米国がん免疫療法学会 2023(皮膚、大腸、肺がん他):MDA研究ハイライト
MDアンダーソンがんセンター
特集:微生物叢への介入、皮膚がんや転移性メラノーマ(悪性黒色腫)に対する新しいドラッグデリバリー法、肺がんやリンチ症候群の治療戦略など
アブストラクト:1534、777、1328、1526、1330、545
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、MDアンダーソンの専門家による最近の基礎研究、トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)、および臨床がん研究を紹介する。
本特集では、第38回米国がん免疫療法学会(SITC)年次総会で発表された口頭発表の中から、MDアンダーソン主導の研究によるがん免疫療法の科学的進歩と飛躍的な研究結果を取り上げる。研究ハイライトには、免疫療法薬に対する反応を改善する糞便微生物移植、臓器移植後に皮膚がんを発症した患者に免疫療法を提供するための遺伝子改変ヘルペスウイルス、腸内微生物叢と肺がん進行の関係についての洞察、リンチ症候群保因者の転帰を改善するための個別化遺伝子ワクチン、肺がん患者の治療反応を改善するための治療標的、転移性ブドウ膜黒色腫患者に対して肝臓に直接治療薬を送達する新規治療アプローチなどが含まれる。
SD-101とニボルマブ(販売名:オプジーボ)の特殊送達により、転移性ブドウ膜黒色腫患者の予後が改善(アブストラクト:1534)
ぶどう膜悪性黒色腫の肝転移(MUM-LM)は、骨髄由来抑制細胞(MDSC)の増加を含むいくつかの理由から、免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示す。TLR9アゴニストは通常、MDSCと闘うことができるが、腫瘍に直接投与することは困難である。第I相PERIO-01試験で、Sapna Patel医師率いる研究者らは独自の圧力有効化薬物送達(PEDD:Pressure-Enabled Drug Delivery)法を用いて、MUM-LM患者53人を対象にTLR9アゴニストSD-101を単剤または免疫チェックポイント阻害薬との併用で投与した。データカットオフの時点で、SD-101 2mgとニボルマブの併用により、MDSCの再プログラミングと腫瘍免疫応答のエビデンスが得られたことが実証された。この併用療法による無増悪生存期間中央値は11.7カ月、病勢コントロール率は86%であった。グレード3/4の治療関連有害事象を経験した患者はわずか8%であった。第2相試験では、最適化な投与量についてさらに調べる予定である。
腫瘍溶解性免疫療法が臓器移植後の皮膚がん患者に抗腫瘍活性を示す(アブストラクト:777)
非メラノーマ皮膚がん(NMSC)は、固形臓器移植(SOT)レシピエントにおいて移植後によくみられる悪性腫瘍である。固形臓器移植レシピエントにおける非メラノーマ皮膚がんの90%以上は皮膚扁平上皮がんと基底細胞がんである。残念ながら、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は移植臓器の拒絶反応を引き起こす可能性があるため、これらの患者には推奨されていない。これまでの研究では、遺伝子改変単純ヘルペスウイルス(RP1)を、腫瘍溶解性免疫療法として免疫チェックポイント阻害薬と併用することで、進行皮膚がんを有する非固形臓器移植レシピエントにおいて持続的な奏効が得られたことが示されている。今回の研究では、Michael Migden医師率いる研究者らが、進行皮膚がんを有する固形臓器移植レシピエント27人を対象に、RP1単剤療法の安全性と有効性を評価した。この治療法は明らかな抗腫瘍活性を示し、客観的奏効率は34.8%、完全奏効率は21.7%であった。RP1単剤療法の忍容性は良好で、同種移植片拒絶反応もなく、安全性プロファイルは免疫不全でない進行皮膚がん患者のプロファイルと同様であった。
遺伝子ワクチンは安全で、リンチ症候群患者の免疫反応を高める(アブストラクト:1526)
DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子変異はリンチ症候群(LS)の特徴であり、特に多くみられる疾患は遺伝性大腸がんである。MMR機能欠損細胞はマイクロサテライト不安定性(MSI)を示し、免疫療法への反応性と関連する変異タンパク質断片(ネオアンチゲン)を生成する。Nous-209は、MSI腫瘍を阻止し治療するために開発された遺伝子ワクチンで、腫瘍に共通する209の腫瘍特異的ネオアンチゲンをコードしている。最近報告された転移性MMR機能欠損消化器がんに対する免疫療法とNous-209ワクチンを併用した第1相試験では、安全性が証明され有望な初期活性が認められた。この単群非盲検第1b/2相試験において、Eduardo Vilar-Sanchez医学博士らは、最初に登録された10人の健康なLSキャリア全員に対して、ワクチンが安全であり、予防の観点から強力で広範な免疫応答を誘発することを明らかにした。Nous-209はCD4およびCD8 T細胞応答を誘導し、それによる重篤な有害事象は認められなかった。この試験から、Nous-209はLSキャリアを対象とした大腸がん以外のがん予防の臨床試験を検討すべきであることが示唆された。
糞便濾過液移植ががん患者の免疫療法反応を高める可能性(アブストラクト:1328)
免疫療法はがん治療の大きな進歩であるが、治療抵抗性を示す患者もいる。ある種の微生物は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に対する良好な反応と関連しており、ICI不応性のがん患者は、ICIに良好な反応を示す患者から糞便微生物叢移植(FMT)を受けた後、良好な転帰をたどっている。この関連をさらに検討するため、Jennifer Wargo医師とGolnaz Morad歯科医師/歯学博士を中心とする研究者らは、免疫療法で完全奏効(CR)を得た患者と、この治療で効果が得られなかった非奏効(NR)患者から、糞便の特定の液体成分である糞便濾液を分離した。CRを達成したメラノーマ患者からのFMTを受けたまたは濾液を投与されたメラノーマの実験モデルは、非奏効患者からのFMTまたは濾液を投与されたモデルと比較して、免疫療法に対する反応が有意に改善した。この研究は、これらの微生物製剤が免疫療法反応を改善するのに十分である可能性を示唆している。
腸内微生物叢のアンバランスが肺がんの免疫抑制と腫瘍発生を促進(アブストラクト:1330)
最近の研究で、腸内微生物叢が肺がん患者の免疫反応に影響を与えることが示されているが、その基礎となるメカニズムはほとんど解明されていない。この関係をさらに解明するため、Zahraa Rahal医師とHumam Kadara博士が率いる研究者らは、タバコに関連した肺がんの実験モデルにおいて、 抗菌タンパクLcn2を除去し、微生物の多様性を低下させ炎症を亢進させた後に、糞便微生物叢移植の効果を評価した。細菌の分布が不均衡なこれらのモデルでは、腫瘍増殖が有意に促進され、腫瘍を促進する細菌が豊富で免疫に有利な細菌が減少するなど、腸内微生物叢に違いが見られた。さらに、このモデルでは局所的な腸の炎症がみられ、腫瘍微小環境における免疫抑制が亢進し、免疫チェックポイント阻害薬に対する反応が低下した。この研究は、腸内微生物叢を調節することが、肺がんの免疫反応を改善する有望な治療戦略になる可能性を示している。
オートタキシンを標的にすることで肺がんの治療抵抗性を克服できる可能性(アブストラクト:545)
KRASまたはTP53変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)は、抗PD-1免疫チェックポイント阻害薬で治療可能であるが、多くの患者は効果が得られないか効果が持続しない。その理由を明らかにするために、Don Gibbons医学博士らは、これらの抵抗性がんの実験モデルを作成し、免疫療法に反応するがんと比較した。彼らは、オートタキシン(ATX)という酵素とその副産物であるリゾホスファチジン酸(LPA)が、抵抗性腫瘍で発現が上昇し、浸潤CD8+T細胞と負の相関があることを発見した。また、ATXまたはLPAR5(リゾホスファチジン酸受容体5)の阻害と抗PD-1と組み合わせることで、抗腫瘍免疫応答が回復し、肺がんの進行が抑制される可能性があることが示された。さらに、ATXは複数の肺がん患者に認められる炎症性遺伝子と関連しており、治療抵抗性に関与する免疫抑制経路としてのATXの役割をさらに強調している。これらの結果は、この経路を標的とすることで、NSCLC患者における抗PD-1治療の効果を改善できる可能性を示唆している。
- 監訳 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
- 翻訳担当者 青山真佐枝
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- 原文掲載日 2023/11/06
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