ASCO患者ガイド2006「吐き気・嘔吐」

ASCO患者ガイド:
癌治療による吐き気・嘔吐の予防 2006年改訂
ASCO(米国臨床腫瘍学会)患者向けサイト’People Living With Cancer‘より 
 
 
・はじめに
吐き気・嘔吐
化学療法による吐き気・嘔吐の予防のための推奨
放射線療法による吐き気・嘔吐の予防ための推奨
この推奨が患者にとって意味すること
医師に尋ねる質問

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はじめに 2006年

医師が彼らの患者に最良の医療を提供することを手助けするために, ASCOは癌医療の特定の分野の推奨を作成するよう専門家に依頼しました。ASCOは,最近,吐き気や嘔吐の予防に関する臨床診療ガイドラインを改定しました。この患者ガイドはASCOの推奨に基づいています。
このガイドラインを読むにあたり、癌治療を受ける患者一人一人が個人差があることを心に留めておい下さい。これらの推奨は患者や医師の判断に取って代わるわけではありません。みなさんと主治医との最終的な判断は,個人の状況に基づいて行われています。
ASCOは制吐薬(吐き気・嘔吐を防ぐ薬)の使用に関する臨床診療ガイドラインを1999年に発表し、この指針は新たに加わった薬を反映させるために2006年に改正されました。この患者ガイドの推奨は専門の委員会によって作成され,吐き気・嘔吐を予防する最良のケアに関して述べられています。

ASCOの患者教育資料にある情報は、治療のアドバイスや、治療する医師自身の専門的な判断に取って代わることを意図したものではありませんし、ASCOが特定の薬または製薬会社を推奨するものでもありません。


吐き気・嘔吐

嘔吐(吐く)とは胃の内容物を口から出す行為です。また、吐き気とは嘔吐したくなる状態のことです。放射線治療や一部の化学療法は、吐き気や嘔吐を引き起こしますが、これらの治療を受ける患者全てがこういった副作用を経験するとは限りません。
癌治療により起こる吐き気・嘔吐の最良の対策は予防です。幸い,吐き気や嘔吐を予防することが出来る数多くの薬が利用可能です。

予期性嘔吐とは、以前化学療法による嘔吐を経験した患者さんが、治療を始める前に起きる嘔吐のことをいいます。予期性嘔吐の予防と治療は患者個人により異なります。例えば、よく乗り物酔いをする患者、または前回の化学療法後に吐いたことがある患者は、予期性嘔吐を経験する可能性が高い。以前化学療法で嘔吐を経験した場合には、そのことを皆さんの主治医に伝えて下さい。嘔吐を軽減する薬や行動療法を勧めてくれることが可能かも知れません。

化学療法による吐き気・嘔吐の予防のための推奨

抗癌剤のあるタイプは他のタイプに比べ吐き気・嘔吐を起こす可能性が高いことが知られています。表1に吐き気・嘔吐を起こしやすい順に抗癌剤を列記しました。

表1 吐き気・嘔吐を起こす可能性のある静脈注射用抗癌剤

(サイト注:(*)は日本での商品名が異なるものを追加。英語名のないものは日本で承認済み 2006/7現在

毎回のように吐き気・嘔吐を起こす
(高リスク)

吐き気・嘔吐を起こすことが多い
(中リスク)

時に吐き気・嘔吐を起こす
(低リスク)

稀に吐き気・嘔吐を起こす
(最小リスク)

AC化学療法
ドキソルビシン
(Adriamycin)
(アドリアシン) +
シクロフォスファミド(Cytoxan, Neosar)
*エンドキサン)

カルボプラチン
(パラプラチン)

ボルテゾミブ
[Bortezomib]( ベルケード[Velcade])

ベバシズマブ
[Bevacizumab]
(アバスチン
[Avastin])

カルムシチン
[Carmustine]
(BiCNU, BCNU)

低用量シクロフォスファミド
(Cytoxan, Neosar)
*エンドキサン)

セツキシマブ
[Cetuximab]
(エルビタックス
[Erbitux])

ブレオマイシン
(Blenoxane)
*ブレオ)

シスプラチン
(Platinol)
*ブリプラチン,ランダ)

高用量シタラビン
(Cytosar-U)
(キロサイド)

低用量シタラビン
(Cytosar-U)
(キロサイド)

ブスルファン(マブリン)

高用量シクロフォスファミド(エンドキサン)

ダウノルビシン
(Daunomycin, Cerubidine)
*ダウノマイシン)

ドセタキセル
(タキソテール)

クラドリビン
(ロイスタチン)

ダカルバジン
(DTIC)
(ダカルバジン)

ドキソルビシン
(Adriamycin, Rubex)
*アドリアシン)

エトポシド
(Etopophus, Toposar, VePesid)
*ラステッド、ベプシド)

フルダラビン
(フルダラ)

