バーチャル マインドボディ・フィットネスが がん患者に予想外の効果
米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ
がん治療中の人にとって、バーチャル・マインドボディ・フィットネス教室に参加することは、治療に伴う問題で入院するリスクが減るなど、重要な利点があるかもしれないことが臨床試験の結果で示された。
本試験において、そうした教室に参加するよう無作為に割り当てられた人々は、参加するよう割り当てられなかった人々よりも入院する可能性が低く、入院した場合の入院期間も短かった。
教室の一部では、ヨガ、太極拳、ダンスセラピーなどの動きを中心とした活動が行われ、他の教室では、音楽療法やマインドフルネスなどの瞑想を中心とした講座が行なわれた。
本試験の主任研究者であるスローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)統合医療部長のJun Mao医師(MSCE)は、これまでの研究で、マインドボディ・フィットネスが、疲労、不安、抑うつなど、がん治療に多い副作用を軽減するのに役立つことが示唆されていると指摘する。
今回の試験で、Mao医師らは、彼らが開発したIntegrative Medicine at Home(IM@Home:自宅で統合医療)と呼ばれるプログラムを検証した。このプログラムでは、20以上のライブ教室がZoomで配信される。試験参加者200人はMSKCCで化学療法、免疫療法薬治療、放射線療法を受けていた。
IM@Home群の参加者は、疲労、抑うつが少なく、治療関連の身体症状が少なかったと、10月28日にボストンで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)クオリティ・ケア・シンポジウムでMao医師は報告した。
研究者らは、病院や医療サービスの利用に関しても、予想していなかった違いがあることに気づいた。IM@Home参加者は、プログラムに参加しなかった試験参加者と比べて、予定外の入院が少なく、入院期間が短かったことに加え、緊急医療の受診回数が少なかった。
「IM@Homeプログラムに参加することで、入院回数が減り、入院する可能性も低くなったことには驚きました」とMao医師は言う。また、緊急医療を1回以上受診する可能性の減少にはつながらなかったものの、緊急医療受診回数の中央値減少には影響した可能性がある。
「これらは有望な結果です」とNCIがん治療・診断部門のFarah Zia医師は述べた。同医師ははNIH統合医療委員会の共同リーダーであり、この試験には関与していない。
「この試験は、マインドボディフィットネスのバーチャルプログラムをがん治療にうまく活用できることを示しています」とZia医師は述べ、がん患者にとってこのようなプログラムを利用しやすくする方法に関する研究は今までほとんどなかったとも述べている。
Zia医師は、より長期間の追跡調査を伴う大規模研究を行なって、科学誌に発表されていない、こうした結果を確認する必要があると注意を促した。Mao医師は、彼のチームがそのような研究を計画していると述べた。
「今回の試験は初期段階の試験として計画されたものですから、私たちはこの結果に確信を持てるまで、より長期間の追跡調査による大規模研究を行なっていきたいと思います」。
がん患者へのバーチャル マインドボディ・フィットネス プログラムの提供
がん患者や過去にがん治療を受けた人々における心身実践法に関する研究は、ここ数十年で広がりを見せている。例えば、ある最近の研究では、ヨガが前立腺がんの男性の症状とQOLの改善に役立つことがわかった。また別の研究では、マインドフルネス瞑想が若い乳がん女性の抑うつ症状を軽減することが示された。
このような知見から、腫瘍専門医らは、がん患者の不安や抑うつの治療にこれらの心身実践法の一部を用いることを推奨している。
一部の大規模がんセンターでは、すでにがん治療に心身実践法を取り入れている。「これらの手法は、社会的・感情的な健康がからだの健康と同様に重要であると認める、全人的健康法と呼ばれる患者ケア・アプローチの一部として行なわれることが多い」とZia医師は述べている。
こうした手法をがん患者向けに実施する最適な方法がわかっていなかったため、IM@Home試験では、がんケアにおける心身実践法に関する研究における重要なギャップを取り上げたとZia医師は指摘した。この研究は、Mao医師らがCOVID-19の大流行時に、がん患者を対象としたマインドボディ・フィットネス・プログラムの多くをバーチャル形式に変えたことに端を発している。
