従来の腫瘍生検に比べ、癌のドライバー遺伝子変異のスクリーニング血液検査ではより包括的な情報が得られる

• 精密な血液DNA検査により、より有益な癌遺伝子変異の概要を得た
• 血液検査では同一患者の腫瘍サンプルを検証するより詳細な全体像を得られた。
• 血液検査に基づく遺伝子変異の概要は標的治療の個別化に役立つ可能性がある
• 血液検査は癌の標準治療の一部となる可能性がある

研究者らは、BEAMingと呼ばれる技術(患者の血液サンプル中に癌のドラーバー遺伝子変異を検出することができる)を用い、消化管間質腫瘍(GIST)患者を治療するのに用いられた治療に対し明らかな効果を示す発癌性変異が同定できたことをワシントンDCで4月6日から10日に開催されたAACR年次総会2013年で発表した。

第III相臨床試験GRID(GIST-Regorafenib In Progressive Disease)のサブ解析のデータから、この血液スクリーニング検査技術により医師は患者の腫瘍の変異を即時かつ包括的に得られる可能性があることをダナファーバー癌研究所Ludwig Centerおよびハーバード医学部(ボストン、マサチューセッツ州)所長のGeorge D. Demetri医師が明らかにした。

「簡単な血液サンプルを用い、癌細胞における全ての異質性をまとめて捉え、かつ全身腫瘍組織量を把握できることはわれわれの研究結果から可能です」とDemetri氏は述べた。

今の標的癌治療の時代では、特定の分子標的に癌治療の照準を合わせることが目標である。しかし、研究者らは癌とその異質性についてさらに詳しく理解するにつれ、多くの患者が腫瘍内の至る所にさまざまな変異を有していることがわかってきた。

「一つの腫瘍の生検を行い、次に同じ患者のその腫瘍から数インチ離れた腫瘍や、身体の反対側にある別の腫瘍を生検する際に、分子解析で異なった結果を得る可能性があるというのは現実の問題です」とDemetri氏は述べた。「この血液検査を用いることにより、体内のさまざまな腫瘍の全ての異なった変異に関する確実な概要を得られます。この検査技術が今後5〜10年で標準治療の一部になると考えています」。

第III相臨床試験GRIDの主な分析のデータによれば、分子標的薬のregorafenibがプラセボと比較しGIST患者に対する無増悪生存期間を大幅に改善することが判明した。Demetri氏によると研究者らは、これらの結果が最終的に米国食品医薬品局(FDA)によるregorafenibの承認につながることを期待している。この薬剤はFDAの承認を受けた、二つのGIST向け治療薬イマチニブおよびスニチニブ(スーテント)により病勢コントロールができない進行GIST患者を治療することを目的としている。

DemetriらはGISTの遺伝子型を評価するためにGRIDの研究で患者の探索的分析を行った。保存腫瘍組織からDNAを単離し、次にイマチニブ、スニチニブおよびregorafenibの標的である癌のドライバータンパク質を生成するKITおよびPDGFRA変異を分析した。研究者は、一次変異は、従来の分析を用いて検出が可能であると確信していたが、イマチニブおよびスニチニブによる治療後に発生した変異は検出不可能だと考えられる。研究者らは次に、試験参加者からイマチニブとスニチニブでの治療が上手く行かなかった後、血液サンプルを採取し、BEAMing技術を用い遺伝子変異の分析をした。

KIT遺伝子の遺伝子変異が腫瘍組織サンプルでは65%検出されたことに比べ、血液サンプルでは60%検出された。しかし、イマチニブとスニチニブのような標的療法への抵抗を促進する変異である二次的なKIT変異の分析に着目した場合、組織サンプルのわずか12%の検出と比べ、血液サンプルで48%の遺伝子変異を見つけた。さらに、二次的なKIT変異が見つかった血液サンプルのほぼ半分で複数の二次的変異が内在していることを発見した。

重要なことに、二次的なKIT変異を有する患者ではプラセボと比べregorafenibが臨床的に有効であった。

Demetri氏によると、この結果は患者の血液サンプル中のさまざまな癌のドライバー遺伝子変異と臨床転帰の間に明らかな関連性があることを示している。

「この技術を使用することにより、将来、最も効果的な治療法で患者を治療するために、一番合理的な薬剤の併用療法、および精度の高い検査方法を開発することを、われわれは期待しています」とDemetri氏は述べた。

# # #

AACRについて
1907年に設立された米国癌学会(AACR)は、世界初かつ最大の専門家組織で、癌研究および癌の予防と治療という使命の推進に尽力している。AACRの会員は、90カ国以上、34,000人にのぼり、基礎研究、トランスレーショナル研究および臨床研究に関わる研究者、人口動態研究者、他の医療従事者および癌患者支援者から成る。AACRは、癌関連のあらゆる分野の専門知識を結集し、年間20以上の学会および教育ワークショップを開催して癌の予防、生物学、診断および治療における進歩を促している。最大の学会はAACR年次集会で、17,000人以上が参加する。さらにAACRはピアレビュー学術誌7誌と癌サバイバー、癌患者、および介護者向けの雑誌を発行している。AACRは、価値ある研究に対して資金を直接提供しているほか、多数の癌関連機関と連携して研究助成金を提供している。AACRは、Stand Up To Cancerの学術パートナーとして、癌患者に利益があると見込まれる個人およびチームの研究について、専門家による査読、資金の管理や授与、科学的な監視を行っている。AACRは、癌から命を守るための癌研究および関連のある生物医学の意義について、議員や政策立案者と積極的に意見交換を行っている。

翻訳担当者 渉里幸樹

監修 東 光久(血液癌・腫瘍内科領域担当/天理よろづ相談所病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん治療に関連する記事

一部のメラノーマ、乳がん、膀胱がんで術前/術後の免疫療法薬投与により長期生存が改善の画像

一部のメラノーマ、乳がん、膀胱がんで術前/術後の免疫療法薬投与により長期生存が改善

体の免疫系ががん細胞を認識して破壊できるようにすることで効果を発揮する免疫療法薬により、進行メラノーマ(悪性黒色腫)患者の長期全生存率が改善したという大規模国際共同試験の結果がESMO...
免疫チェックポイント阻害薬投与後のアバタセプト投与は、抗腫瘍活性を損なうことなく副作用を軽減の画像

免疫チェックポイント阻害薬投与後のアバタセプト投与は、抗腫瘍活性を損なうことなく副作用を軽減

MDアンダーソンがんセンター抗CTLA-4療法や抗PD-1療法などの免疫チェックポイント阻害薬は、多くの患者に劇的な抗腫瘍効果をもたらしてきた。しかし、心筋炎(生命を脅かす可能性のある...
代謝プログラミングと細胞老化におけるMETTL3の新たな役割が明らかにの画像

代謝プログラミングと細胞老化におけるMETTL3の新たな役割が明らかに

MDアンダーソンがんセンターがんを進行させる最も初期のメカニズムを解明する上で特に注目されているのが、細胞老化(細胞が成長を停止するが機能は継続)と呼ばれるストレス応答細胞の状態である...
新たな計算ツールにより、がん進化の複雑な段階がより深く理解可能にの画像

新たな計算ツールにより、がん進化の複雑な段階がより深く理解可能に

MDアンダーソンがんセンターがんが進化するにつれて、遺伝子の変化が蓄積され、その変化を追跡することで、がんの生物学的性質をより詳しく知ることができる。コピー数の変化は、DNAの断片が増...