陽子線治療は通常の放射線治療より安全か
放射線治療の一種である陽子線治療は、進行がんの成人例に対して、通常の放射線治療と同じくらい安全で効果的であるとの知見が、既存の患者データを使用し、2種類の放射線治療を比較した研究から得られた。
通常の放射線治療では、X線、つまり光子のビームが腫瘍やその深部に到達する。そのためX線は、照射部位の近くの健常な組織にも損傷を与え、重大な副作用を引き起こす可能性がある。
それとは対照的に、陽子線治療では、腫瘍部位で停止するように陽子粒子(=陽子線)のビームが到達するため、近くの健常な組織を障害する可能性は低くなる。一部の専門家は、陽子線治療は通常の放射線治療よりも安全であると考えているが、2つの治療法を比較する研究は少ない。
また、陽子線治療は通常の放射線治療よりも高額であり、その利点を示すエビデンスがあまりないこともあり、すべての保険会社が治療費を補填しているわけではない。それにもかかわらず、米国全土で31の病院が数百万ドルを費やして陽子線治療センターを建設し、多くの施設では、陽子線治療のあるかもしれない(しかし証明されていない)利点の可能性を宣伝している。
新しい研究の結果によると、陽子線治療を受けた患者は、通常の放射線治療患者よりも重篤な副作用を経験する割合がはるかに低くなるという。しかしながら、患者の生存期間に差はなかった。その結果は12月26日にJAMA Oncology誌で発表された。
「これらの結果は陽子線治療を良しとする全般的な理論的根拠を支持している」と、本研究の研究者代表者であるセントルイスのワシントン大学医学部およびペンシルバニア大学のBrian Baumann医師は述べている。
しかし、研究に関与しなかったNCI放射線研究プログラムのJeffrey Buchsbaum医師によれば、この研究のキーポイントからは得られた知見をどの程度まで拡大して解釈できるのかわからない、とこのことである。
これらの限界のため、「陽子線治療の費用を真に正当化するためには、必要なエビデンスを第3相ランダム化臨床試験から得る必要がある」とイェール大学医学大学院のHenry Park医師とJames Yu医師は、付随する論説で述べている。
NCIが資金提供している陽子線治療と通常の放射線治療を比較するいくつかのランダム化臨床試験が現在進行中である。 (下記のボックスを参照。)
陽子線治療の安全性と有効性
局所進行がんの多くの患者は、化学療法と通常の放射線または陽子線治療の組み合わせで治療される。化学療法と放射線治療を同時に受ける患者にとって、治療の効果を低下させることなく副作用を抑制する方法を見つけることは最優先事項であると、Baumann医師は述べた。
彼の研究チームは、11種類の成人がん症例約1,500人のデータを分析した。すべての参加者は、2011年から2016年の間にペンシルバニア大学医療システムで同時化学放射線療法を受け、副作用や生存状況を含むがんの転帰を追跡された。約400人が陽子線治療を受け、残りは通常の放射線治療を受けた。
研究によれば、陽子線治療を受けた患者は、通常の放射線治療を受けた患者よりも重篤な副作用がはるかに少ないことがわかった。治療開始から90日以内に、陽子線治療群の患者45人(12%)と通常の放射線治療群の患者301人(28%)が重篤な副作用、つまり入院を必要とするほどの重篤な副作用を経験した。
また、陽子線治療は、通常の放射線治療よりも、家事などの日常的な活動を行う能力には影響しなかった。治療の過程で、パフォーマンス・ステータス・スコアが低下する割合は、陽子線治療例では通常の放射線治療例に比し半減するとしている。
さらに、陽子線治療は、がんを治療し生存期間を延長する効果が、通常の放射線治療と同程度であることが示唆された。治療から 3年後の追跡結果では、陽子線治療群では46%、通常の放射線治療群では49%の患者において、がんが消失していた。陽子線治療を受けた患者の56%、通常の放射線治療を受けた患者の58%は、3年後も生存していた。
研究デザインの限界
研究代表者や他の専門家は、研究デザインにいくつかの限界があることを指摘している。
たとえば、この観察研究では、陽子線治療と副作用減少の間の因果関係を確立することはできていない。さらに、すべての参加者は単一の施設で治療を受けたため、研究結果をより大きな集団に一般化することは困難である。
「これらは大変重要な限界であり、軽視すべきことではない」とBuchsbaum医師は強調した。
