JAK阻害薬併用による免疫チェックポイント阻害薬の効果向上が2つの臨床試験で示される

2つの臨床試験で、炎症を抑制する薬剤に、一般的な免疫療法薬の効果を向上させる可能性があることが明らかになった。1つは肺がん患者、もう1つはリンパ腫患者を対象とした2つの試験において、免疫チェックポイント阻害薬にJAK阻害薬を追加したところ、参加者の半数以上で腫瘍が縮小した。

免疫チェックポイント阻害薬は数十種類のがんに対する標準治療であるが、通常、奏効するのは投与を受けた患者の15%から60%にすぎない。しかし、これらの治療薬が効いた場合、転移性腫瘍を消失させ、何年も再発させないという驚くべき効果をもたらすこともある。

過去10年間、研究者らはこれらの治療薬をより多くの患者に効かせる方法を模索し続けてきた。今回の最新研究では、研究者たちはJAK阻害薬に可能な役割を探った。JAK阻害薬は、慢性炎症を抑制し、関節リウマチや乾癬のような炎症性疾患や自己免疫疾患の治療に用いられている。

研究結果が印象的な理由はいくつかあると専門家らは言う。肺がんの臨床試験では、免疫チェックポイント阻害薬単独で通常認められるよりもかなり多くの参加者で腫瘍縮小が認められた。また、リンパ腫の試験では、すべての参加者が過去に免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けたが、それらは既に奏効しなくなっていた。両試験の結果は6月21日付のScience誌に発表された。

今回の研究では、JAK阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬が相乗効果を示す理由も明らかになった。免疫チェックポイント阻害薬は、がんを殺す免疫細胞(T細胞)を活性化させる。また、JAK阻害薬は燃え尽きたT細胞を再活性化し、免疫チェックポイント阻害薬が腫瘍に対抗するT細胞のターボチャージャーとなる舞台を整えることも今回の研究で示された。

NCI統合がん免疫学研究所のGrégoire Altan-Bonnet博士によれば、これらの知見は重要な傾向を浮き彫りにしているという。いずれの試験にも関与していないAltan-Bonnet博士は、「われわれの知識や技術は[がんに対する]免疫反応を操作する方法において、ますます高度化しています」と述べた。

この2つの試験が対象とした患者は、がん種が異なり、治療に用いたJAK阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬も、各薬剤の投与タイミングも異なっていた、と肺がん試験主導者の一人であるAndy Minn医師は指摘した。

「とはいえ、私たちが2つの試験で同じ結論に達したことは実に驚くべきことであり、大変意欲がわいてきて、何かを掴みかけているという希望が生まれました」と、ペンシルバニア大学ペレルマン医学部のMinn医師は話す。同医師は、Mark Foundation Center for Immunotherapy, Immune Signaling, and Radiationのセンター長である。

しかし、この併用療法について学ぶべきことはまだたくさんあると、このリンパ腫研究の主導者であるカリフォルニア・スクリプス研究所のJohn Teijaro博士は言う。「この併用療法が作用する仕組み、患者にとって最良の治療方針、最適なJAK阻害薬、投与すべき時期、投与量などを理解するまでにはまだ長い道のりがあります。これらはすべて、検討が必要な未解決の問題なのです」。

腫瘍の炎症にはタイミングが重要

JAK阻害薬の標的であるJAKタンパク質は、炎症や免疫細胞の活性など、多くの細胞機能を制御する糸を引く操り人形使いのようなものである。そして、免疫チェックポイント阻害薬が登場すると、研究者らはすぐに、JAKタンパク質がこれらの薬剤の作用にも不可欠であるという証拠をたくさん集めた。

そのためこれまでは、JAK阻害薬でJAKタンパク質をブロックしても、免疫チェックポイント阻害薬の効果が低下するだけだと考えられていた。

しかし、Minn医師とTeijaro博士は、その正反対のことも起こりうることを発見した。Minn医師のグループは、免疫チェックポイント阻害薬治療後に再び増殖したマウスの腫瘍において、JAK制御遺伝子の活性が高いことに気づいた。そしてTeijaro博士のチームは、JAK阻害薬が、がん細胞を殺傷するキラーT細胞を復活させることを発見した。

「この逆説的な方向性を示唆するデータが、多数得られていました」とMinn医師は言う。研究者らは新しいアイデアにたどり着いた。もし、JAKタンパク質と免疫チェックポイント阻害薬に関して、タイミングが重要だとしたらどうだろうか?

