抗鬱薬サインバルタが化学療法後の疼痛を和らげる可能性

キャンサーコンサルタンツ

イリノイ州シカゴで開かれた2012年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された試験結果によると、抗鬱薬のサインバルタ(デュロキセチン)は、タキサンまたは白金製剤を用いた化学療法に伴う、しびれやうずきを軽減すると考えられる。

末梢神経障害とは四肢(手足)のしびれやうずきをいい、四肢と中枢神経系との間の神経に損傷をきたすことによって起こる。いくつかの化学療法薬は末梢神経障害を引き起こす可能性がある。その症状は日常生活に持続的な影響を及ぼしかねないため、研究者らはこの疼痛を和らげる方法を模索し続けている。

サインバルタはセロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)の一つで、精神のバランス維持に役立ち、脳内の疼痛信号の動きを止める脳内の天然物質であるセロトニンおよびノルエピネフリンを増量させることで作用する。

化学療法誘発性末梢神経障害の疼痛に対するサインバルタの作用を検討するため、研究者らは主に乳癌および消化管癌の生存者で、パクリタキセルまたはオキサリプラチン誘発性末梢神経障害を有する220人の患者を組み入れたランダム化二重盲検試験を実施した。患者にはサインバルタまたはプラセボを無作為に投与した。サインバルタの投与は第1週1日1回30 mgで開始し、その後の4週間は1日1回60 mgに増量した。

治療期間中両群の疼痛スコアは減少したが、サインバルタ群でより大きく減少した。簡易疼痛調査票スコアはサインバルタ群で平均1.09ポイント、プラセボ群で平均0.33ポイント減少した。疼痛減少を報告した患者は、サインバルタ群で59%、プラセボ群で38%であった。臨床的に有意な30%以上の疼痛スコア減少を報告したのは、サインバルタ群患者で約3分の1、プラセボ群患者で17%であった。さらに、疼痛の半減を報告したのは、サインバルタ群患者で21%、プラセボ群で9%であった。

さらに、日常生活における疼痛の影響も改善されたとみられる。障害度スコア(活動、気分、歩行、労働、人間関係、睡眠、および生活の楽しみに与える影響を示すスコア)はサインバルタ群でより大きく減少した。

サインバルタは忍容性に優れているようであった。最もよくみられる副作用は倦怠感であった。

研究者らは、化学療法誘発性末梢神経障害の疼痛はサインバルタの服用により顕著に減少したと結論付け、サインバルタは臨床試験で慢性神経障害に対する作用が認められた最初の薬剤であると言及した。ガバペンチンなどの他のいくつかの薬剤は、神経障害に有効であることが明らかになったが、傾眠または重度の眠気を伴う。サインバルタは眠気を伴わないため、神経障害に苦しむ人々にとって有益であることが示された。

参考文献:
Smith EML, et al. CALGB 170601: A phase III double blind trial of duloxetine to treat painful chemotherapy-induced peripheral neuropathy (CIPN). Presented at the 2012 annual meeting of the American Society of Clinical Oncology, June 1-5, 2012, Chicago, IL. Abstract CRA9013.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 可部真知子

監修 関屋 昇(薬学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん治療に関連する記事

一部のメラノーマ、乳がん、膀胱がんで術前/術後の免疫療法薬投与により長期生存が改善の画像

一部のメラノーマ、乳がん、膀胱がんで術前/術後の免疫療法薬投与により長期生存が改善

体の免疫系ががん細胞を認識して破壊できるようにすることで効果を発揮する免疫療法薬により、進行メラノーマ(悪性黒色腫)患者の長期全生存率が改善したという大規模国際共同試験の結果がESMO...
免疫チェックポイント阻害薬投与後のアバタセプト投与は、抗腫瘍活性を損なうことなく副作用を軽減の画像

免疫チェックポイント阻害薬投与後のアバタセプト投与は、抗腫瘍活性を損なうことなく副作用を軽減

MDアンダーソンがんセンター抗CTLA-4療法や抗PD-1療法などの免疫チェックポイント阻害薬は、多くの患者に劇的な抗腫瘍効果をもたらしてきた。しかし、心筋炎(生命を脅かす可能性のある...
代謝プログラミングと細胞老化におけるMETTL3の新たな役割が明らかにの画像

代謝プログラミングと細胞老化におけるMETTL3の新たな役割が明らかに

MDアンダーソンがんセンターがんを進行させる最も初期のメカニズムを解明する上で特に注目されているのが、細胞老化(細胞が成長を停止するが機能は継続)と呼ばれるストレス応答細胞の状態である...
新たな計算ツールにより、がん進化の複雑な段階がより深く理解可能にの画像

新たな計算ツールにより、がん進化の複雑な段階がより深く理解可能に

MDアンダーソンがんセンターがんが進化するにつれて、遺伝子の変化が蓄積され、その変化を追跡することで、がんの生物学的性質をより詳しく知ることができる。コピー数の変化は、DNAの断片が増...