『米国がん年次報告』 COVID-19パンデミック初期に新規がん診断数が急落
米国国立がん研究所(NCI)ニュースリリース
最新の『がんの現状に関する米国年次報告書(Annual Report to the Nation on the Status of Cancer)』第2部によると、米国における6つの主要ながん種の新規診断は2020年初頭に急落し、これはCOVID-19流行の始まりと一致している。病理報告数も2020年初頭に急減しており、この時期にがん検診やその他のがん関連処置の実施件数が少なかったことを示唆している。これらの所見から、COVID-19パンデミックの初期に、恐らく医療が中断されたために多くのがんが適時に診断されなかったことが示唆される。
「がんを早期発見する機会をこうして逃していることは、特にがん治療を受ける上で常に大きな障壁に直面している社会的弱者にとって、憂慮すべきことです。今回の報告書は、米国全国民ががんによる不必要な死亡や合併症を避けられるように適切ながん治療の再開が急務であることを強調するものです。これこそが、がん検診の普及拡大がバイデン-ハリス政権によるがんムーンショット計画の主要優先事項である理由です」とMonica M. Bertagnolli医師(米国国立がん研究所(NCI)所長)は述べた。
本研究は、米国におけるCOVID-19パンデミックががん罹患率(がんの新規診断)に及ぼした影響を評価するために、がん中央登録からの集団ベースのデータを用いた過去最大規模の研究である。本報告書は、Cancer誌2023年9月27日号に掲載された。
『がんの現状に関する米国年次報告書』は、米国国立衛生研究所の一機関である米国国立がん研究所(NCI)、米国疾病対策予防センター(CDC)、米国がん協会(ACS)、および北米がん中央登録所協会(NAACCR)が協力して、米国におけるがんの発生と傾向に関する情報を提供するものである。全米のがん統計に焦点を当てた『がんの現状に関する米国年次報告書 第1部』は、2022年10月に公表された。
最新報告書第2部は、COVID-19パンデミック初年度の米国におけるがん診断の変化に焦点を当てたものである。こうした変化の一因は医療の中断に起因すると著者らは述べている。特に、2020年初頭にはがん検診が減少した。さらに、人々が受診を控えたために、初期症状や定期受診からの診断が遅れた可能性もある。
著者らは、CDC全米がん登録プログラム(NPCR)や NCI監視疫学遠隔成績(SEER)プログラムに参加している特定の集団をベースとしたがん登録のデータを用いて、2015年から2020年までのがん罹患率データを解析した。
著者らは、2020年における新規診断がん症例数を、過去年から予測した症例数と比較した。女性の乳がん、肺がん、および大腸がんを調査した。これらのがんは検診やその他の早期発見検査により診断されることが多いが、COVID-19パンデミックでそれが阻まれた可能性がある。甲状腺がんと前立腺がんは偶発的に診断されることが多い。また、膵がんは通常、患者が症状を呈して来院することで診断される。2020年にがん中央登録に送信された電子病理報告数と2019年に送信された数との比較もおこなった。
2020年3月から5月にかけて、6つのがん種すべての新規症例数が急落した。しかし、2020年7月までに、前立腺がんを除く全がん種の診断数はCOVID-19パンデミック前の水準に戻り、下半期には観測数と予測数の差はほとんど無くなった。
2020年初頭の同時期に、電子病理報告数も急落した後、COVID-19パンデミック前の水準に戻った。電子病理報告はがん中央登録に自動的に送信されるため、今回の知見から、新規がん診断の減少はCOVID-19パンデミックの混乱による報告の遅れによるものではなく、検診が受けられていないことや他のがん関連処置の遅れによるものであることを示唆している。
著者らは、新規がん症例減少について、診断時のがん病期、性別、年齢、および人口集団別についても調査した。本研究では各がん種において、早期がんの新規症例数は進行がんの新規症例数と比較して急激に減少していた。減少幅が最も大きかったものは、一般的に検診で診断されるがん(女性の乳がん、肺がん、および大腸がん)であった。例えば、2020年には7,147件の早期大腸がんが診断されると予想されたが、診断は5,983件のみであった。つまり、早期大腸がん症例の16%以上が発見されなかった可能性がある。
「診断の遅れがもたらす影響について深く懸念します。診断が遅れると、より侵襲性が高い疾患と転帰の悪化につながることが多いからです。効果的な治療と生存の機会を最大限にするためには、がんの早期発見に関して確実に挽回することが不可欠です」とKaren E. Knudsen博士(経営学修士、米国がん協会最高経営責任者)は述べた。
しかし、検診の未受検は、新規がん症例数の減少を一部しか説明していない。対面診察が少ないことも、診断の見落としの一因となったと思われる。特に甲状腺がんなど、他の医療処置中に偶然発見されることが多い疾患がこれに該当する。
アジア系や太平洋諸島系の集団は、白人、黒人、および北米先住民もしくはアラスカ先住民の集団と比較して、膵がんを除くすべてのがん種の新規症例数が急落した。別の集団間でみられた顕著な差として、白人における前立腺がん診断は黒人と比較して減少幅が大きかった。
今回のデータはがん登録簿の一部に報告された情報で構成され、米国全人口を代表するものではない可能性があることを著者らは認めている。また、ヒスパニック系住民のがん診断に関する詳細解析も含まれていないが、これは後の時点で組み込まれる予定である。
とはいえ、今回の知見から、COVID-19パンデミックの間、がんの早期発見の機会を逃していたことが示唆される。他の研究では、がん発見の遅れは、長期的には生存期間の短縮や死亡数の増加などにつながる可能性が示唆されている。検診の受検率を回復させる取り組みとして、予防医療受診への障壁を取り払うことと、早期発見における格差を縮めることに注力するべきであると著者らは指摘した。
再活性化したがんムーンショット計画の一環として、バイデン大統領夫妻は、COVID-19パンデミックの結果、米国内で受診されなかった検診約1,000万件の挽回を後押しするため、がん検診への行動を呼びかけた。現在までに、がんムーンショット計画は、がんの予防、発見、および治療における技術革新を加速させ、CDCからの2億ドル(約300億円)投資を含め、全50州、準州、および部族機関において、がん検診受検を推進している。バイデン-ハリス政権は今後も引き続き、転帰が最も良好となる早期に国民ががんを発見できるよう検診受検の格差解消を優先事項とし、推奨される検診を受検するよう国民に呼びかける。
「がん検診を含め、かつての日常的な医療に戻るようお勧めします。B型肝炎ウイルスやヒトパピローマウイルスなどの発がん性ウイルス感染を予防するために、小児、思春期児、および成人が最新のワクチン接種を受けていることを確認することも重要です」とLisa C. Richardson医師(公衆衛生学修士、CDCがん予防・管理部門長)は述べた。
一方、COVID-19パンデミックががんの傾向に与える影響に関して、さらなる識見を得るための研究も進行中である。
「本研究は、がん罹患率の減少が必ずしもがんとの闘いの進展を反映しているとは限らないことを思い起こさせるものです。現在、COVID-19パンデミックががんの転帰に及ぼす影響をさらに理解するために、2020年の全データをより詳しく解析しているところです」とBetsy A. Kohler公衆衛生学修士(北米がん中央登録所協会 専務取締役)は述べた。
『がんの現状に関する米国年次報告書』の詳細は、https://seer.cancer.gov/report_to_nation/。
- 監訳 小宮武文(腫瘍内科/Penn State College of Medicine)
- 翻訳担当者 渡邊 岳
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- 原文掲載日 2023/09/27
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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