アクチノマイシンD
Dactinomycin(Cosmegen, actinomycin-D)
*コスメゲン)

エピルビシン(Ellence)(ファルモビシン)

フルオロウラシル
(5-FU, Efudex)
*5-FU)

リツキシマブ
(リツキサン)

Mechlorethamine(Mustargen

イダルビシン
(イダマイシン)

ゲムシタビン
(ジェムザール)

ビンブラスチン
(Velban)
(*エクザール)

streptozotocin
(ザノザール
[Zanosar])

イホスファミド
Ifosfamide
(Ifex)
*イホマイド)

メトトレキサート
(Amethopterin)
*メトトレキセート)

ビンクリスチン
(オンコビン)

 

イリノテカン
(カンプト)

マイトマイシン
(Mutamycin)
(マイトマイシンC)

ビノレルビン
(ナベルビン)

 

オキサリプラチン
(Eloxatin)
*エルプラット)
(*エルプラット)

ミトキサントロン(ノバントロン)

 
  

パクリタキセル
(タキソール)

 
  

ペメトレキセート
[Pemetrexed]
(アリムタ[Alimta])

 
  

トポテカン
(ハイカムチン)

 
  

トラスツズマブ
(ハーセプチン)

 

表2に吐き気・嘔吐の予防策が示されています。

表2 吐き気・嘔吐予防策

吐き気・嘔吐を起こす抗癌剤の可能性

必ず吐き気・嘔吐を起こす
(高リスク
&AC化学療法)

吐き気・嘔吐を起こすことが多い
(中リスク)

時に吐き気・嘔吐を起こす
(低リスク)

稀に吐き気・嘔吐を起こす
(最小リスク)

推奨される治療

以下の3種類の制吐薬剤の併用
1.Dolasetron(Anzemet)、
グラニセトロン(カイトリル)、
オンダンセトロン(ゾフラン)またはpalonosetron(Aloxi)

2.デキサメタゾンを1-3日間投与

3.Aprepitant(Emend)を3日間投与

以下から2種類の薬剤の併用
1.Dolasetron(Anzemet)、グラニセトロン(カイトリル)、
オンダンセトロン(ゾフラン)、またはpalonosetron(Aloxi)

2.デキサメタゾンを1-3日間投与

デキサメタゾン

患者が前回同じ抗癌剤使用で嘔吐を経験していなければ、治療の必要なし。

放射線療法による吐き気・嘔吐の予防のための推奨

表3に放射線治療によって起こる吐き気・嘔吐のリスクと推奨される治療を要約しています。

表3 放射線療法によって起こる吐き気・嘔吐の予防策

放射線療法による吐き気・嘔吐のリスク


治療される身体の部位


推奨される治療

高リスク

全身照射

各治療前に、デキサメタゾン併用または併用せずに、次の薬剤の一つを投与
:Dolasetron(Anzemet)、グラニセトロン(カイトリル)、オンダンセトロン(ゾフラン)、またはpalonosetron(Aloxi)

中リスク

腹部上部(体幹、または胃)

各治療前に、次の薬剤の一つを投与:Dolasetron(Anzemet)、グラニセトロン(カイトリル)、オンダンセトロン(ゾフラン)、またはpalonosetron(Aloxi)

低リスク

胸郭下部(胸部)、骨盤(下腹部)、脳(ラジオサージェリー経過中)、脊髄(背部)

各治療前に,次の薬剤の一つを投与:Dolasetron(Anzemet)、グラニセトロン(カイトリル)、オンダンセトロン(ゾフラン)、またはpalonosetron(Aloxi)

最小リスク

頭頸部、四肢,脳、乳房

以下の薬剤を必要に応じて1つ服用:メトクロプラミド(Reglan)(*プリンペラン,テルペラン), Dolasetron(Anzemet)、グラニセトロン(カイトリル)、オンダンセトロン(ゾフラン)、またはpalonosetron(Aloxi)

この推奨が患者にとって意味すること

癌治療を受けている全てに近い患者で,吐き気・嘔吐は、適切な治療により予防が可能です。これらの薬は,医師の処方通りに治療が始まる前に服用し,嘔吐は治療後1週間ほど続くことがあるので、治療が終わった後も医師の指示に従い,これらの薬の服用を続けることが必要かもしれません。

医師に尋ねる質問

吐き気や嘔吐は予防することが重要です。主治医に以下の質問をすることを考えてみて下さい。

  • 私が受ける治療は吐き気や嘔吐を引き起こしやすいですか?
  • 吐き気や嘔吐を防ぐにはどのようなことができますか?
  • これらの薬の服用に関する説明書はありますか?
  • これらの薬は,私が知っておいた方がよいと思われる副作用はありますか?
  • どこでもっと詳しい情報が得られますか?

翻訳担当者 ラスコ

監修 瀬戸山修(薬学)

原文を見る

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