「パンデミックは困難なものでしたが、そのおかげで、より多くの患者が自宅にいながらにして参加できる方法を見つけることができました」とMao医師は説明した。Mao医師のチームは以前、マインド・ボディ・フィットネス・プログラムをバーチャルで提供することの実現可能性を実証している。
患者の心と体を活動的にする力を与える
IM@Homeを臨床試験で評価するために、Mao医師らは、中等度以上の疲労を訴えるさまざまながん種の患者を募集した。参加者は、IM@Homeに参加する群と、強化標準治療を受ける群に無作為に割り付けられた。強化標準治療では、主治医が示す標準治療を受けるとともに、事前に録音されたオンライン瞑想リソースが利用できた。
試験期間中、参加者に疲労の程度を評価してもらい、それに基づいて研究者らは疲労スコアを出し、比較検証した。また、研究者らは電子カルテを用いて、3カ月の研究期間中の参加者の医療機関受診状況を追跡した。
IM@Home群参加者は、さまざまなエクササイズや実践法の中から選択することができた。化学療法を受けた後などは、そうでない日のようには動く気力がない場合もあるから、そうした柔軟性が重要であったとMao医師は言う。
「私たちは、患者にさまざまな選択肢を選んでもらうことで、その人ができる範囲で常に活動的でいられるようにしようと考えました。もっと有酸素的な筋力トレーニングを望む人もいれば、マインドフルネス瞑想のような、座位中心のトレーニングを好む人もいるかもしれません」。
IM@Homeプログラムでは、参加者は講座中にグループのビデオチャットに参加することができる。「患者は、同じような旅路にある人たちと共同体意識を築くことができます。今日のCOVID後の世界で、一部の患者はかなり孤立している可能性があり、このような社会的つながりが有益な効果をもたらすかもしれません」。
参加者の年齢中央値は約60歳で、ほとんどの参加者は女性(91%)、白人(78%)であった。
2群間の入院率の差はかなりのものであった。例えば、バーチャル・マインドボディ・フィットネス群では、研究期間中に入院した人はわずか5%であったのに対し、強化標準治療群では14%であった。
また、入院した場合の入院期間でも差があった(中央値5日対9日)。入院日数は、バーチャル・マインドボディ・フィットネス群では17日であったのに対し、強化標準治療群では130日であった。
また、バーチャル・マインドボディ・フィットネス群は、緊急医療センターの受診も少なかった( 11回対30回)。
がん患者におけるマインドボディ・フィットネスについてさらに学ぶ
入院回数と緊急医療機関受診回数が減少した理由は明らかではないと研究者らは述べている。
これまでの研究で、所定レベルの疲労や関連症状を有するがん患者は、それらの症状がない患者ほど調子が良くない可能性が示唆されている、とMao医師は指摘した。同医師は今後、このような症状が入院にどのように影響するかを試験で検討する予定である。
Zia医師は、ランダム化により今回の結果の信頼性が高まったと述べ、この試験のデザインを賞賛した。
今回の結果を受けて、いつの日かすべての患者が「[がん治療の合併症を軽減する]効果的で安全な非薬物療法」を自宅にいながらにして受けられるようになる可能性が高まったとZia医師は述べた。
Mao医師らはまた、患者ががん治療を続けるうえで本プログラムが役立つかどうかを今後の研究で調査する計画である。そして、その答えがイエスであれば、プログラムを実施しなかった場合と比べて患者の生存期間が延長されるかどうかを調べたいとのことである。
「今回の研究は、われわれが知りたいことのほんの始まりに過ぎません」とMao医師は付け加えた。
- 監訳 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)
- 翻訳担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2023/12/15
この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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