腫瘍標本におけるPD-L2発現の特定のための新手法を開発

複数のヒト腫瘍型でPD-L2の発現が確認され、PD-L1は陰性ながらも抗PD-1抗体療法で効果を示す腫瘍患者の原因解明の可能性

 議題:病理学/分子生物学/免疫腫瘍学

プログラム細胞死1(PD-1)受容体のリガンドとして知られるプログラム細胞死リガンド2(PD-L2)の発現が7種の異なるヒト腫瘍型で確認されたことが、2015年9月25~29日にオーストリアのウィーンで行われた欧州がん学会(ECC 2015)で発表された。

PD-1経路を標的とした薬剤の開発により、がん治療は大きく変貌を遂げた。その作用機序は、患者の免疫系を再活性化することで、腫瘍消失を促進するものである。ECC2015で報告されたこの研究では、複数の腫瘍型におけるPD-L2の発現を検討し、抗PD-1抗体療法の臨床効果に影響を及ぼしていると考えられる役割について考察した。

研究者らは、PD-L2の発現量および発現範囲が、PD-L1のものと有意に相関することを明らかにした(P = 0.0012~P<0.0001)。 その方法として、ヒトのさまざまながん種の、同じ保存済み組織検体を用いて、新しく確立した手法と、これまでの標準的な免疫組織化学染色の手法(IHC)とを、比較した。また、同じ腫瘍標本において、PD-L2の発現量とPD-L2 mRNA量(Nanostring法で定量)との間にも有意な相関が認められた(P= 0.0037~P

2015年9月27日(日)に行われた、がん免疫療法に関する一般演題(Proffered Paper)セッションにおいて、Merck & Co., Inc.社(米国ケニルワース)Biologics Operations, Profiling and Expression部門のJennifer Yearley氏は、PD-L2の重要性について述べ、PD-L2を用いることで、PD-1受容体を標的とした薬剤をさまざまなヒト腫瘍型の治療に広く応用できる可能性を説明した。

PD-L1陰性でもPD-1経路を標的とした治療で効果が得られる患者も

医師であるYearley氏によれば、PD-1経路を標的とした薬剤を行う際には、IHCを用いてバイオマーカーを測定し、患者の腫瘍型に治療が適応可能であるか確認が行われているという。バイオマーカーの測定によって、治療効果を示す患者の予測精度は向上しており、測定には、これまでに明らかになっている2種類のPD-1受容体リガンドの1つであるPD-L1の、腫瘍組織への発現量を用いることが多い。

しかし、PD-L1陰性患者の中には、PD-1経路を標的とした治療で効果を示す患者もおり、これは、他の既知のリガンドであるPD-L2の発現が関与していると考えられる。

Yearley氏は、Merck社の研究チームを代表し、PD-L2検出のための新たなIHC手法による研究知見を発表した。研究対象は、7種のヒト腫瘍型―腎細胞がん、膀胱がん、黒色腫(メラノーマ)、非小細胞肺がん(NSCLC)、頭頸部扁平上皮がん(HNSC)、トリプル・ネガティブ乳がん(TNBC)、胃がん―から採取し保管されていた組織とした。検討した保管組織群の各標本サイズは22標本(TNBC)~94標本(NSCLC)で、1腫瘍型ごとの標本サイズ中央値は71標本であった。

また、上記のIHC染色によるPD-L2の所見を、Nanostring社のプラットフォームにより定量したPD-L2 mRNA量、およびクローン22C3抗体(Merck社)によるIHCを行ったPD-L1の染色結果と比較した。

この研究により、これら7種の腫瘍型の腫瘍微小環境においてPD-L2の発現が有意であり得ること、そして、その発現量は腫瘍中のPD-L2 RNA量と相関することが明らかになった。


PD-L1の発現とPD-L2の発現は必ずしも共起しない可能性

さらに、PD-L1は発現してもPD-L2が発現しない腫瘍標本や、PD-L1は発現せずにPD-L2のみを発現する腫瘍標本が観察された。

PD-L1が発現していない腫瘍標本に、PD-L2が発現していたのである。つまり、これら2つのバイオマーカーを両方とも測定することで、PD-1経路を標的とした薬剤を用いた方が臨床効果を示す可能性の高いケースの見きわめが可能になるのだ。例えば、PD-L1陰性患者に対しては、抗PD-L1抗体を用いるよりも、抗PD-1抗体を用いる方が、臨床効果を得られる可能性が高くなるということだ。

結論
研究者らは、PD-L1の発現のないヒト腫瘍中にPD-L2が発現する可能性があると総括し、PD-L2が、現在はPD-1経路を標的としている薬剤の第二の標的となる可能性が示唆された。PD-L2の発現に着目することで、PD-L1陰性で抗PD-1抗体療法で臨床効果が得られる患者のうち、少なくとも一部の原因の解明がなされるであろう。

また、今回の研究知見により、抗PD-1抗体療法を行う際、PD-1受容体とPD-L1との結合を阻害するだけでなく、PD-L2との結合も阻害することで、利益が得られる患者の存在が示された。こうした患者は、PD-L1のみを標的とした治療では利益は得られないであろう。

参考文献
PD-L2 expression in human tumors: relevance to anti-PD-1 therapy in cancer(抄録番号18LBA)

本研究は、Merck & Co., Inc社より研究助成を受けた。

翻訳担当者 前田愛美

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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