『抗体毒素結合体』のがん新薬開発
がん細胞を直接破壊するのではなく、免疫反応を促す新薬デザイン
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、免疫介在性の腫瘍の根絶を刺激するように設計された新しい抗体毒素結合体(ATC)を開発した。Nature Center誌に本日発表された前臨床試験の結果によると、この新しいアプローチは、以前よりよく知られている抗体薬物複合体(ADC)の利点と免疫療法の利点を組み合わせたものである。
抗体薬物複合体は、がん細胞上に発現する特定のタンパク質を標的とすることで、腫瘍への正確な治療薬送達を可能にするモジュール設計により、近年、画期的なものとして登場した。これらの結合体は、その腫瘍標的能力を利用し、通常は化学療法において、ペイロード(細胞毒素)をがん細胞に直接送達してがん細胞を死滅させる。
連絡担当著者で放射線腫瘍学准教授のWen Jiang医学博士によると、抗体毒素結合体は、がん細胞を直接死滅させるようには設計されていないという点で異なっている。
「効果的な抗体薬物複合体は腫瘍細胞を破壊するように設計されていますが、しばしば不完全に破壊し、耐性や再発を引き起こします」とJiang氏は述べた。「この新しい抗体毒素結合体アプローチでは、身体の自然な免疫反応を誘発することを目指しています。これにより、副作用を抑えるだけでなく、免疫系が全身の腫瘍を攻撃できるようになり、再発を予防できる可能性もあります」。
多くの固形腫瘍は、その表面にCD47タンパク質(血球細胞の表面に存在するタンパク質で、マクロファージなどの貪食細胞からの攻撃を防ぐ役割を担っている)を発現している。このCD47タンパク質は、身体の免疫システムに対して「私を食べないで」というサインとして機能し、腫瘍発覚の回避を可能としている。この抗体毒素結合体の抗体は、CD47をターゲットとするが、腫瘍を破壊するために化学療法のペイロードを送達する代わりにに、細菌毒素を運ぶ。
簡単に説明すると、CD47抗体はがん細胞に結合し、がん細胞が体内の免疫細胞に食べられるように目印を付ける。一度、免疫細胞ががん細胞を取り込むと、毒素が内部に放出され、活性化されて、通常は破壊される腫瘍DNAやタンパク質断片が出て行く経路を作リ出す。それから、これらの物質は免疫細胞の認識能力をさらに促進し、免疫細胞自身の抗腫瘍防御システムを高めるというプロセスをたどる。
「このデザインは細菌にヒントを得たものです。細菌は、宿主細胞を生きたまま機能させながら、細胞内のトラップから逃れ、増殖し、拡散するという驚くべき能力を持っています」とJiang氏は述べる。「われわれは、それと同じ能力を利用して、無傷の腫瘍物質を免疫細胞内の適切な場所に移動させるのです。腫瘍物質は破壊される代わりに、腫瘍細胞をより正しく認識するように身体に教えるのです」。
乳がんとメラノーマの前臨床モデルにおいて、このアプローチは複数の利点を示した。正常組織と区別する目安となるがん細胞のユニークな特性を認識するよう免疫力を高めることにより、新しい抗体毒素結合体は抗腫瘍免疫反応をより効果的に引き起こすことができた。これにより、免疫細胞は体中の腫瘍を排除できるようになった。
このプロセスで作られたT細胞は2カ月後も残っており、腫瘍の再発防止を可能とするこのアプローチに対して記憶作用があることを示唆している。
「この新しいデザインによって、抗体毒素結合体の可能性を広げる全く新しい研究の道が開かれることを期待しています」と筆頭著者である放射線腫瘍学の研修医、Benjamin Schrank医学博士は述べる。「われわれは、治療終了後もがんと戦い続けられるように、免疫系がこれらの腫瘍を認識し反応するように訓練したいのです」。
この方法はまた、従来の治療法、特に放射線療法と併用できる可能性がある。多くの固形腫瘍は放射線療法に対して、CD47を含むタンパク質で身を隠そうと反応する。このCD47の発現増加によって、抗体毒素結合体の影響をさらに受けやすくなる。
「この免疫を刺激する抗体毒素結合体のコンセプトは、CD47以外にも広がっており、われわれはすでに他の腫瘍特異的レセプターをターゲットとしたプロジェクトを開発し、身体が多様な治療困難ながんをターゲットとできるような抗体薬物複合体を創出しています」。
本研究の一部は、米国国立衛生研究所(R01NS117828, P30CA016672)、およびアメリカがん学会(RSG-22-052-01-IBCD, PF-24-1156745-01-ET)、北米放射線学会(RR1644)、SITC-Merck がん免疫療法臨床フェローシップおよび米国臨床腫瘍学会若手研究者賞(2024YIA-0832385427)の支援を受けた。
- 監修 東海林洋子(薬学博士)
- 記事担当者 山口みどり
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- 原文掲載日 2025/02/25
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