がん患者の血栓予防に関するCASSINI試験データ

試験データにより、血栓を発症するリスクが高いがん患者の診断、予防、治療のための新ガイドライン策定か

高リスクのがん患者の血栓を予防する直接経口抗凝固薬リバロキサバンの使用について検討した最初の臨床試験が2019年2月21日号のNew England Journal of Medicine誌に掲載された。 この試験では、180日間の全試験期間中に、静脈血栓塞栓症や死亡の有意な減少は見られなかった。 しかし、患者が試験薬を積極的に服用している期間、または治療中の期間は、これらの事象の発生率が低いことが認められた。

CASSINI試験として知られるこの試験は、統括著者でフレッドハッチンソンがん研究センター、ヘルスケアの質および政策担当の上級責任者であるGary H. Lyman博士、および、筆頭著者かつ主研究責任者でクリーブランドクリニックの消化器悪性腫瘍科ディレクターであるAlok Khorana博士の指揮で行われた。共同統括著者であるNicole M. Kuderer博士は、Advanced Cancer Research Groupおよびワシントン大学において部分的にこの試験を実施した。CASSINI試験は、多施設ランダム化第3b相試験で、米国内外の1,080人の患者が参加した。

がん患者は血栓形成のリスクが高く、このリスクは血液を変化させ血液の粘度を高くする可能性のあるがんの生物学的因子および化学療法を含むさまざまな種類のがん治療によって上昇する。

「血栓は、化学療法を受けている実際のがん外来患者においては、がんそのものに次いで、感染症とともに死亡原因の第2位であり、血栓で入院した患者においては、合併症、死亡および費用増加の主な原因となっています」 と、Lyman氏は述べた。「この研究の結果は、血栓を減少させることの潜在的な利益と潜在的なリスクを比較検討する方法、およびどのがん患者が血栓を発症するリスクが最も高いかを評価する基準を確立する方法を理解する上で役立つはずです」。

がんの治療期間中において、静脈血栓塞栓発症リスクの有意な減少が観察されたが、試験の主要転帰である、最初の180日間での静脈血栓塞栓発症の顕著な影響は認められなかった。この期間、多くの患者が試験薬の服用を中止したが、介入群とプラセボ群の両者で同程度であった。 全体として、180日間の試験期間中とがんの治療期間中の両者において大出血のリスクは低いものであった。

CASSINI試験は、2番目の経口抗凝固薬試験であるAVERT試験とともに、がん患者の血栓予防薬としての新規の経口抗凝固薬の安全性と有効性に関する最初の大規模データを提示している。CASSINI試験およびAVERT試験は、静脈血栓塞栓症のリスクが高い外来がん患者を同定することを目的とした、検証済みの臨床リスクスコアであるKhoranaリスクスコアを使用した最初の第3相試験でもある。

「この試験に入る前に血栓患者のスクリーニングを行いましたが、Khoranaリスクスコア2以上の患者の5%近くにおいて、化学療法を開始する前に身体診察を受けていたのにもかかわらず、認識されない血栓をすでに発症していた患者を同定しました」と、Kuderer氏は解説した。「このことにより、スクリーニングによりKhoranaリスクスコア3以上の高リスク患者のほぼ9%で血栓を同定した私たちの過去の研究が裏付けられました。これらの血栓は、同定されなかった場合、しばらくの間未治療のままとなり、肺塞栓を発症した時ににようやく認識され、その時点でこれらの血栓の一部は致命的となっている可能性があります」。

がん診断後の血栓のリスクは、活動性がんとその治療の全期間において増加し、特に進行がん患者において、さまざまながんの種類にわたって平均5〜25%にのぼる。血栓は肺塞栓症のような重篤な合併症を引き起こす可能性がある。

「CASSINI試験でそうであったように、スクリーニングによりこのような状況で、早期死亡率を低下させることができるかどうかを判断するために、実際の患者を対象としたさらに大規模な研究が必要となるでしょう」と、Kuderer氏は述べた。

