一部のメラノーマ、乳がん、膀胱がんで術前/術後の免疫療法薬投与により長期生存が改善
体の免疫系ががん細胞を認識して破壊できるようにすることで効果を発揮する免疫療法薬により、進行メラノーマ(悪性黒色腫)患者の長期全生存率が改善したという大規模国際共同試験の結果がESMO 2024で報告された(1,2)。研究者らはこれまでで最長の追跡調査を主導し、免疫療法薬が奏効した患者には治癒の可能性があることを示唆している(1)。ESMO 2024で報告された他の臨床試験では、早期の治療困難な乳がん(トリプルネガティブ乳がん)の女性患者および筋層浸潤性膀胱がん患者に対し、手術前後に免疫療法薬を投与することで長期生存率が改善することが示された(3,4)。
「これらの研究からの主なメッセージは、免疫療法薬がさまざまな種類のがん患者にとって長期生存の約束と希望であり続けているということです」とAlessandra Curioni-Fontecedro医学博士は語った。同氏はスイスのフリブール大学の腫瘍学教授かつフリブール病院の腫瘍科長であり、この研究には関与していない。「ESMO 2024では、免疫療法薬が長期にわたって有効であることを示す、さまざまながんを対象とした多くの研究が発表されています」。
抗プログラム細胞死 (PD)-1抗体をベースとした免疫療法薬の第3相臨床試験の結果、進行メラノーマ患者で長期生存に対する継続した有益性が示された(1)。 CheckMate 067試験でニボルマブ(販売名:オプジーボ)とイピリムマブ(販売名:ヤーボイ)の併用免疫療法に無作為に割り付けられた患者では、少なくとも10年間の追跡調査後の全生存期間中央値は71.9カ月(約6年)であった。抗PD-1抗体ベースの初回の免疫療法薬に対して良好な反応を示し、少なくとも3年間病勢進行が認められなかった患者で、10年の時点にメラノーマで死亡していた患者はほとんどいなかった(10年メラノーマ特異的生存率96%)。研究者らは、これらの治療に反応する患者には治癒の可能性があることを示唆した。
「本試験の結果から、進行メラノーマ患者において免疫療法薬による治癒の可能性が確認されました」と、Marco Donia医学博士は同意した。同氏はデンマーク、コペンハーゲン大学病院Herlev、デンマーク国立がん免疫療法センターの臨床腫瘍学准教授であり、同氏も本試験の著者ではない。「3年を超えても病勢進行がみられない患者については、この長期的な結果は、患者のほとんどが進行しないことを示しています。この患者集団では、メラノーマ特異的生存率が非常に高いです」と付け加えた。
「重要なことに、免疫療法薬による長期生存の有益性は、臨床試験以外の日常臨床でもみられています」とDonia氏は続けた。「免疫療法薬は、以前は生存期間中央値が1年未満という致命的な疾患であった進行メラノーマを、患者の半数が何年も生存するという今日の姿に変えました」。この事実は、長期的な検査が必要かどうかなど、これらの患者をどのように追跡調査するのが最善かについて、実際的な問題を提起している。「また、治療終了後5年間がんが再発していない状態が続いた後、元がん患者の 『忘れられる権利 』が支持されています。そのため、融資を受ける際に一般の人々と比べて差別を受けることはありません」。
免疫療法薬による全生存期間の延長は、早期のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)や筋層浸潤性膀胱がんでも報告されている。トリプルネガティブ乳がんは、エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体を持たず、HER2値も上昇しないため、一般的に使用されている乳がん治療が奏効せず、治療が特に困難である。試験の結果、術前に免疫療法薬と化学療法を併用し、術後も免疫療法薬を継続することにより、統計学的に有意かつ臨床的に意味のある全生存期間の延長が認められた。5年全生存率は、免疫療法薬群で86.6%およびプラセボ群で81.2%であった(3)。
「この試験は、以前は化学療法しか行えなかった最も悪性度の高い乳がんサブタイプの患者において、免疫療法薬により改善が認められたことを示しています」とCurioni-Fontecedro氏は述べた。「われわれは、乳がんは免疫療法薬単独には反応しないかもしれないと考えていましたが、手術前に化学療法と併用し、さらに手術後に免疫療法薬を投与することで、多くの患者で全生存期間が延長しています。今回の知見は、これらの治療を併用することでトリプルネガティブ乳がんを免疫療法薬に感作できる可能性を示唆しています」。
