AIは、免疫療法薬治療を受けるべきがん患者の予測に役立つか
免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる免疫療法薬は、ある種のがんを患う人に劇的な変化をもたらすことが証明されている。進行したメラノーマ(悪性黒色腫)、肺がん、その他の腫瘍を患う少数の患者では、体中に散らばったがん病巣が簡単に消失してしまう。注目すべき稀なケースでは、がんが再発することはない。
しかし、ほとんどの患者において、免疫チェックポイント阻害薬は患者のがんに効果がなく、効果があったとしてもがんは再発する。これらの薬剤は重篤で時には致命的な副作用を伴う可能性があり、価格も高いため、研究者らはこれらの治療で利益を得る可能性がもっとも高い患者を特定する方法を見つけるために競い合ってきた。
新たな研究で、研究者らは、このニーズを満たすことができるかもしれない人工知能(AI)ツールを検証した。そのツールはSCORPIOと呼ばれ、免疫チェックポイント阻害薬による治療後に患者の腫瘍が縮小するかどうか、また治療後に患者がどのくらい生存するかを予測する上で、食品医薬品局(FDA)が承認した検査よりも正確だったことが、1月6日付けのNature Medicine誌に発表された研究結果で明らかになった。
この研究の主任研究者であるDiego Chowell博士(マウントサイナイ・アイカーン医科大学)によると、SCORPIOの特に注目すべき点は、「定期的な血液検査と患者の医療記録から抽出した情報だけから構築されている」ことだという。
こうした種類の予測ツールを開発することがますます重要になってきていると、NCIがん研究センターのEytan Ruppin医学博士は述べる。
「多数の患者を対象として、数種類の異なる薬剤を検討することができます」と言うRuppin博士は、同様のモデルを開発しているが、今回の研究には関わっていない。「患者のがんがどの薬剤に最も反応するかを知り、その利点とリスクや副作用とを慎重に比較検討できるようにしたいと思っています」。
Chowell博士によれば、彼のチームがSCORPIOに関する追加研究を実施しており、このツールを研究の場以外でも利用できるように取り組みを進めているとのことである。
予測力の向上
現在、米国食品医薬品局は、患者のがんが免疫チェックポイント阻害薬による治療に反応する可能性の予測を目的とした2つの検査を承認している。
1つの検査では、腫瘍サンプルに含まれるタンパク質PD-L1の量を測定する。もう1つの検査では、遺伝子配列を使用して腫瘍内の変異の数を表にまとめ、腫瘍変異量(TMB)と呼ばれるスコアを生成する。(変異したタンパク質は免疫系の標的になりやすい)。
これら2つの検査のいずれかでスコアが高い人は、低い人よりも免疫チェックポイント阻害薬治療後に腫瘍が縮小する可能性が高いと、Ruppin博士は言う。
しかし、これらの検査は完璧からは程遠い。スコアが低い人でも、驚くほど治療に反応することがある、とRuppin博士は指摘した。また、スコアが高い人でも、免疫チェックポイント阻害薬の効果がみられない人もいる。このため、PD-L1とTMBは理想的なバイオマーカーとは言えない。
2024年、NCIのRuppin博士研究室は、Chowell博士のチームや他の研究者と共同で、彼らが開発したSCORPIOに類似した予測モデルLORISを使った研究結果を報告した。LORISは標準的な血液検査で通常得られる情報を使用するが、TMBや治療歴など、他のいくつかの情報もLORISには含まれる。
LORISモデルはSCORPIOモデルよりも少ない患者数に基づいているとRuppin博士は言う。また、免疫チェックポイント阻害薬に対する腫瘍の反応を予測し、「TMBが低い患者にも役立った」と同博士は付け加えた。
しかし、TMB検査は高額であり、免疫チェックポイント阻害薬と併用する「コンパニオン診断」としてFDAに承認されているにもかかわらず、保険が適用されないことが多いとChowell博士は説明する。彼らの新たな研究では、さらに一歩進め、TMBを予測数式から完全に排除した。
SCORPIOを基礎から構築する
SCORPIO の開発と試験にあたり、Chowell博士らは、ニューヨークのマウントサイナイとスローンケタリング記念がんセンターで免疫チェックポイント阻害薬の単剤または複数種類の併用による治療を受けた約1万人のデータを活用した。
SCORPIO の開発には合計21種類のがんが対象となった。多かったがん種は、メラノーマ(悪性黒色腫)、膀胱がん、肝臓がん、肺がん、腎臓がんであった。
研究者らは当初、スローンケタリング記念がんセンターで治療を受けた約2,000人の患者のデータを使用してSCORPIOを構築した。その結果、年齢、性別、体格指数(BMI)、標準的な血液「パネル」の測定値などの単純な臨床因子が、免疫チェックポイント阻害薬による治療後の生存と腫瘍反応を予測する重要な要素であることがわかった。
その後、研究チームは、他の2つの大規模コホート研究における患者のリアルワールドデータ、および、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた、臨床試験10件の参加者から収集した複数の検証データ セットを使用して、SCORPIOの性能を検証した。SCORPIOは、その後2年半にわたってさまざまな患者グループにおいて、生存を72%から76%という性能で正確に予測した。
「通常の血液検査と基本的な [患者] データだけを使って、これは素晴らしい性能です」とChowell博士は言う。このモデルは、免疫チェックポイント阻害薬による治療で利益を得る可能性が高い人と低い人を識別することもできた。これには、腫瘍が大きくなるものから、安定したままのもの (つまり、縮小も増殖もしない)、そして完全に消えたものまで、幅広い反応が含まれていた。
SCORPIOは、治療後にどの患者がより長く生存するかを予測する点で腫瘍変異量(TMB)よりもはるかに優れていた。
「そして、[SCORPIO] は臨床試験コホートよりもリアルワールドコホートで優れた性能を発揮しました」とChowell博士は説明した。この知見から、さまざまな治療シナリオからのデータと、健康プロファイルがさまざまである多種多様の人々からのデータを組み込むことで、臨床試験データのみから構築した場合よりもツールの精度が向上したと言えると同医師は述べた。
SCORPIOの次は?
Chowell博士のチームは次に、病院や医院と協力し、免疫チェックポイント阻害薬を投与されたことがないがん患者においてSCORPIOがどの程度の性能を発揮するかを検証する予定である(ただし、検証結果は、患者に免疫チェックポイント阻害薬を投与するべきかどうかの判断には使用しない)。
研究チームは、このツール用に、公的にアクセス可能なクラウドベースのプラットフォームも構築している。LORISはNCIのウェブサイトで公開されている。
さまざまな治療に対する反応を予測するモデルに取り組んでいる研究者らは、これらのモデルの予測力をさらに高めるために追加できる他の情報も探している、とRuppin博士は説明した。
「腫瘍は複雑なので、(通常の血液検査のデータを使って予測できる範囲が)限界に達している可能性があります。しかし、それはさらに調査する価値があり、時間が経てばわかるでしょう」。
- 監修 高光恵美(生化学、遺伝子解析)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/02/26
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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