脊髄転移に対する組織内レーザー温熱療法

MDアンダーソン OncoLog 2017年9月号(Volume 62 / Issue 9)

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標脊髄近傍の転移に対する定位放射線治療の施行前のレーザー治療は、観血的外科手術に代わる選択肢となり得る

脊髄転移を有する多くの患者に対して、定位放射線治療により効果的な局所腫瘍制御が可能であり、脊髄圧迫とその結果生じる麻痺状態を予防することができる。しかし、転移巣が脊髄に接触している場合や脊髄を圧排している場合は、定位放射線治療を安全に施行するため、脊髄からの腫瘍の隔離を先行しなければならない。このような患者に対して、最近までであれば、観血的外科手術を施行しなければならず、それに付随する合併症の可能性や他のがん治療の遅れを受け入れなければならなかった。しかし、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの外科医が、脊髄転移を治療する外科的手術に代わる選択肢として、特定の患者に対し既存のアブレーション法(焼灼術)を改良した治療を行っている。

脳神経外科部門の准教授を務めるClaudio Tatsui医師は、脊髄転移に対する外科的手術に付随するリスクを回避するため、脳、前立腺、肝、および他の部位に生じた腫瘍の治療に通常用いられるレーザーを利用した温熱アブレーション法を改良した。改良後の組織内脊髄レーザー温熱療法(SLITT)の手技は、現在MDアンダーソンがんセンターのみで実施されている。

定位放射線治療施行前に硬膜近傍の腫瘍部分を外科的に除去する代わりに、「レーザーを用いて硬膜上腔の腫瘍に熱を加えて破壊し、残存病変に定位放射線治療を行っています」と、Tatsui医師は語る。

SLITTの施行

SLITTでは、MRI又はCTガイド下で骨髄転移巣にジャムシディ骨髄針を刺入する。ジャムシディ針の中心套管針を抜去し、針を通してキルシュナー鋼線を挿入する。次に、ジャムシディ針を抜去し、キルシュナー鋼線はアクセスカニューレを留置する際のガイドとして残す。通常は別のカニューレを留置するが、追加するカニューレの数は腫瘍の大きさと位置によって異なる。

アブレーションの手順は、腫瘍に留置したアクセスカニューレの末端にレーザープローブを刺入して、カニューレを若干後退させ、レーザープローブの先端をむき出しにする。次に、プローブに電圧をかけ、腫瘍細胞が不可逆的に損傷する温度(通常50~74℃)まで周囲の組織を加熱する。腫瘍と生体内の構造物との間の表面温度は、生体内構造物の損傷を防ぐため50℃未満に維持する。熱を加える過程は、MRI温度測定法によりリアルタイムでモニタリングする。

「この方法が他と異なる点は、温度そのものを工夫している点ではなく、間隙の温度をモニタリングする点です」とTatsui医師は説明する。「MRIを用いることによって、限局的に温度を加え、重要な器官を損傷せずに近接する病変を治療します。熱を加えている場所や、損傷の程度、そしてレーザープローブを追加する必要があるかどうかが、リアルタイムで分かるのです」。

この加熱のプロセスは、腫瘍に十分な熱が加えられるよう、数回反復して行う。レーザープローブは、腫瘍細胞を殺傷する温度を半径5~7 mm周囲に伝導することができる。また、Tatsui医師は、大きな腫瘍に対しては8本のカニューレを使うと述べているが、アクセスカニューレの数は脊髄病変1カ所に対して通常3本である。各カニューレの準備には約1時間かかるものの、アブレーションの手順自体は、症例の複雑さにもよるが、わずか3~4分程度である。腫瘍が勢いを取り戻した場合は、必要に応じて手順を反復することが可能である。

従来の観血的外科手術と同様に、SLITTの施行後は引き続き定位放射線治療を行うが、SLITTは外科的手術を行った場合と比較して、早期に治療に戻ることが可能である。Tatsui医師は、外科的手術後の入院日数中央値は7日であるのに対して、SLITTではわずか2日であると語り、SLITTは全身療法を長期間中断することが望ましくない患者にとってもメリットがあると指摘する。

このほかにも、SLITTにはメリットがある。SLITTは、観血的外科手術と比較して大幅に痛みを軽減すると考えられる。「SLITT施行前後で、患者の自己申告による痛みスコアを調査した結果、標準的な観血的外科手術でみられるような即時性の痛みの増大は認められません」と、Tatsui医師は述べた。

適切な患者を選択する

Tatsui医師は、悪性黒色腫や乳がん、肺がん、前立腺がんおよび他のがん種の脊髄転移巣の治療として、SLITT施行後に引き続き定位放射線治療を用いているが、この方法を用いることが多いのは腎細胞がんである。腎細胞がんは、化学療法や通常 分割放射線療法に対して耐性を生じることで知られている。「従来の放射線療法に耐性を持つ硬膜外間隙の転移腫瘍を治療する際は、この方法を多用しています」。

この方法は、胸椎に転移腫瘍を有する患者に最大の利益をもたらす。脊髄転移の約70%が、胸椎への転移である。Tatsui医師は、腰椎に転移を有する患者に対しては、SLITT施行を避けるようにしているという。これは、腰椎の腫瘍が、熱にきわめて敏感な運動神経にまで進展していたり、隣接している場合があることが理由である。

Tatsui医師は、「腫瘍が運動神経の近傍に存在し、SLITT施行後に神経機能不全を来した症例が2症例ありました。このため、感覚神経だけがある場合にのみSLITTを行うようにしています。胸椎のT2からT12までがこの方法で最も良好な成績を得られる範囲です」と述べる。

また8例の患者に対しては、 SLITT後の定位放射線治療を実施していない、とTatsui医師は語る。このような患者では、すでに最大耐容線量を脊髄に照射しており、放射線治療による瘢痕と治癒不良が理由となって姑息的手術を強く推奨できなかったためである。Tatsui医師は、結果は良好であると説明する。腫瘍が再発した場合は、SLITTによる治療を繰り返すことが可能である。

SLITTは脊髄を原発とした腫瘍の治療にも適用することは可能であるが、そのような場合は適切な切除術(すなわち、根治的切除術)を適用する方が効果的であろうとTatsui医師は語る。

今後の展望

Tatsui医師は、SLITTと定位放射線治療の併用によって得られた結果について、「同僚とともに喜んでいます」と語る。現在、SLITT施行時の術中MRIガイドの安全性および正確性を評価するパイロット試験(試験番号2015-0481)が進められている。Tatsui医師は、「レーザーアブレーション法の転帰と観血的外科手術の転帰を後ろ向きに比較検討しているところですが、きわめて良好な結果が出ています。今後は、脊髄転移の管理におけるSLITTと観血的外科手術を直接比較する前向き研究を計画する予定です」と述べている。

Tatsui医師は、「SLITTは、悪性度の高い全身性疾患あるいは外科的手術が不可能な重大な併存疾患を有する患者にとっては特に、観血的外科手術に代わる選択肢であるとみています」と結んだ。

For more information, contact Dr. Claudio Tatsui at 713-563-8710 or cetatsui@mdanderson.org.

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翻訳担当者 菊池 明美

監修 中村 光宏 (放射線学物理学/京都大学医学部附属病院)

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