単一施設の研究にはもともと限界があるが、Baumann医師は、「本研究に参加したすべての患者は、陽子線治療か通常の放射線治療かに関係なく、大規模な学術医療センターで質の高い治療を受けた。このことは私たちが経験した陽子線治療の有益性が意味を持つことを示唆している」と述べた。
また、患者は各治療群に無作為に割り当てられたわけではないため、陽子線治療を受けた患者群と通常の放射線治療を受けた患者群との間に差があり、結果に影響した可能性がある。
たとえば、陽子線治療を受けた患者は、平均して高齢であり(おそらくメディケアが陽子線治療の費用を賄っている可能性が高いため)、より多くの健康上の問題があった。
陽子線治療群には、「恵まれた環境」の患者がより多く含まれている可能性もあると、Park医師とYu医師は述べた。彼らは、社会経済的地位や社会的支援が治療結果に影響する可能性があると記述している。
さらに、放射線治療関連の副作用を受けやすい頭頸部がん患者は陽子線療法群にあまり含まれていなかったと編集者は付け加えた。
研究者らは分析において、複雑な統計手法を駆使し、これらの差を可能な限り説明しようとした。
陽子線治療における今後の研究アイデア
本研究には限界も認められるが、「これらの興味深い発見は、今後の第3相臨床試験に有用な問題提起につながる」とBuchsbaum医師は述べた。しかし、陽子線治療の大規模な研究には障壁がある。
たとえば、通常はより多くの副作用を伴う高齢者や合併症をもつ患者に陽子線治療がより安全であると示唆されたことは「特に心強い」とBaumann医師は強調した。
Buchsbaum医師は、陽子線治療が高齢者や合併症をもつ患者に特に役立つ可能性に賛成したが、進行中の第3相試験はこの患者群を分析するようには設計されていないことを指摘した。
また、陽子線治療は副作用が少ないかもしれないので、将来の試験では陽子線治療と化学療法の併用が患者にとって(現在の化学放射線療法より)より許容できる治療法かどうかを調べることもできる、と著者らは述べている。
たとえば、肺がんに対する化学療法と通常の放射線治療は、どちらも食道を刺激することがあり、摂食困難になるほどの疼痛をきたす。しかし、陽子線治療では食道の障害が限られる可能性があり、患者が化学放射線療法にさらに耐えられるようになる、とBaumann博士は説明した。
将来の研究では、陽子線治療と高用量の化学療法を併用することで、副作用を増やすことなく治癒率を上げることができるかどうかも検討できると彼は付け加えた。
加えて、この研究結果によれば「陽子線治療の初期費用は嵩(かさ)むが、入院期間の短縮によりその費用が軽減されること、また、患者や介護者の生産性が向上することにより、その初期費用が相殺されるかもしれない、という魅力」もあると研究者らは述べている。
Buchsbaum医師はこれに同意し、その可能性を探求する価値があると述べた。 「陽子線治療はより効果的か」という問いを探究するだけでは、社会に陽子線治療の利益を示すための公平な機会を与えられないかもしれないと述べた。
Baumann医師らは現在、陽子線治療の費用対効果を研究しており、副作用の治療費用や生活の質が保たれることの価値などの側面を考慮し、検討を行っている。
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NCIが資金提供している陽子線治療の臨床試験
NCIは陽子線治療と通常の放射線治療を比較するいくつかのランダム化臨床試験に資金提供を行っている。一覧は下記の通り。
・局所乳がん患者を対象に、陽子線治療が通常の放射線治療よりも心臓の副作用(心臓疾患や心臓発作など)を引き起こさないかどうかを調べる研究
・新たに膠芽腫と診断された患者を対象に、陽子線治療とテモゾロミド(テモダール)の併用が、テモゾロミドと他の種類の放射線治療を受けた患者よりも、生存期間を延長できるかどうかを調べる研究
・手術で切除できない肺がん患者を対象に、化学療法と陽子線治療の併用または化学療法と通常の放射線治療の併用を比較する研究
・前立腺がん患者における消化管の副作用に対して、陽子線治療と強度変調放射線療法(IMRT)と呼ばれる通常の放射線治療の効果を比較する研究
・肝臓がんの患者を対象に、陽子線治療が通常の放射線治療よりも効果的かどうかを調べる研究
・神経膠腫患者の脳機能の維持において陽子線治療がIMRTよりも優れているかどうかを調べる研究
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原文掲載日
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