2009/12/15号◆クローズアップ「循環腫瘍細胞(CTC)検査の実用化に向けて」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年12月15日号(Volume 6 / Number 24)

 ~日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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クローズアップ

循環腫瘍細胞(CTC)検査の実用化に向けて

腫瘍細胞が癌患者の血液中に漏れ出ることは140年前に判明していたが、この循環腫瘍細胞(CTC)の捕捉法を見いだすためにはほぼ同じくらいの年月を要した。しかし最近では、細胞を分離する実験的ツールが少なくとも十数台登場しており、CTC を用いて癌がどのように転移するのかを理解し、かつ患者の治療を改善する新たな可能性が生じている。

現在の変化を明確にして協力を促すために、米国国立癌研究所(NCI)は最近、この捕まえにくい細胞を捕捉するツールの開発に関わる、癌生物学者、臨床医、および技師による会議を開催した。最先端の技術に関する発表を聞き現場はどうするべきであるかについて意見を交換するため、9月の米国国立衛生研究所のキャンパスには500人を超える参加者が集まった。

会議の焦点はトランスレーショナルサイエンス-検査室から臨床現場への技術の橋渡し-であり、多くの発表者はCTCが医学分野において重要な役割を果たす可能性があると述べた。発表者によると、いつの日か医師は、血液を採取して分析するだけで患者の治療法を選択し、その治療法の有効性をモニターすることができるようになるかもしれない。つまり、CTC検査は一種の「液体生検」となる可能性がある。さらに、細胞を用いてほとんどの癌死の原因となる転移を研究することについても大きな関心が寄せられた。

「まず第一に患者にとって、そして医療経済などのその他の理由から、この細胞に関する研究がいかに重要であるかについては全員が理解しています」と、会議で発表したスローンケタリング記念がんセンターのDr. Howard Scher氏は述べた。「CTCを用いることで医師がある薬が効かないことを前もって患者に告げることができれば、患者に毒性を与えることなく別の薬に切り替えることが可能になります」。

しかしScher氏は、この細胞を発見して捕捉することは第一ステップにすぎないと警告した。癌の生物学的マーカーとしてCTCを用いるためには、最初にこの細胞の予後予測の可能性を検証する必要があると述べ、米国食品医薬品局(FDA)には、薬剤の臨床試験に類似する複数の段階から成るバイオマーカー開発方針があると指摘した。

【クリックして動画再生】  会議にはFDA職員が参加しており、ツールを臨床現場に移行する上で重要となる、これらの新技術の開発に関する規制面についての説明があった、と主催者の一人であり、NCI癌治療・診断部門およびFDA医療機器・放射線保健センターのDr. Avraham Rasooly氏は言及した。

FDAは、転移した乳癌、前立腺癌、および大腸癌患者のCTCを捕捉して測定するCellSearchと呼ばれる技術を予後予測ツールとして承認している。CTC数が一定の閾値以上(乳癌および前立腺癌では1サンプルにつき5個以上;大腸癌では1サンプルにつき3個以上)の場合は、予後不良を伴い、疾患増悪の兆候を示している可能性がある。

個別のケア

開発される実験的ツールの多くは、予後を予測するというよりも個別化医療の域に達するように設計されている。癌に対する標的薬物療法の増加に伴い、医師は患者の腫瘍の遺伝子型を知りたいと思うようになるが、理論的には、CTC によってこの情報がもたらされる可能性がある。

「癌の標的療法の将来は患者の遺伝子プロファイルに完全に依存し、ゆっくり時間をかけて患者の連続モニタリングを行うことができることも必要になります」とマサチューセッツ総合病院のDr. Daniel Haber氏は会議で述べた。「患者が治療法に反応しなくなる場合は、その理由と主な耐性機構を知ることが必要です。」

同氏のグループは、マサチューセッツ総合病院の生物医学工学者であるDr. Mehmet Toner氏と共同して、血液からCTCを捕捉することができるマイクロ流体装置のCTCチップを開発した。(上の画像を参照。)研究チームは、原則として、肺癌患者の血液から捕捉したCTCを用いて、特定の種類の治療法に反応する可能性が高いかどうかのバイオマーカーである、EGFR遺伝子変異を検出できる可能性があることを示した

もう一つの研究で、グループは前立腺癌患者の癌が転移する前にCTCを検出できるかどうかを調べている。現在のところ、再発のリスクがある患者を同定する方法はない。試験には転移していない癌患者が含まれており、手術の前後に血液を採取しその後試験が進行するにつれて定期的に採取することになる。

