免疫療法薬がASCO アドバンス・オブ・ザ・イヤーに

2月4日世界対がんデーを前に、がん研究への米連邦政府助成金の増額を要請

免疫療法薬の研究の進歩により利益を受けるがん患者は増え続けており、米国臨床腫瘍学会(ASCO)はアドバンス・オブ・ザ・イヤーに2年連続で免疫療法薬を挙げた。今日公開された今年の報告書、Clinical Cancer Advances 2017: ASCO’s Annual Report on Progress Against Cancer(PDF全文あり)は、拡大する免疫療法薬の役割を大きく取り上げている。進化し続ける研究成果により 、この比較的新しい治療法から最適な成果を得る方法についての新たな考察が得られつつある 。

米連邦議会で発表されたASCO年次報告書では、連邦政府の研究助成こそがん対策を進める大きな推進力だと強調している。世界対がんデーを数日後に控え、第一線の腫瘍学者らが、がん研究への連邦政府助成金の持続的な年次増加を連邦議会に求めている。議会は最近、米国国立衛生研究所(NIH)と米国国立がん研究所(NCI)への2017年の助成金の増額を承認したが、報告書の中で取り上げられた有望な研究成果をもとに研究を進めるには、インフレ上昇率にみあった年次増加が必須である。

「ここ10年足らずで、理論的に有望な治療法と考えられていた免疫療法薬は、何万人もの患者の寿命を延ばし、生活の質を改善すること に役立つ標準療法となりました」と、ASCO会長のDaniel F. Hayes医師(FACP、FASCO)は語った。「がんと免疫学についての情報がどちらも増えることによって、患者自身の免疫系を活性化する治療法がもっと頻繁に賢く利用されるようになります。連邦政府の助成によってこうした救命技術の進歩が実現し、今後も、発見と進歩のペースを上げるために助成は不可欠です」。

免疫療法薬(Immunotherapy 2.0) : 利用拡大と患者選択の改善

100年以上にわたって研究者たちがさまざまな免疫療法を模索してきた が、これまでで最大の成果は免疫チェックポイント阻害薬である。2011年から、米国食品医薬品局(FDA)は、免疫チェックポイント阻害薬を15がん種に 承認しており、昨年だけで5がん種に 承認した。こうした新たな承認によって、肺、腎、膀胱、頭頸部のがん患者、およびホジキンリンパ腫患者の治療法の選択肢が広がった。実際、アテゾリズマブは、30年以上ぶりに承認された膀胱がん治療の新薬となった。

Immunotherapy 2.0では免疫療法の発見の次の波にも言及し、こうした治療法の効果が最も大きい患者の判定法や、克服可能な耐性機序の発見、毒性を軽減するより良い方法の開発などに注目している。この一年で、免疫チェックポイント阻害薬は、遺伝子変異を数多く有する腫瘍やPD-L1タンパクの発現レベルが高い腫瘍に対してより高い有効性を示すことが明らかになった。

患者ケアの将来を方向づける進歩

その他にもさまざまな重要な進歩や動向がClinical Cancer Advancesに取り上げられている。

・ 高精度医療(プレシジョン医療) ―― 昨年、腎がん、肺がん、乳がん、血液がんなど一部のがん種の増殖に重要な分子を標的とする新薬が承認された。

・ リキッド・バイオプシー ―― 2016年、初の循環する血漿中の腫瘍DNA検査 が一部の肺がんの患者に対して承認された。この新技術によって、侵襲的な組織生検ではなく簡単な採血でがんの主要なドライバー遺伝子変異を検査できるようになり、最適な治療法の選択や腫瘍の経時変化の観察が容易になる。

・ 患者と医師の間のギャップを埋める新ツール ―― 報告書は、患者が症状の悪化を伝えるとすぐにがんの治療チームに通知される、ウェブを用いた症状の自己監視ツールを取り上げている。さらに、十分な医療サービスを受けていない人々のための教育や患者ナビゲーションプログラムが、治療アドヒアランス (治療遵守)を向上させる方法であることを明らかにしている。

「がんを克服するために、スクリーニングから、がん治療による副作用の緩和を助ける新たな治療戦略 まで、幅広いがんケア全体について研究を行わなければなりません」とClinical Cancer Advancesの副編集長Harold J. Burstein医学博士(FASCO)はいう。「世界対がんデーを前にして、昨年私たちが成し遂げた進歩が、世界中の大勢の患者の寿命を延ばし生活の質を向上させる手助けとなることが楽しみです」。

米国の研究投資が推し進めた進歩

今年、ASCOのClinical Cancer Advancesで取り上げられた上位の進歩のほぼ3つに1つは連邦政府の助成金のおかげで実現した。

最近予算は増額されたが、NIHの購買力は10年前より低い。ASCOは、新しい連邦議会と政権に、がん研究への投資を増額し、2017年度のNIHへの予算を少なくとも341億ドル確保するようを要求する。

「やるべきことはまだたくさんあります。ここ10年間、助成金の増額がなかったので、最近のNIHへの助成金増額は励みになります。この勢いを維持し、これまでの進歩をさらに前進させるには、長期にわたる連邦政府の投資が必要です。私たちは、これ以上遅れを取ってはならないのです」とHayes医師はいう。

Clinical Cancer AdvancesはASCOの授賞報告書で、今年で12年目となる。この報告書は、asco.org/CCAから入手でき、 Journal of Clinical Oncology誌にも掲載される。

翻訳担当者 粟木 瑞穂

監修 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学大学院医学研究院 九州連携臨床腫瘍学講座)

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