OncoLog 2014年7月号◆分子標的薬の副作用は作用機序によって異なる
MDアンダーソン OncoLog 2014年7月号(Volume 59 / Number 7)
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分子標的薬の副作用は作用機序によって異なる
細胞傷害性化学療法の主な副作用は悪名高い。しかし、比較的新しい分子標的薬の場合、その副作用はあまり知られていない。このため、分子標的薬の投与を受ける患者がどのような副作用があるかを知らない可能性もあり、これまで以上に医師の指導が必要になることも考えられる。
分子標的療法は、正常な機能を維持しつつ、発癌シグナル伝達経路を阻害するように設計され、これにより、さまざまな種類の癌の治療が改善した。しかし、分子標的薬は、癌細胞に限らず、正常細胞の増殖にも必要な伝達経路を阻害することが多く、非特異的な作用をもたらす。このような毒性作用のほとんどが、従来の細胞傷害性薬剤の毒性作用とは特徴が異なる。
広く使用されている多くの分子標的薬には、共通の副作用が認められる。最も頻繁に認められる副作用が疲労および発疹で、さまざまな分子標的薬から生じる可能性がある。このほか、胃腸作用、特に下痢や、口内炎または粘膜炎として発症することの多い口腔内びらんが、多くの分子標的薬に典型的なものである。下痢は、上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害薬または多標的チロシンキナーゼ阻害薬の投与を受ける患者の大部分に発現する。口腔内びらんは、EGFR阻害薬、mTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬または多標的チロシンキナーゼ阻害薬の投与を受ける患者にかなりの割合で出現する。
副作用には、多くの分子標的薬に共通するものもあるが、分子標的薬のそれぞれの種類に特有の副作用もある。テキサス大学MDアンダーソンがんセンター一般腫瘍内科助教Sunil Patel医師は「現在では、分子標的薬のクラスおよびその作用機序によって、分子標的薬の毒性プロファイルが、従来以上に予測可能になりました」と話す。
EGFR阻害薬と皮膚科領域の作用
EGFR阻害薬(セツキシマブ、パニツムマブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブなど)の投与を受けるほとんどの患者が、皮膚に似通った有害作用を経験するであろうことが予測される。疼痛および掻痒感(かゆみ)が伴うこともある赤いざ瘡様丘疹(きゅうしん)および膿疱は、EGFR阻害薬投与患者に典型的な症状で、通常、頭皮、顔および体幹上半部に出現する。
EGFR阻害薬に関連する発疹のある患者では、発疹ができた皮膚が二次感染を起こすこともある。このような患者では、ほかにも爪の周囲に感染が起こることもある(爪囲炎)。
発疹がGrade 1または2であれば、通常、副腎皮質ステロイド外用薬や、外用抗生物質または経口抗生物質で治療する。これより重症の発疹は、抗生物質、全身性副腎皮質ステロイドまたはイソトレチノインを用いて治療する。必要であれば、EGFR阻害薬の用量を変更する。このような皮膚科領域の副作用を適切に管理することにより、EGFR阻害薬投与患者のQOLおよび治療遵守が大幅に改善する。
血管新生阻害薬と心血管系への作用
もうひとつのクラスの薬剤で、明確に異なる副作用を起こすものに、血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬(ベバシズマブおよびアフリベルセプト)およびVEGFを標的とする多チロシンキナーゼ阻害薬(スニチニブ、ソラフェニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ[cabozantinib]、パゾパニブ、ポナチニブ[ponatinib]およびバンデタニブ[vandetanib])などの分子標的血管新生阻害薬がある。
血管新生阻害薬は、いずれも心血管系の副作用を引き起こす可能性があり、最も頻度の高い副作用は高血圧症である。このほか、ベバシズマブおよび一部のチロシンキナーゼ阻害薬は、動脈血栓塞栓症のリスクを増大させる。スニチニブおよびパゾパニブは、左室駆出率を低下させる可能性があり、バンデタニブは、補正QT間隔を大幅に延ばす可能性がある。