「CTCを用いてどの患者が再発するかを予測することができれば、その患者に対する手術後の追加治療を検討することができるのですが」と試験担当医師の一人であるDr. Sunitha Nagrath氏は述べた。

臨床現場

ジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンターでの臨床診療において、Dr. Minetta Liu氏はルーチン画像と併用してCellSearch検査を用いている。転移した乳癌女性に関する最近の研究で、同氏の研究チームは、進行している疾患のCTC数とX線像エビデンスとの間に強い相関関係を見いだした。チームの研究結果は、血液中のCTCを測定することにより系統的治療の効果を予測できるというさらなるエビデンスを提供している。

「私たち全員がこの細胞に間違いなく関心がありますし、患者は常に身体状態に関するさらなる情報を切望しています」とLiu氏は述べた。

簡単な採血によって治療の有効性を評価できることは、患者が受けなければならない時間のかかる放射線検査の回数を抑えることになり、同時に特定の治療レジメンの有効性についてもさらなる保証を提供する可能性がある、と同氏は続けた。同様に、CTCを検査することによって、医師は画像解析のみから示唆されるよりも早い時期に治療法を変更することもあり得る。

転移した乳癌女性にとって、治療の焦点は個人の生活の質の維持であることから、これは重要である、とLiu氏は強調した。「治癒しない場合、最大限の治療効果を上げて毒性と不快症状を最小限に抑えることができることが最も重要です」と同氏は述べた。

患者の中には、腫瘍がゆっくり時間をかけて進行する間に、新しい治療法が効果をもたらす可能性もある。転移した乳癌女性が以前の検査でトラスツズマブ(ハーセプチン)の投与を勧められなかった場合であっても、CTCを用いてその薬剤の投与対象と同定することができるかどうかを調べる試験が開始されたところである。腫瘍のHER2タンパク質レベルが異常である女性はトラスツズマブの投与対象である。

「この試験によって、転移癌の対処法についての既存の考えは変わります」と、試験責任医師であるテキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターのDr. Massimo Cristofanilli氏は述べた。研究では、CellSearchシステムの修正版を用いて、CTCを測定するだけではなく、バイオマーカーとして用いて細胞内のHER2発現を調べることにより治療法を知ろうとしている、と間もなくフォックスチェイスがんセンターへ移動するCristofanilli氏は付け加えた。

「原発腫瘍がHER2陰性であったことからハーセプチンの投与を受けていない患者に非常に効果的な治療を提供することができるかもしれません」と、もう一人の試験担当医師であるミシガン大学のDr. Jeffrey Smerage氏は言及した。

MagSweeper

スタンフォード大学の研究者らは、CTCの解析によって治療の初期段階で患者と薬剤を適合させることができるかどうかを調べている。研究チームは、試験薬の投与前後に前立腺癌男性から採取した血液を用いてCTCの特定の遺伝子をプロファイルする。試験が進むにつれて、反応のよい患者が明らかになり、CTCの遺伝子プロファイルとの関連性を探っていく。

「CTCでどの遺伝子が発現され、それらが治療法の選択に役立つ可能性があるかどうかを見極めようとしています」と、スタンフォードの乳癌外科医で本研究の試験責任医師であるDr. Stefanie Jeffrey氏は述べた。「薬剤投与前のプロファイルから、患者が反応する可能性が高いかどうかを見極めることができればと思っています。」

この試験では、解析用のCTCを捕捉するためにMagSweeperと呼ばれる装置を使用している。他の多くの技術と同様に、Jeffrey氏は技師およびゲノム科学者を含む多職種専門家チームとその装置を開発した。いくつかの予備調査から、すべてのCTCが同じとは限らないこと、また幹細胞の特徴を有しているCTCがあるかもしれないことが示唆された。

「私たちが当初癌細胞は腫瘍から流れ出るというパラダイムに基づいて考えていたよりも、これははるかに複雑である、ということを知ることになると思います」とJeffrey氏は述べた。「この分野はまさに急成長している最中です。まだまだ学ぶことはたくさんあります」。

1869年に一人の癌患者のCTCを観察したオーストラリア人医師のDr. Thomas Ashworth氏は、自分の発見の行き着く先を予測することはできなかっただろう。

「最もワクワクするのは、その技術は私たちが質問することができる状態まで達しているということです。現に複数の疾患で試験が行われています」とScher氏は述べた。最も重要な質問は、「私たちが医学的判断をする上でCTC検査はどのように役立つのか?」ということかもしれない、と同氏は付け加えた。

—Edward R. Winstead

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豊 訳

林 正樹(血液・腫瘍内科医/敬愛会中頭病院)監修 

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