高精度医療(プレシジョンメディシン)を理解する
高精度医療(Precision medicine:プレシジョンメディシン)とは、患者ケアのアプローチの一つで、これにより、医師は疾患の遺伝子的理解に基づいて、患者に役立つ可能性が最も高い治療法を選択できるようになります。これは個別化医療とも呼ばれます。高精度医療の考え自体は新しいものではありませんが、最近の科学技術の進歩により、この分野の研究スピードが速くなっています。
今日、あなたががんと診断されると、一般には同じがん種、同じステージの人達と同様の治療を受けます。たとえその場合でも、患者によって異なる反応を示すこと可能性があり、最近までその理由は医師にもわかっていませんでした。数十年にもわたる研究により、現在では患者の腫瘍にはがんを成長・拡散させる遺伝子変化があることを研究者は知るようになりました。また、ある人のがんで発生している遺伝子変化が、同じがん種の他の人には発生しない可能性があることもわかってきました。さらに異なったがん種において、がんを引き起こす同一の遺伝子変化がみられる場合もあります。
このページについて
- 高精度医療の希望
- 治療の選択肢としての高精度医療
- すべての患者ががんの遺伝子変異検査をするとは限らない
- どのようにしてがんの遺伝子変化を同定するか
- 高精度医療にかかる費用
- 進歩し続ける高精度医療の研究
高精度医療の希望
高精度医療の希望は、いつか治療が各個人のがんの遺伝子変化に適合したものになることです。研究者らは将来的に、腫瘍が反応する可能性が最も高い薬物治療を患者は受け、役に立たない薬物治療は受けないで済むだろうとみています。がんの発生部位にかかわらず、腫瘍内でがんを引き起こしている遺伝子変化を標的とした薬剤による治療が患者の役に立つかどうかを調べるため、研究は今も行われています。こうした薬剤の多くは標的治療として知られています。Targeted Therapy のセクションでは、これらの治療についてさらに詳しく説明しています。
高精度医療はがん患者にとって更なる選択肢の一つになるが、すでに行われている治療に取って代わる可能性は低いだろうと専門家は考えています。現在、もしがんの治療が必要となれば、外科手術、化学療法、放射線療法、免疫療法などの併用治療を受けることになるでしょう。どの治療を受けるかはがんの種類や大きさ、進展の程度によって異なります。高精度医療では、既知の薬剤が標的とする遺伝子変化があなたのがんにあれば、その薬剤も投与されることになるでしょう。
特定のがんに特有な遺伝子変化に対して効果が認められ、米国食品医薬品局(FDA)によって承認されて薬剤もあります。こうした薬剤の多くはTargeted Cancer Therapiesで説明されています。承認済みの治療法は、どこでがんの治療を受けるにせよ適用されるべきです。
治療の選択肢としての高精度医療
研究者らは日々進歩を遂げているものの、高精度医療を使った治療はまだ多くの患者にとって日常のケアの一部にはなっていません。高精度医療で使用されている新たな薬剤の多くはまさに臨床試験中にあります。特定のがん種やステージの患者を対象とする臨床試験もあれば、さまざまながん種やステージの患者を対象とする臨床試験もあります。高精度医療の臨床試験に適格となるためには、試験中の薬剤の標的となる遺伝子変化を腫瘍が有していなければなりません。
すべての患者ががんの遺伝子変異検査をするとは限らない
あなたのがん種に承認済みの標的薬があれば、がんを誘発しうる遺伝子変化を検査するでしょう。たとえば、メラノーマ(悪性黒色腫)や白血病、乳がん、肺がん、大腸がんの患者は、一般に診断を受けるときに、特定の遺伝子変化を有するか検査します。がんを引き起こす遺伝子変化が時間をかけて新たに発生することもあるため、がんが再発、または悪化した場合に検査をすることもあるでしょう。
あなたのがん種に対する承認済みの標的薬がない場合でも、さらに遺伝子変化を調べることがあります。たとえば、あなたのがんが高精度医療の臨床試験に参加できるかどうかを調べる場合があります。
どのようにしてがんの遺伝子変化が同定されるか
がんにどのような遺伝子変化が起きているのか明らかにするには生検を受ける必要があります。生検とは医師がそのがんのサンプルを採取する手技のことを言います。このサンプルは専門施設に送られ、DNAシークエンサーという機械でがんの増殖を引き起こす遺伝子変化を調べるのです。このがんの遺伝子変化を調べる手順はDNAシークエンシング、遺伝子検査、分子プロファイリング、腫瘍プロファイリングといわれることもあります。
さらに詳細な情報はClinical DNA Sequencingをご覧ください。
高精度医療に対する支払い
承認済み薬剤で治療できる遺伝子変化を有したがん種であれば、がんの遺伝子変化の検査は日常的な治療の一部となります。したがって、保険会社がその費用を負担してくれる可能性があります。ご自身の保険会社にどの費用が負担されるのか確認しましょう。
高精度医療の臨床試験に参加する場合、遺伝子変化を調べる費用は臨床試験を主催する組織が負担するでしょう。臨床試験スタッフに尋ねて同意書の内容を確認しましょう。
あなたのがん種に対する承認済みの標的薬がなく、高精度医療の臨床試験にも参加できない場合は、保険会社はおそらく遺伝子変化の検査に対する費用を負担しないでしょう。
遺伝子変化を調べる検査には複雑な科学技術と専門の研修を積んだ人の力を必要とします。したがって、この検査は高額なものとなります。
高精度医療を用いた治療もまた高額になる可能性があります。がんを引き起こし、成長させ、転移させる遺伝子変化を標的とした薬剤を開発する研究には、数年、ときには数十年かかることがあります。そのため薬剤が市場に出る頃には、薬剤が非常に高価になることがよくあります。
進歩し続ける高精度医療の研究
研究者らはがんを引き起こし、成長させ、拡散させる遺伝子変化をすべて発見したわけではありませんが、彼らは日々進歩を遂げ、新たな変化を発見しています。この研究の情報はさまざまな国の研究者がアクセスできるデータベースに収集され、研究者らが各自の研究にデータを利用することができます。こうしたデータ共有が高精度医療分野の進歩を後押ししています。
遺伝子変化が発見されると、また別の精力的な研究により、その変化を標的とした薬剤が探し出され、その薬剤が臨床試験にかけられます。臨床試験は米国中で行われています。あなたが適格となる臨床試験で募集中のものがあるか見つけるには、 Find a Clinical Trialの検索ツールを使います。あるいは、Cancer Information Serviceに連絡しましょう。
研究者は標的治療の効果を制限する薬剤耐性の問題についても理解し、解決しようと取り組んでいます。高精度医療がこれまで明かされなかった秘密の鍵になると多くの研究者は考えています。
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