OncoLog2013年8月号◆癌標的療法が放射線抵抗性を克服する可能性

MDアンダーソン OncoLog 2013年8月号(Volume 58 / Number 8)

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癌標的療法が放射線抵抗性を克服する可能性

一部の癌細胞は、放射線療法によって生じるDNAの損傷に耐えて修復するだけの回復力を持つ。しかし、最近の研究では、放射線療法に分子標的薬を加えることで、この放射線誘発損傷の修復を妨げ、特定の癌患者の治療効果を改善できることが示されている。

より強く持続的な効果

放射線はDNAを損傷することにより癌細胞を破壊することを意図したものであるが、DNAはしばしば修復されることがあり、その結果、治療効果が一時的なものとなってしまう。一部のケースでは、放射線が逆に上皮成長因子受容体(EGFR)のような発癌遺伝子の発現を増加させ、放射線に対する抵抗性が生じる。しかし、EGFR阻害薬のセツキシマブのように癌の増殖やDNA修復の中心となるタンパク質を阻害する薬剤によって、DNA修復を阻害し、癌の放射線に対する感受性を高めることができる。

「DNAを損傷させる放射線療法は、損傷したDNAの修復を阻害する標的治療薬と併用することが可能です」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター放射線腫瘍科の助教であるJames Welsh医師は述べた。Welsh医師は、これまで癌の放射線抵抗性の克服に標的治療薬を用いる複数の研究を主導してきた。実際に、放射線療法にセツキシマブを加えたところ、頭頸部癌患者の全生存期間が延長することが示されている。

臨床試験によれば、PARP1(DNA損傷の修復に関与するタンパク質)の阻害薬は、癌細胞の放射線感受性を選択的に高める可能性も持つ。MDアンダーソンがんセンターをはじめとする医療機関では、PARP1阻害薬のベリパリブ(veliparib)と放射線療法を併用してさまざまな癌を治療する臨床試験を計画中または実施中である。

もうひとつの有望な治療標的は、細胞浸潤を可能にする肝細胞増殖因子受容体c-Metである。最近の研究では、過去の放射線療法によってc-Metの高発現が誘発された非小細胞肺癌細胞で、c-Met阻害薬であるMK-8033により放射線感受性が高まった。

放射線増感療法は、腫瘍が食道や大動脈、脳のような放射線感受性が高い組織に近接しているために高線量を投与することが困難な場合には特に有用である。「不必要な損傷を避けるために、生物学的アプローチを用いて腫瘍細胞を特異的に増感し、正常細胞に対する毒性を増加させることなく放射線の有効性を高めることができます」とWelsh医師は述べた。

標的治療薬を用いることで、治療によって得られる利益と起こりうる副作用の重症度との間の比(すなわち、治療可能比)が高まる。Welsh医師の主導による最近の研究では、対象とした非小細胞肺癌からの脳転移患者で、EGFR阻害薬のエルロチニブと放射線との併用療法により治療利益が得られた。エルロチニブ(血液脳関門を通過することのできる小分子化合物)は、DNA修復、抗アポトーシス経路および増殖を阻害する。脳転移患者の全脳照射療法にエルロチニブを加えたところ、全生存期間中央値が11.8カ月となり、既存対照の3.9~6.0カ月と比べて有意な改善を示した。両治療群とも、EGFR遺伝子変異のある患者の方が、変異のない患者よりも生存期間中央値が有意に長かった。

Welsh医師によれば、同一タイプの癌であっても、ある種の遺伝子変異を有する腫瘍の方が、その他の腫瘍に比べて標的治療薬と放射線の併用療法に対する感受性が高く、むしろこうした治療の多くは特定の変異を有する癌に対してのみ有効であるという。しかし、最近の遺伝子配列技術の進歩に伴い、研究者らはこの種の併用療法に適した癌を特定しうる標的変異をますます多く発見しつつある。

また、Welsh医師は、癌の放射線に対する感受性を高め、放射線療法による治療効果を改善するのに標的療法を用いることは、最新技術を利用することができない世界の国々でより効果的であると述べた。「放射線療法は高価な技術です」とWelsh医師は述べた。「とくに発展途上国では、陽子線治療や強度変調放射線療法のような標的に対して正確に放射線を照射できる設備や専門知識がなかったり、経済的に入手が不可能であることが多い。しかし、放射線に生物学的療法を加えることで、標準的な放射線治療技術による転帰を改善できる可能性があるのです」。

遠隔制御の可能性

ごく少数の症例では、放射線療法とモノクローナル抗体または免疫療法との併用で、免疫システムの利用により進行癌の局所制御だけでなく、遠隔的な全身制御も達成されている。放射線は非照射部位への効果と呼ばれる現象を通じて癌細胞に特異的な抗原を誘発し、T細胞に照射野外の癌細胞を攻撃するよう刺激を与える。

免疫療法剤は、癌細胞が宿主の免疫システムから身を守る典型的なメカニズムに反撃を加え、全身の癌細胞を腫瘍特異的T細胞に対して脆弱にする。したがって、進行癌患者では、原発腫瘍と転移病巣のいずれも、免疫療法との併用による原発腫瘍の局所照射に効果を示す可能性がある。

非照射部位への効果は、黒色腫、リンパ腫および腎癌の限られた症例にみとめられている。例えば、転移性黒色腫患者数人の症例報告では、イピリムマブ(ipilimumab)と定位的放射線照射による治療によって、照射部位だけでなく非照射部位の腫瘍も縮小している。