筋層浸潤性膀胱がん患者を対象とした試験でも、手術前に免疫療法薬を投与することで全生存期間に同様の改善がみられた。第3相NIAGARA試験では、デュルバルマブ(販売名:イミフィンジ)による免疫療法と化学療法の後に根治的膀胱全摘除術を行い、その後免疫療法薬を継続する群と、術前に化学療法のみを行う群に患者を無作為に割り付けた。免疫療法薬を投与された患者は、化学療法のみを受けた患者と比較して、無イベント生存期間[ハザード比0.68(95%信頼区間0.56-0.82)、p<0.001]および全生存期間[ハザード比0.75(95%信頼区間0.59-0.93)、p=0.0106]が有意に延長した(4)。研究者らは、手術前に免疫療法薬を投与することによって根治的膀胱全摘除術が受けられなくなることはなく、免疫療法薬群の88%および対照群の83%で根治的膀胱全摘除術が完了したと述べている。
免疫療法薬の研究の将来について、Curioni-Fontecedro氏は次のように述べた。「私たちにはまだ答えの出ていない大きな疑問があります。ひとつは、初回の免疫療法薬が奏効したにもかかわらず、一部の患者でがんが再発する理由の解明です。一部の患者で免疫療法薬に対する耐性が発生する仕組みは、まだわかっていません。これらの患者で何が起こっているのか、耐性のメカニズムは何なのか、そしてそれを克服するにはどうすればよいかを理解する必要があります」。同氏は、臨床研究者と製薬会社が協力して、免疫療法薬に対する耐性の問題に効果的に取り組むことが重要であると示唆した。「耐性という問題を、個々の免疫療法薬について単独で調査している限り、十分ではありません。私たち全員が力を合わせて理解を深め、将来に向けてより良い治療を推進する必要があります」。
参考文献
- Larkin J, Chiarion Sileni V, Gaudy Marqueste C et al. 10-y survival outcomes from the phase 3 CheckMate 067 trial of nivolumab plus ipilimumab in advanced melanoma. LBA43, presented at the ESMO Congress 2024 (13-17 September), Mini Oral Session on Sunday, 15 September, 14:45-16:25 (CEST) in the Oviedo Auditorium - Hall 3.
- Robert C, Carlino MS, McNeil C et al. Pembrolizumab vs ipilimumab in advanced melanoma: 10-year follow-up of the phase 3 KEYNOTE-006 study. LBA44, presented at the ESMO Congress 2024 (13-17 September), Mini Oral Session on Sunday, 15 September, 14:45-16:25 (CEST) in the Oviedo Auditorium - Hall 3.
- Schmid P, Cortes J, Dent RA et al. Neoadjuvant pembrolizumab or placebo plus chemotherapy followed by adjuvant pembrolizumab or placebo for high-risk early-stage TNBC: overall survival results from the phase 3 KEYNOTE-522 study. LBA4, presented at the ESMO Congress 2024 (13-17 September), Presidential Symposium 2 on Sunday, 15 September, 16:30-17:50 (CEST) in the Barcelona Auditorium - Hall 2.
- Powles TB, van der Heijden MS, Galsky MD. A randomized phase 3 trial of neoadjuvant durvalumab plus chemotherapy followed by radical cystectomy and adjuvant durvalumab in muscle-invasive bladder cancer (NIAGARA). LBA5, presented at the ESMO Congress 2024 (13-17 September), Presidential Symposium 2 on Sunday, 15 September, 16:30-17:50 (CEST) in the Barcelona Auditorium - Hall 2.
- 監修 高濱隆幸(腫瘍内科・呼吸器内科/近畿大学病院 ゲノム医療センター)
- 記事担当者 坂下美保子
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- 原文掲載日 2024/09/15
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