血管新生阻害薬に関連し、心血管系に及ぼされる作用の一部は、重篤なものになる可能性や、生死にかかわる可能性があるため、ここに挙げた薬剤を投与する場合は、患者を慎重に選択し、モニタリングする必要がある。高血圧症など、既往の心血管疾患は、血管新生阻害薬の投与を開始する前に治療する必要がある。さらに、例えば動脈血栓塞栓症をこれまでに経験したことがあるなど、ハイリスクの患者には、抗凝固薬などの予防的治療の実施を検討する。
他のクラスの分子標的薬の作用
ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)阻害薬も心毒性に関連している。中でもHER2阻害薬トラスツズマブには、中程度の左室駆出率低下リスクと軽度の心不全リスクがある。
エベロリムスなどのmTOR阻害薬の投与を受けている患者は、血糖値の上昇や、前述した口内炎や倦怠感が現れることも多い。間質性肺炎も、mTOR阻害薬で起こりうる毒性作用である。
副作用への対処
分子標的薬の毒性作用への対処は、細胞傷害性のある抗癌剤と同様である。患者の日常生活を制限しない、あるいは健康を脅かさない低グレードの毒性作用は、基本的な治療介入で対処できる。例えば、下痢はロペラミドや、脱臭アヘンチンキ、オクトレオチドで治療できる。しかし、高グレードの毒性作用では、分子標的薬の減量あるいは治療の中断も視野に入れる。
患者に既知の併存疾患がある場合は、ある特定の毒性作用を予測しておく必要がある。患者の治療開始時点での全身状態と治療計画によって、治療開始前に特定の症状への対処が必要となる。例えば、心エコー検査によって患者の心不全リスクが高いと判明した場合、心毒性のある分子標的薬を投与する前に、心機能を改善する薬物を患者に投与する必要がある。
併存疾患と毒性作用の複合作用が、患者の癌治療薬の選択に影響を及ぼすことがある。同様に、他の併用治療の毒性作用と分子標的薬の毒性作用が重なることも予期しておく必要がある。
ほとんどの分子標的薬は、登場から数年しか経っていないため、長期にわたる毒性作用のデータが存在しない。ただし、一般に治療が終わると毒性作用も治まる。例外は末梢神経障害であり、細胞傷害性の薬物だけでなく、プロテアーゼ阻害薬ボルテゾミブなどある種の分子標的薬でも発現する。薬物関連の神経障害は、ほとんどの場合、時間が経つにつれて消散または改善するが、治療終了から6~12カ月経過しても神経障害が残ることもあり、一生患わされることもある。慢性神経障害は、理学療法、鎮痛クリーム剤、非ステロイド性抗炎症薬、オピオイドで治療するが、完全に回復させることはできない。
さまざまなアプローチ、さまざまな作用
神経障害や倦怠感など一部の副作用は、分子標的薬と細胞傷害性薬物のいずれによっても起こるが、両者の毒性プロファイルの違いは、臨床的に違う意味を持つことがある。
細胞傷害性の化学療法治療歴のある患者でも、初めて分子標的薬の治療を受ける場合には、予測できない違いがあるかもしれない。例えば、細胞傷害性の薬物は白血球数をしばしば低下させるが 、分子標的薬の中には血球数に影響を及ぼさないものもある。このため、一部の分子標的薬では、細胞傷害性の薬物と比べて治療中の感染リスクはあまり心配しなくてよい。
だからといって、分子標的薬の副作用が常に化学療法の副作用よりも軽度であると考えるべきではない。症状研究科(Department of Symptom Research)の教授・主任のCharles Cleeland博士によると、「分子標的薬の副作用は細胞傷害性の薬物より必ずしも小さいわけではないことがわかってきています。両者は単に副作用プロファイルが異なるのです」。
次々と登場する分子標的薬を有効に使うには、癌に至る複数の経路を知ることだとPatel医師はいう。「結局のところ、原発の組織が何であっても、さまざまな癌細胞でどの経路のスイッチがオン/オフになるかは、治療のアプローチを決めるだけでなく、治療が必要になる多くの標的外の作用を決めるのです」。
— Sarah Bronson
【上部画像キャプション訳】
上皮増殖因子受容体阻害薬による癌治療を受けている患者に認められる丘疹膿疱性の発疹。写真提供 Anisha B. Patel医師
【下部画像キャプション訳】
Von Frey式フィラメントは触刺激への感受性を計測するものであるが、癌治療後の患者のフォローアップ来診時に神経障害の評価に使用するツールのひとつである。神経障害は、細胞傷害性の化学療法薬だけでなく、一部の分子標的薬にもみられる副作用である。
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