どの患者が血栓を発症するリスクが高いかを評価するために、がんの種類、肥満度指数(BMI)および血球数に基づくKhoranaリスクスコアを使用した。CASSINI試験では、ランダム化の前に全患者をスクリーニングし、超音波検査ですでに血栓が認められた患者を同定した。 これら2つの試験の間の1つの重要な違いは、CASSINI試験では試験前および試験期間中に血栓について参加者のスクリーニングを実施したが、AVERT試験では実施しなかったことである。

「CASSINI試験とAVERT試験は、スクリーニングと特定の結果尺度に関しては異なりますが、これらの試験は補完的なものであり、デザインの違いを考慮しつつそれらを一緒に解釈することを推奨します」と、Lyman氏は述べた。「また、将来の試験では、おそらく治療の種類や検証されたバイオマーカーを含めることによって、患者をリスク層別化する私たちの能力がさらに向上しているであろうことを期待しています」。

直接経口抗凝固薬は現在、がん患者の血栓予防に使用することは承認されていない。現在の標準治療では、血栓発症後の治療のため、または特定の高リスク患者の予防薬として投与されるべきと、推奨している。がん治療は外来で行われることが多いため、CASSINI試験では、リスク層別化のアプローチおよび経口抗凝固薬の使用が、がん患者の血栓を予防する上で安全で効果的かつより有用な選択肢となるかどうかを検討した。

次のステップとして、Lyman氏とフレッドハッチンソンの同僚らは、患者の生活の質(QOL)への影響と薬物や他の医療費を組み入れた費用効用分析に着手することを望んでいる。 さらに、彼らは、予防薬としての経口抗凝固薬の使用についてより詳細に把握できるようにCASSINI試験およびAVERT試験のメタアナリシスに協力している。

「腫瘍学および血液学の分野では、この問題に総合的に取り組み、血栓とそれに関連する症状および入院ががん患者にもたらす真の負担を理解することが長年にわたり必要とされています」と、Lyman氏は述べた。「これらの重要な試験の結果は、現在のガイドライン勧告の変更が正当化されるべきものであるかどうかを評価することを目的として、ガイドライン委員会によって集中的に検討されるでしょう」。

Lyman氏は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、およびいくつかの臨床現場における血栓の治療ガイドラインを確立している米国血液学会(ASH)向けに、がん患者の血栓を治療または予防するためのガイドラインを共同開発しようとしている。

「ニューヨーク州バッファローでの腫瘍学者としての初期の頃、最初に血栓が多くの患者に壊滅的な影響を及ぼしていることに気づきました」と、Lyman氏は言及しました。「それ以来、どのようにすれば一番血栓によって引き起こされる重篤な有害事象を予防することができるかについての理解を進展させることを目的に多くの研究の指揮を行ってきました」。

Janssen社とBayer社がこの研究に資金提供した。The Stephen Hardis Chair in Oncologyおよびthe Porter Family Fundも研究著者の1人を支援した。Lyman氏はCASSINI試験の運営委員会の共同議長を務めたが報酬を受けておらず、この研究主題に関連する財務状況の開示はない。Lyman氏は、AVERT試験のデータ安全性モニタリング委員会委員長を務めたが報酬を受けていなかった。Lyman氏は、彼の配偶者がこの試験実施中にJanssen社から研究コンサルティング料を受け取り、Bayer社とPfizer社から投稿論文以外でコンサルティング料を受け取ったと報告している。 Kuderer氏は、この試験実施中にJanssen社からCASSINI試験の運営委員会委員としての研究コンサルティング料および旅費の返済を受け取り、Janssen社、Pfizer社およびBayer社から研究主題に関連する可能性のある投稿論文以外で研究コンサルティング料および旅費の返済を受け取ったと報告している。

翻訳担当者 会津麻美

監修 喜安純一(血液内科・血液原理/飯塚病院 血液内科)

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