2011/02/08号◆特集記事「ベバシズマブ、化学療法との併用は死亡率上昇と関連」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2011年2月8日号(Volume 8 / Number 3)

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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

ベバシズマブ、化学療法との併用は死亡率上昇と関連

ニューヨーク州立ストーニーブルック医科大学の研究者らが行った臨床試験16件のメタ解析によると、化学療法に分子標的薬ベバシズマブ(アバスチン)を併用投与した癌患者では、死亡に至るかもしれない重篤な副作用のリスクが上昇する。この結果はJAMA誌2月2日号に掲載された。

致死的有害事象のリスクは、ベバシズマブに併用する抗癌剤の種類によりさまざまであると、筆頭著者であるDr. Vishal Ranpura氏らは発表した。 さらに腫瘍タイプやベバシズマブの投与量によってもリスクは異なるであろうことを示唆したが、どちらに関しても確固たる答えを示すに足る統計的な裏づけはなかった。

この解析には、ランダム化試験に参加した10,200人以上の患者が含まれた。ベバシズマブ投与群の致死的事象発生は、非ベバシズマブ投与群の1.7%に比べてほぼ50%リスクが上昇して2.5%であったが、全体として致死的事象は比較的まれであった。しかし、カルボプラチンやパクリタキセルといったプラチナ系やタキサン系の抗癌剤にベバシズマブを併用投与した患者のリスク上昇は3倍を上回った。

もっとも多い致死的事象は、全体のほぼ4分の1を占める出血であった。特定の種類の白血球が減少し感染リスクが増加する’好中球減少症’が2番目に多い事象で、消化管穿孔、肺動脈塞栓、脳卒中といった脳血管イベントが次に続いた。

ベバシズマブによる恩恵は一部の患者でリスクを上回ることがあるが、この知見は、ベバシズマブをどのように使うか厳重に吟味することを促すはずであると、上級著者のDr. Shenhong Wu氏は説明した。腫瘍専門医である同氏は、「ベバシズマブの毒性とこれが引き起こす致死的事象の可能性に対して十分な配慮を払わなければなりません」と述べた。

ベバシズマブを投与した患者に重篤な有害事象のリスクが増加するというこの結果は、「ベバシズマブに関してこれまで知られていることとほぼ一致している」と、NCIの癌治療・診断部門のDr. Helen Chen氏は述べた。「現時点でベバシズマブに関して明らかなことは、この薬剤による重篤な有害事象の発生は、癌の状況と合併症に大いに関係しているということです」進行肺癌患者に出血がみられるというように、特定の癌においてある種の事象リスクの増加が生じやすくなるとChen氏は続けた。

南カリフォルニア大学ケック医科大学の臨床内科教授でありウィルシャー腫瘍メディカルグループのDr. Cary Presant氏は、この試験結果は診療に影響を及ぼすであろうと確信している。「ベバシズマブの使用量は減少していくと思います」と彼は述べた。「この知見により、ベバシズマブの投与を考えている医師は患者に致死的事象について話をする義務を負い、そして薬効がわずかな場合はベバシズマブの使用の減少に繋がるでしょう」。

ベバシズマブ効果の一番強力なエビデンスは、依然、転移性大腸癌患者に対する治療と思われるとPresant氏は続けた。「しかし、肺癌や乳癌ではベバシズマブによる恩恵がさほど大きくないため、同治療を選択しない患者もあるでしょう」。

血管内皮増殖因子(VEGF)と結合する血管新生阻害剤ベバシズマブは、腫瘍への血液供給を標的として創薬された初の米国食品医薬品局(FDA)承認薬であった。大腸癌に対する治療の承認に続き、このモノクローナル抗体は、肺癌、腎臓癌、膠芽腫の治療に対しても承認された。(個々の適応に関しては下記の表参照)

ベバシズマブはさらにHER2陰性の転移性乳癌の治療に対しても承認された。しかし市販後に行われた複数の臨床試験で全生存率に改善が認められず、「患者に及ぼす重大なリスク以上に、病勢進行を抑える十分なベネフィットは認められない」との発表に基づき、2010年12月、FDAは乳癌に対する承認を取り消す手続きを開始したと発表した。ベバシズマブを製造しているGenentech社は、FDAの承認取り消しの裁決に対して公聴会を要求している。

ミシガン大学総合がんセンターのDr. Daniel Hayes氏はJAMA誌の論説に、ベバシズマブによる治療は年間10万ドルに達するが、癌治療においてこの薬剤の適切な使用は未だかなり不確実であると記した。 「非常に信頼できる前臨床試験のデータと期待が持てる早期臨床試験結果にもかかわらず、ベバシズマブはなぜ全生存期間の改善に成功しなかったのか」とHayes氏は記した。

生存期間中央値の改善は、FDAが承認を決定する基となった主な試験のうちのわずか3試験でのみ認められた。うち2つの試験の生存期間の延長は3カ月に満たないものであった。 「ベバシズマブの奏効率を注意深く見直したところ、ベバシズマブはよく奏効を示していますが、それは選ばれた患者に対してのみです」とHayes氏はさらに示した。多数の臨床試験で広く試験が行われているにもかかわらず、「利益を得られる可能性のある特定の患者のサブグループを見抜けていない」と続けた。

JAMA誌に発表された結果を受けて、Genentech社は声明の中で、「当社が行ったほとんどの臨床試験には、包括的なバイオマーカープログラムの一部としてバイオマーカー解析のための血液、腫瘍組織、DNAの収集が含まれている」と述べた。これまで、いくつかの試験では、特定のマーカーとベバシズマブを中心とした治療の結果には相関関係があるとの報告があるが、臨床導入に必要とされる厳しい検証試験が実施されたマーカーはなかったとChen氏は強く主張した。

Genentech社は、あるバイオマーカーの要素をもつHER2陰性乳癌に対するベバシズマブの第3相臨床試験を提案した。Genentech社のFDAへの提出文書の説明によると、この第3相試験は、前回試験でのレトロスペクティブ解析に基づいてVEGF-Aタンパクの血漿濃度がベバシズマブの「より大きな利益」を示すかどうかを評価するものであるという。

— Carmen Phillips

ベバシズマブとその適応

適応治療方法FDAの承認の基となった試験結果
転移性大腸癌の一次治療IFL療法(イリノテカン、フルオロフラシル、ロイコボリン)との併用全生存期間中央値が4.7カ月改善した。また無増悪生存期間も改善した。
転移性大腸癌の二次治療FOLFOX4療法(フォリン酸[ロイコボリン]、フルオロフラシル、オキサリプラチン)との併用全生存期間が2.2カ月改善し、無増悪生存期間も改善した。
切除不能局所進行、再発、あるいは転移性非小細胞肺癌(非扁平上皮癌)の一次治療カルボプラチンやパクリタキセルとの併用全生存期間が2カ月改善した。
転移性腎臓癌、腎摘出後インターフェロンαとの併用無増悪生存期間の改善
進行膠芽腫の二次治療単剤奏効率
転移性乳癌、化学療法の治療歴が無い*パクリタキセルとの併用無増悪生存期間の改善

*FDAは乳癌に対する適応を取り消す手続きを行っている。

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Nogawa 訳
勝俣 範之(乳腺科・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院) 監修  ******

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