Welsh医師によれば、非照射部位への効果によって細胞毒性療法を単独で行うよりも持続的な効果が得られる可能性もあるという。「この種の治療効果をよりよく理解することによって、将来的には化学療法への依存を減らすことができると思われます」とWelsh医師は述べた。「T細胞は特定の癌細胞を攻撃するよう刺激を受けると体内にとどまり、患者を新たな癌細胞の発生から守ることができると考えられます」。

胸部・頭頸部腫瘍内科の助教であるLauren Byers医師は、免疫療法についても、成長経路を標的とした薬剤との併用により、免疫システムが癌細胞を認識し攻撃するのを促す研究が行われていると付け加えた。概して、癌細胞を標的とする治療は、放射線療法やその他の治療に抵抗性の癌患者に利益をもたらす可能性がある。

患者の選択

標的療法と放射線療法の併用は、標的治療薬が使用可能な遺伝子変異または異常タンパク質がみとめられる癌患者を対象に研究されている。現在数多くの標的治療薬が存在するが、その中にはまだ放射線療法との併用試験が実施されていないものもある。

さらに、標的治療薬と放射線療法の併用試験に適切な変異を有する十分な数の患者を組み入れることは困難である。研究者らは、肺癌脳転移のような一定の条件を満たす患者を見つけ出すことに加え、EGFR変異非小細胞肺癌からの脳転移といった、より選択的な基準に適う患者を対象とした研究を必要とすることもある。Welsh医師は、最近の臨床試験でEGFR阻害薬と放射線療法による治療を受けた患者グループについて、「小集団の中の小集団の、さらに小集団に属する患者」であると述べた。

さらに、Bayer医師によれば、急激に加速する標的治療薬の開発によって、増加の一途をたどる癌患者に対し、より個別化された治療が可能になりつつあるという。肺癌を例にとれば、「現時点で肺癌の約20%は、すでに承認された標的治療薬の使用が可能な変異を有しています。RET阻害薬やBRAF阻害薬のような一部の新しい薬剤に関しては、変異を有する患者のどれだけが利益を得られるかまだ完全には把握していませんが、こうしたギャップを埋めるための臨床試験が現在進行中です。多くの種類の癌で、より多くの変異に対し標的治療薬が利用可能となるのは遠い未来のことではなく、それらの薬剤の一部は放射線療法の効果を強化できると思われます」とByers医師は述べた。

新たな標的

腫瘍細胞および血管増殖、DNA修復、また癌の増殖や拡散に不可欠なその他のプロセスを標的とした新種の医薬品が急速に開発されつつある。特定された治療標的が多くなるほど、臨床試験で用いることのできる標的治療薬と放射線療法の組み合わせが増えることになる。「複数のタンパク質グループが連携してDNA修復を引き起こすことから、私たちはDNA修復経路上のさまざまな場所を攻撃した場合の影響を試験しています」とByers医師は述べた。

また、患者の癌に分子レベルで治療を適合させることにより、従来一つまたは二つの特定の癌の治療のみに用いていた既存薬剤を新たな形で使用することが可能となる。例えば、乳癌治療でHER2細胞表面受容体を阻害するのに用いるモノクローナル抗体、トラスツズマブは、一部の食道癌患者の放射線療法による転帰を改善することもある。

しかし、標的治療薬が提示する治療の可能性の多くは、有効で安全な治療法とするために範囲を狭める必要がある。新しい標的治療薬を単独投与および放射線療法、化学療法、または他の標的治療薬と併用する臨床試験で特定の癌の主要標的を検証しなければならない。また、薬剤を放射線療法の前と後のどちらに投与すべきかといった二つの異なる治療法の実施スケジュールを決める必要がある。

研究者らが対処すべきもう一つの懸念は、薬剤と放射線療法の併用によって、どちらかの治療を単独で行った場合には生じない合併症が起こりうることである(ベバシズマブと放射線療法の併用による気管食道瘻など)。

「多くの新たな標的が明らかになり、患者の腫瘍に関する多くの新たなデータが入手されるのは非常に心が躍ることです」とWelsh医師は述べた。「しかし、これらの薬剤の適切な使用法を解明することは、安全かつ有効な形で治療を行うにはどうすべきかを知るために、私たちが組織立った研究で系統的に取り組まねばならない課題なのです」。

参考文献

Bonner JA, Harari PM, Giralt J, et al. Radiotherapy plus cetuximab for squamous cell carcinoma of the head and neck. N Engl J Med. 2006;354:567–578.

Bhardwaj V, Zhan Y, Cortez MA, et al. c-Met inhibitor MK-8033 radiosensitizes c-Met–expressing non–small cell lung cancer cells with radiation-induced c-Met expression. J Thor Oncol. 2012;7:1211–1217.

Welsh JW, Komaki R, Amini A, et al. Phase II trial of erlotinib plus concurrent whole-brain radiation therapy for patients with brain metastases from non–small cell lung cancer. J Clin Oncol. 2013;31:895–902.

— Sarah Bronson

【キャプション訳】
[上段]「DNAを損傷させる放射線療法は、DNAの修復を阻害する標的治療薬と併用することが可能です」
-James Welsh医師
[中段]「私たちは癌細胞のDNA修復経路上のさまざまな場所を攻撃した場合の影響について試験しています」
-Lauren Byers医師
[下段]「生物学的アプローチを用いて、腫瘍細胞を特異的に増感し、正常細胞に対する毒性を増加させることなく放射線の効果を高めることが可能です」
-James Welsh医師

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翻訳担当者 原 恵美子

監修 中村光宏 (医学放射線/京都大学大学院医学研究科)

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