OncoLog 2014年6月号◆リンパ浮腫に対する外科療法
MDアンダーソン OncoLog 2014年6月号(Volume 59 / Number 6)
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リンパ浮腫に対する外科療法
四肢のリンパ浮腫は、原因が癌治療でも、他にあっても、通常は完治されない。しかし、外科技術の進歩により多くの患者の症状が軽減、解消されつつある。
リンパ浮腫の標準療法
リンパ浮腫の標準療法の目的は、症状を管理し腫脹を軽減するか進行を止めることである。リンパ浮腫の治療計画は個々の患者のニーズに応じて個別化されているが、一般的には圧迫着衣、運動、用手法によるリンパドレナージ(マッサージ療法の一種)、あるいはこれらの治療の組合せが挙げられる。医療関係者は、リンパ浮腫に対して適切なスキンケアが施されている患者に裂傷や感染症を防ぐように助言も行っている。
過去百年にわたって、リンパ浮腫を軽減、さらには治癒しようとさまざまな外科技術が試みられてきた。しかし、ほとんどの技術は効果が得られなかったか、結果が他の施術者によって再現できなかったため定着することはなかった。最近ようやく、顕微鏡下手術の進歩によりリンパ浮腫の外科治療は現実的な選択肢となった。
リンパ浮腫の手術
2006年以来、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの外科医らはリンパ浮腫に対して顕微鏡下手術による治療(リンパ管バイパス術と血管柄付きリンパ節移植)を行い、良好な成績をおさめてきた。
日本の専門医らがリンパ浮腫の外科治療の進歩の先頭に立ってきており、ともにMDアンダーソン形成外科准教授であるRoman Skoracki医師やMatthew Hanasono医師ら数名の外科医が日本に渡り、時間をかけてこの技術を習得してきた。Skoracki医師によると、「この治療法は10年ほど前までは容易には受入れられませんでしたが、今では米国のいくつかの大学病院で実施されています」。それでも、リンパ浮腫の管理にこの最新の手術を行う施設はいまだ世界で約24施設ほどしかなく、MDアンダーソンはその一つである。
リンパ浮腫のある患者は誰でもこれらの顕微鏡下手術の対象となり得るが、最も成績がよいのは(特にリンパ管バイパス術で)早期リンパ浮腫の患者である。ほとんどの患者では活動性の癌にはリンパ浮腫手術は禁忌と考えられている。
この手術を行っている施設は少ないため、手術対象患者を選別する正式なシステムは確立されていない。したがって、外科チームに紹介されて評価を行っていない患者の中にも、これらの手術法のいずれかで効果が得られる患者は多いと思われる。
これらのいずれかの顕微鏡下手術を計画するためには、外科医はまず患肢のリンパ管についてリンフォシンチグラフィーで病期分類を行う。リンフォシンチグラフィーとは、放射活性を有するコロイドをリンパ管に注入しリンパの流れをトレースして障害を検出する方法である。いずれの手術でも、術中にリンパ管造影を行う。
リンパ管バイパス術
リンパ管バイパス術では、閉塞したリンパ管(多くは直径0.1~0.8 mm)を並走する細い静脈に吻合し、リンパ液を再び環流させる。この手術では患者の腕あるいは足に2~5箇所の小さな切開を要し、通常全身麻酔で行う。患者は通常迅速に回復し、本法の所要時間は病院到着から帰宅まで半日以内である。
リンパ管バイパスにより患肢の浮腫を大きく低減できるものの、ほとんどの患者では手術後も多少の腫脹が続き、圧迫着衣とマッサージ療法によるリンパ浮腫の標準治療を継続する。
リンパ節移植
より侵襲性が高い手術には、血管柄付きリンパ節移植がある。この治療法は影響のない健康な部位(腕のリンパ浮腫患者では鼠径部が多い)からリンパ節を採取して顕微鏡下で血管柄付き組織片として移植して、損傷を受けたり失われたりしたリンパ節の代わりとする。
「これらのリンパ節にはレシピエント部位に吻合できる動脈と静脈が付いて、血流が損なわれないまま移植されます」とHanasono医師は述べる。「移植されたリンパ節はその後滞留していたリンパ液を吸収し、集めると思われます」。
移植されたリンパ節はリンパ管形成を促進し、その過程で新たなリンパ管が増殖して移植されたリンパ節のリンパ流路に連絡し、新たなリンパ排出経路を作るとも考えられている。