Minn医師は、「そして、その答えが判明し、私たちはそれが正しいと考えています」と言う。

研究者らは、JAKタンパク質が引き起こす最初の短い炎症がT細胞を活性化し、免疫チェックポイント阻害薬によってT細胞が腫瘍に対して解き放たれる準備が整うのではないかと考えている。しかし、JAKタンパク質が無限ループでシグナルを送り続けると、慢性炎症が起こり、がん殺傷T細胞は燃え尽きる(T細胞疲弊)。慢性的に炎症を起こしている腫瘍を免疫チェックポイント阻害薬で治療することは、電池切れのおもちゃの「オン」ボタンを押すようなものである。

そこで両研究グループは、免疫チェックポイント阻害薬が働くために必要な最初の火種を温存しながら、JAK阻害薬が慢性炎症の炎を抑えることができるかどうかを確かめることにした。

免疫チェックポイント阻害薬の救済

両グループの研究者はまず、さまざまな種類のがんを移植したマウスで併用療法を検討した。JAK阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬を併用すると、どちらか一方の薬剤を単独で使用した場合よりも、腫瘍の増殖が大幅に抑制されることが両チームで明らかになった。

この結果を受けて、Minn医師らは転移非小細胞肺がん患者21人を対象とする臨床試験を開始した。患者全員に免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)とJAK阻害薬itacitinib[イタシチニブ]を併用投与した。 

この治療により、21人中14人(67%)の腫瘍が部分的または完全に縮小した。そして、中央値で2年以上、腫瘍の増殖を抑制した。これに対し、別の臨床試験では、転移非小細胞肺がんの初回治療としてペムブロリズマブを投与された患者において、腫瘍の縮小が確認されたのは半数に満たなかった。また、腫瘍が縮小した患者のうち、治療によって腫瘍の増殖が止まるのは通常わずか数カ月間である。

Teijaro博士らは、ホジキンリンパ腫患者19人を対象とした臨床試験でJAK阻害薬ルキソリチニブ(販売名:ジャカビ)と免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(販売名:オプジーボ)を試験していたミネソタ大学の研究者らと連携した。参加者は全員、過去に免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けていたが、効果がなかったか、あったとしてもわずかであった。

免疫チェックポイント阻害薬がホジキンリンパ腫患者に効かない場合、残された治療選択肢はほとんどないとTeijaro博士は指摘する。「患者の腫瘍は、その時点でほとんどの薬剤に耐性を獲得しています。こうした患者たちは、治療が実に難しいです」。

しかし、ルキソリチニブとともにニボルマブを再導入したところ、10人(53%)で腫瘍が縮小し、そのうち6人は腫瘍が完全に消失した。試験開始から2年後、参加者の46%ではがん再発(病勢進行)の徴候がなかった。対照的に、ニボルマブ単独療法が効かなくなった後にニボルマブと別の薬剤を投与されたリンパ腫患者の小規模臨床試験では、2年無増悪生存率は23%であった。

副作用は2つの試験でほとんどみられず、リンパ腫の試験では副作用のために治療中断を余儀なくされた患者は一人もいなかった、とスクリプス研究チームのもう一人のメンバーであるJaroslav Zak博士は言う。

「ルキソリチニブでよくみられる貧血でさえも、これらの患者のほとんどでみられず、治療を中止しなければならないほど重篤な[血液細胞に関連した]副作用もありませんでした」と付け加えた。 

T細胞と骨髄細胞の活性化

研究者らがさらに詳しく調べたところ、いずれのグループでも、併用療法によって患者とマウスの両方でさまざまな免疫細胞の数と活性が大幅に変化していた。

期待通り、この治療により多くの患者で活性化したT細胞の数が増加した。しかし、新たなデータから、患者のT細胞が完全に疲弊している場合、JAK阻害薬の効果には限界があることが示唆されたとAltan-Bonnet博士は指摘し、これが、この併用療法が誰にでも効くわけではない理由と考えられる。

JAK阻害薬は、疲弊したT細胞を助ける以上の働きもあるようだとZak博士は言う。リンパ腫の臨床試験では、特に腫瘍が完全に消失した患者において、この治療は「骨髄系細胞にさらに劇的な変化をもたらした」と博士は述べた。

骨髄系細胞は、T細胞を抑制したり、T細胞の増殖を助けたりする免疫細胞である。JAK阻害薬はその天秤を傾け、骨髄系細胞を有害なものよりも有用なものへと押し上げたのである、と彼は説明した。

これらの結果は、「がん治療における骨髄系(細胞)調節への期待」を高めるものである、とZak博士は述べた。「チェックポイント阻害薬、CAR-T細胞療法、養子T細胞療法を用いたT細胞の調節に関しては、本当にうまくいっています。一方で、骨髄系細胞の調節に関しては、はるかに遅れていると思います。しかし、これらの細胞が免疫療法の成功にとっていかに重要であるか認識しています」。

特定の免疫細胞に関するこれらの知見は、最終的には免疫療法薬の最適な投与量とタイミングについて、研究者がより多くを学ぶのに役立つだろう、と国立関節炎・筋骨格系・皮膚疾患研究所のMassimo Gadina博士とJohn O'Shea医師は、本研究の解説文で述べている。

  • 監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/08/08

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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