免疫チェックポイント阻害剤の効果を血液検査で予測

ある重要なタンパク質の血液検査をすれば、がん免疫療法の中で最も有望な治療薬の一つ、免疫チェックポイント阻害剤が奏効する可能性が高いがん患者を判定できると、ダナファーバーがん研究所が最近報告した。

Cancer Immunology Research誌に発表されたこの研究報告によると、血管形成に関与するタンパク質、アンジオポエチン-2(ANGPT2)の血中濃度が、転移性メラノーマ患者がどの程度免疫チェックポイント阻害剤に反応するかを判断する基準になることがわかったという。さらに、ANGPT2は免疫チェックポイント阻害剤だけでなく血管新生阻害薬の標的にもなる可能性があるという。

「私たちはこの研究で、ANGPT2が、免疫チェックポイントであるCTLA-4およびPD-1の阻害薬に対する応答の予測および予後バイオマーカーになることを発見しました」とダナファーバーの免疫腫瘍学センター所長F. Stephen Hodi医師はいう。「さらに、血管新生因子が免疫抑制に関わっており、免疫系と血管新生因子をあわせて標的とするがん治療ができる可能性を示すエビデンスも発見しました」と続けた。

免疫チェックポイント阻害剤に応答しそうな患者の判定は特に難しいと、Hodi医師は説明する。がん細胞自体の複雑性に加えて、免疫系や腫瘍の周りの組織の多面性が影響するからだという。簡単に測定できて免疫チェックポイント阻害薬への応答を確実に予測できる血中バイオマーカーをみつければ、この問題は解決する。

ANGPT2は当初からバイオマーカーの有力な候補と考えられていた。このタンパク質は、腫瘍が血流から栄養を吸い上げるのを促進するだけでなく、免疫療法によって患者の体内につくられる抗体の標的となっている可能性がある。このことから、治療中にANGPT2レベルが低く維持されている患者は免疫チェックポイント阻害薬が奏効する可能性が高いと考えられる。

この研究は3つのグループの進行メラノーマ患者を対象とした。免疫チェックポイントタンパク質CTLA-4を阻害するイピリムマブ(ヤーボイ)による治療群48人、イピリムマブと血管新生阻害剤ベバシズマブ(アバスチン)による治療群43人、および免疫チェックポイントタンパクPD-1を標的とするニボルマブ(オプジーボ)またはペムブロリズマブ(キイトルーダ)による治療群43人である。患者全員から、治療前と治療開始後3カ月を超えない時点で1回ずつ血液検体を採取した。患者は3件の臨床試験の参加者で、どの試験の評価項目にも生存期間が含まれた。

3試験でそれぞれ、17%、20%、37%の患者に腫瘍の消失または縮小が認められ、全員の追跡調査期間の中央値は33カ月だった。

イピリムマブ単剤療法群では、治療前のANGPT2レベルが高かった患者の生存期間中央値は12.2カ月だったのに対し、低レベルだった患者では28.2カ月だった。イピリムマブ+ベバシズマブ併用療法群では、全生存期間(OS)の中央値は、治療前のANGPT2レベルが高かった患者では10.9カ月だったのに対し、低かった患者では19.3カ月だった。PD-1阻害剤による治療を受けた患者では、治療前のANGPT2レベルが高かった患者ではOSの中央値が7.3カ月だった。低レベルの患者では、この報告が行われた時点では半数を超える患者が生存していたため、OS中央値には到達しなかった。

治療による血中ANGPT2値の変化が生存期間に与える影響を調べるため、治療前と治療中の値の「倍率変化(fold change)」を計算した(倍率変化(fold change)とは、一定時間経過したときの増加や減少の割合である。たとえば25から50への変化は1倍の増加となる)。

その結果、イピリムマブ単剤療法群では、ANGPT2レベルの変化が1.25倍より小さい患者の生存期間の中央値は12.4カ月、1.25倍より大きい患者では28.1カ月だということがわかった。イピリムマブ+ベバシズマブ併用群でも同様の傾向が認められたが、統計学的な有意差はなかった。

3試験すべてのデータを合わせると、治療開始時にANGPT2レベルが高く治療期間の初期に大幅な倍率変化が認められた患者は、生存期間が最も短いことがわかった。反対に、治療前は低レベルで治療開始後も倍率変化が小さかった患者の生存期間は最長だった。ANGPT2レベルと生存期間には密接な関連性があり、このタンパク質が予後のバイオマーカーの候補であることを示している。

ANGPT2が生存期間に与える影響を明らかにするために、腫瘍の近くに現れることが多いマクロファージとよばれる免疫細胞で実験を行った。その結果、ANGPT2が、細胞表面上に免疫チェックポイントの阻害因子であるPD-L1の分厚いマットをつくることがわかった。

「こうしたin vitroでの実験から、血管新生因子は血管をつくる役割だけでなく、免疫を抑制する作用もあわせもつことが示されました」とHodi医師はいう。「したがって、血管新生阻害薬は免疫チェックポイントの阻害に相乗効果をもたらす可能性があります。今後、さらに大規模な患者群でこの試験から得られた知見を確認したいと考えています」と付け加えた。

本試験は、研究資金の一部をthe National Institutes of Health、the Melanoma Research Alliance、the Sharon Crowley Martin Memorial Fund for Melanoma Research、the Malcolm and Emily Mac Naught Fund for Melanoma Research、Genentech/Roche社、Bristol-Myers Squibb社、およびa Stand Up To Cancer – Cancer Research Institute Cancer Immunology Dream Team Translational Research Grant (SU2C-AACR-DT1012)から提供された。Hodi医師はGenentech社の顧問を務めており、Bristol-Myers Squibb社から所属する研究施設に研究支援を受けている。Ang-2 (ANGPT2)はバイオマーカーとして特許出願中である。

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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