血管柄付き移植片を用いて乳房の二期再建を受けた患者の中には、リンパ節移植が同時に行われる例もある。2つの手術を同時に行うことが次第に多くなってきており、移植されるリンパ節が乳房再建に用いられる組織片の一部となっている場合もある。
自己組織片移植による乳房再建には約5日間の入院が必要で、リンパ節移植には2~3日間の院内観察が必要であるため、 2つの治療を同時に行うことで患者が退院後さらに通院する時間、全身麻酔下での再手術、回復に要する時間、そして相当の出費を省くことができる。
患者は通常、リンパ節移植術後数週間にわたって圧迫着衣をつけるが、多くはいずれ圧迫着衣をやめることができる。リンパ浮腫の患者では感染症が多いが、リンパ節移植やリンパ管バイパス術を受けた患者ではリンパ排出が改善されるため少なくなる。
未知の領域の探究
リンパ節移植の課題の一つは、どのリンパ節ならドナー部位を損傷せず、また別のリンパ浮腫を生じることなく採取できるかを識別することである。この課題に対処するために、MDアンダーソンの研究者らはリンパ系とその排出経路の再マッピングを行っている。これは19世紀以来ほとんど進捗がない分野である。形成外科助教Alexander Nguyen医師は、リンフォシンチグラフィーとセンチネルリンパ節(リンパ液が最初に流れ込むリンパ節)のマッピングを用いて、残しておかなければならない重要なリンパ節を特定する精度を上げている。
手から色素を注入することで、Nguyen医師は腕のどこでリンパが停滞しているか見て、上肢のリンパ浮腫がある患者がリンパ管バイパス術とリンパ節移植のどちらの候補となるかを判断できるようにした。さらに、リンフォシンチグラフィーにより、吻合する位置をみることもできる。Nguyen医師によると、適切なリンパ管とそれに適合する静脈を探すことは、かつては干し草の中から針を見つけるようなものであったという。今や、Nguyen医師はこのように述べる。「われわれは成功率を上げるためのGPSを手に入れたのです」。
形成外科助教Hiroo Suami医学博士が統括する研究も、循環系の解剖学を解明することを目的としている。Suami 博士は、放射線不透過の造影剤と外科用顕微鏡を用いてリンパ流路を可視化し、「リンフォソーム」と呼ばれる局所的な皮膚リンパ領域を表わすユニークな技術を開発した。リンパ経路に対する理解が深まれば、リンパ節郭清により除去された腋窩リンパ節をバイパスして鎖骨のリンパ節を介した上肢の排出経路(Mascagni経路)を保存できるようになるかもしれない。
Suami博士はこうも述べる。「リンフォソームの概念は、リンフォシンチグラフィーをさらに正確に解釈して癌の転移を診断し、血管柄付きリンパ節移植に適したリンパ節ドナー部位を特定するための枠組みとなるでしょう」。
リンパ系に対する理解を深めることで、外科医がより効果的に外科治療でリンパ浮腫の症状を低減、あるいは解消するのに役立つ。今の段階でも、Nguyen博士はこう述べている(国際リンパ学会の合意声明の言い換え)「顕微鏡下手術は、現在行える治療の中で最も治癒に近づける治療法です」。
参考文献
Chang DW, Suami H, Skoracki R. A prospective analysis of 100 consecutive lymphovenous bypass cases for treatment of extremity lymphedema. Plast Reconstr Surg. 2013;132:1305-1314.
【上段写真キャプション訳】
リンパ管バイパス術では、直径1 mmに満たない細いリンパ管を並走する静脈に吻合する。
【中段写真キャプション訳】
(左、図中央)腋窩への血管柄付きリンパ節移植が深下腹壁動脈穿通枝皮弁による乳房再建と同時に行われている。吻合部位を緑の背景で強調した。(右)術後血管造影により血管柄付き移植片への血流が認められた。
【下段写真キャプション訳】
Hiroo Suami博士が統括する研究では、献体のリンパ管への放射線不透過造影剤によるCTスキャンデータの3次元復元(左)を用いてリンパ経路マッピングを行っている(右)。© 2014 Hiroo Suami許可を得て使用。
— Luanne Jorewicz
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