AYA世代患者が受ける複雑なケアの指針となるよう何らかのプログラムを実施しているとのことである。

シティ・オブ・ホープも約10年前にプログラムを開始した。Folbrecht博士によると、現在、国内のAYAプログラムはさまざまな方法で患者に手を差し伸べて患者とともに取り組んでいるが、経済的な援助、妊孕性温存、学校と就職の問題は常に、ニーズがもっとも高く支援も多く行われている分野であるという。

Folbrecht博士のプログラムでは、AYA世代がピアサポートを受けられるようにすることにも重点を置いている。

「AYA世代の人たちは、自分が経験していることを理解してくれる人たちとつながりたい、とよく言っています。だから、私たちは彼らを情報源につなげようとしていますが、同時に、彼ら同士がつながげるように心がけています」。

このようなつながりは、オンライン・グループ、キャンプ、2カ月に1度の対面ミーティングなどの活動によって作られている、と彼女は説明した。

AYAプログラムやサービスへのアクセス拡大

NCIがんサバイバーシップ室長のEmily Tonorezos医師(公衆衛生学修士)によれば、AYA世代がん患者のためのプログラムを確立し維持する上で、病院はその規模に関係なく複数の障壁に直面している。大きな障壁の1つは費用であるという。

テクノロジーの活用は、費用問題に対処する1つの方法である、とTonorezos医師は続けた。例えば、NCIが資金を提供するある研究では、がん診断に伴う苦悩に対処できるようAYA世代を支援するウェブベースのリソースをテストしており、また別の研究では、治療中のAYA世代患者が症状を管理できるようにするオンライン支援ツールをテストしている、と説明した。

「これらの介入は、病院や個人のコスト削減に役立つ可能性があるだけでなく、より多くの人々にこのような支援を提供できるようになるかもしれません」と彼女は述べた。

「ティーン・キャンサー・アメリカ(Teen Cancer America)」のような非営利団体も、AYAがんプログラムの開始を希望する病院への資金援助を行っている、とFolbrecht博士は言う。

AYAがん患者のための支援システム構築の機運が高まっているとはいえ、多くのAYAがん患者はそのようなプログラムのない病院で治療を受けることになり、自分自身のために声を上げなければならないであろう、と同博士は述べる。それには、たくさん質問をすることも必要であると彼女は助言する。「この治療は私の妊孕性に影響を及ぼすことになりますか?私ができることはなんですか?経済的なリソースについて尋ねてください。臨床試験について聞いてください」。

そして、セカンドオピニオンを受けることが最善だと思うなら、ためらわずにそうすべきだとFolbrecht博士は言う。

「あなたと主治医が効果的な治療[計画]に向かって進んでいること、そして、あなたのQOL(生活の質)やあなたが大切に思うすべてのことが保たれていることを自分で確かめたいはずです」。

AYA世代で診断された長期サバイバー

米国には、AYA世代で診断・治療を受けたがん長期サバイバーが200万人以上いることが、10月9日付のJournal of the National Cancer Institute誌で公表された研究で明らかになった。NCIがん管理・集団科学部門のTonorezos博士らが主導したこの研究は、米国におけるこの集団の規模を初めて明らかにした。

Tonorezos博士によると、このような情報を得ることは重要である。なぜなら、このサバイバー群には、小児や高齢者として治療を受けたサバイバー群とは異なる健康リスクや課題があるからである。本研究結果は、このサバイバー群のための研究ニーズを明らかにし、彼らに対するケアの理解や、ケア管理の計画に役立つ医療ケア制度の整備につながるという。
  • 監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/10/24

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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